このところ、中国のニュースで毎日のように見かけるのが、「路怒」(ルーヌー)というキーワードだ。読んで字のごとく、路上での怒りを意味する言葉である。
事の発端は、5月3日に四川省成都市の路上で起こった暴力事件。2台の車がもつれるようにして路上で止まると、前の車から降りてきた男が後ろの車の運転席に駆け寄り、無理やりドアを開けて、運転手を外に引きずり出した。
引きずり出されたのは女性ドライバー。男は路上に倒れ込んだ女性に対し、蹴りを入れるは引きずり倒すはと、激しい暴行を加え、しまいにはつまずいた女性の顔面にまで蹴り入れるという狼藉ぶり。
ちょうどこの場面に出くわした別の車の車載カメラがこの一部始終を撮影しており、これがニュースで流れるや、大きな問題に。しかも、それと前後して立て続けに似たような路上でのドライバーやバイク運転手による暴力事件が各地で起こり、それを伝えるニュースには「路怒」の文字が躍るようになったのだ。
中国東部の安徽省では4月26日、電動バイクを運転していた女性が急に曲がったためにぶつかりそうになった三輪電動バイクの男が女性に近づき、女性の頭部に蹴りを入れてケガをさせ、立ち去るという事件が発生。しかも、蹴られた女性はショックのあまり、翌日自殺してしまうという痛ましい結果となった。
雲南省昆明市では、高速道路の料金所で1台のベンツが割り込みをしたことから争いになり、一人の老人がベンツに轢き殺されるという事件が起こっている。
実はこの「路怒」という言葉はすでに数年前から現れており、そもそもは英語の「road rage(ドライバー激怒症)」を直訳したもの。つまり、この現象は中国特有のものではなく、アメリカでも1980年代終わり頃から問題になっていたのだ。そして今は、同じ現象が中国でも起こり始めているということわけだ。
現地に住むライターの三井和雄氏は、路怒現象についてこのように説明する。
「中国では車の数の増え方がハンパではなく、報道によると、2001年には全国の自動車販売台数は200万台強だったのが、それから13年後の14年には2,300万台以上、つまり11倍にも増え、自動車台数は1.5億台を超えている。この急増ぶりに交通インフラが追いつくはずもなく、各地で渋滞が増える結果となった。ましてや中国人ドライバーの辞書には“譲り合い”などという言葉は存在しないので、『すったの』だの『ぶつかった』だのというのは日常茶飯事。路上に車を止めて言い合っているドライバーたちの姿をよく見かけます。ただ、中国では口論にはなっても、暴力沙汰になることはこれまで少なかった。渋滞などによる路上でのイライラが、“路怒”という過激な行動に走らせているのかもしれません」
増え続ける自動車台数、改善には長い時間がかかる交通インフラの整備、ほとんど絶望的なドライバーの運転マナーの向上。イライラがさらに増大する夏に向けて、「路怒」の事件はこれからも増え続けていくかもしれない。(取材・文=佐久間賢三)
事の発端は、5月3日に四川省成都市の路上で起こった暴力事件。2台の車がもつれるようにして路上で止まると、前の車から降りてきた男が後ろの車の運転席に駆け寄り、無理やりドアを開けて、運転手を外に引きずり出した。
引きずり出されたのは女性ドライバー。男は路上に倒れ込んだ女性に対し、蹴りを入れるは引きずり倒すはと、激しい暴行を加え、しまいにはつまずいた女性の顔面にまで蹴り入れるという狼藉ぶり。
ちょうどこの場面に出くわした別の車の車載カメラがこの一部始終を撮影しており、これがニュースで流れるや、大きな問題に。しかも、それと前後して立て続けに似たような路上でのドライバーやバイク運転手による暴力事件が各地で起こり、それを伝えるニュースには「路怒」の文字が躍るようになったのだ。
中国東部の安徽省では4月26日、電動バイクを運転していた女性が急に曲がったためにぶつかりそうになった三輪電動バイクの男が女性に近づき、女性の頭部に蹴りを入れてケガをさせ、立ち去るという事件が発生。しかも、蹴られた女性はショックのあまり、翌日自殺してしまうという痛ましい結果となった。
雲南省昆明市では、高速道路の料金所で1台のベンツが割り込みをしたことから争いになり、一人の老人がベンツに轢き殺されるという事件が起こっている。
実はこの「路怒」という言葉はすでに数年前から現れており、そもそもは英語の「road rage(ドライバー激怒症)」を直訳したもの。つまり、この現象は中国特有のものではなく、アメリカでも1980年代終わり頃から問題になっていたのだ。そして今は、同じ現象が中国でも起こり始めているということわけだ。
現地に住むライターの三井和雄氏は、路怒現象についてこのように説明する。
「中国では車の数の増え方がハンパではなく、報道によると、2001年には全国の自動車販売台数は200万台強だったのが、それから13年後の14年には2,300万台以上、つまり11倍にも増え、自動車台数は1.5億台を超えている。この急増ぶりに交通インフラが追いつくはずもなく、各地で渋滞が増える結果となった。ましてや中国人ドライバーの辞書には“譲り合い”などという言葉は存在しないので、『すったの』だの『ぶつかった』だのというのは日常茶飯事。路上に車を止めて言い合っているドライバーたちの姿をよく見かけます。ただ、中国では口論にはなっても、暴力沙汰になることはこれまで少なかった。渋滞などによる路上でのイライラが、“路怒”という過激な行動に走らせているのかもしれません」
増え続ける自動車台数、改善には長い時間がかかる交通インフラの整備、ほとんど絶望的なドライバーの運転マナーの向上。イライラがさらに増大する夏に向けて、「路怒」の事件はこれからも増え続けていくかもしれない。(取材・文=佐久間賢三)
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