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ガルシア=マルケス『族長の秋』
去年、新版として出た文庫本で読んだ。
本編は358ページ(?)だけど、
たったのそれだけ!? と思わせるくらいに、
かなり重量感のある読み物だった。
気分的には600ページ以上読んだ心地です。
章立てが成されてるわけじゃないけど、
要所要所に区切りがあって、
それが6箇所あるので、
実質6章立てという構成になると思う。
おもしろいのは、
本のカバーの見返しで
主な登場人物の名前が一覧できるんだけど、
章を進むごとに、
彼らのほとんどがことごとく死んでいく
ということ。
いま、うあ、ネタバレ!と思った人、
大丈夫です、『族長の秋』は
そんな小さなことで面白さが半減してしまうような
つまらない小説じゃありませんので。
というかむしろ、
話をあらかじめ掴んでおかないと、
かなり混乱すると思う。
(これはマルケスが意図してやってるんだと思うけど)
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まず最初に死ぬのが
パトリシオ・アラゴネス。
この物語の主人公である大統領の影武者。
(言い忘れてましたが『族長の秋』は
232歳まで生きたというある国の大統領を主人公にした
とてもおもしろい小説です)
すごくいいキャラだったのに、
序盤でさっそく死んじゃって残念だった。
次に死ぬのが
マヌエラ・サンチェス。
美人コンテストで優勝した女性で、
大統領の初恋の相手。
死ぬというか、正確には
行方不明になってしまう感じ。
3章にてド派手な死を遂げるのが、
ロドリゴ・デ=アギラル。
「大統領の終生の友」と言われた陸軍の中将。
その割には、最終的に凄まじい死に方をするんですが、
これはぜひ実際に本編を読んでみてほしいものです。
ベンディシオン・アルバラドは、
大統領の母親。
ひどいマザコンだった大統領は、
本編中で何度もこの母の名を呼んでます。
しかし、本編で彼が何回、
「ベンディシオン・アルバラドよ」
と言ってるのか、数えた人、いないのかな?
しかしこの母もかなり印象的な死に方をしてた。
なんかよく分からんけど、
ものすごい病気にかかっちゃって、
その描写がジャングルに生えてる植物の名前を
全部列挙していくかのような勢いで、
マルケスのノリノリ感がおそろしい。
レティシア・ナサレノは、
232歳まで生きた大統領の、唯一の正妻。
この人も確かに壮絶な最期だけど、
記述自体は結構あっさりしてる。
というか、あっという間に終わっちゃう感じで。
サエンス・デ=ラ=バラは、
大統領の名前を使って残虐行為を繰り返す男。
実は上流階級の末裔ということで、
ずっと冷血なキャラで通していたのに、
最後になって思わずポロリと本性をあらわしちゃって、
ここらへんは物語の定石をきれいに踏んでて、
さすがはマルケスさんと言わんばかり。
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影武者、初恋の人、親友、
母親、妻、そして殺し屋(?)。
この長編小説は大統領のキャラも魅力的だけど、
脇を固める登場人物の死にっぷりもなかなかの見物で、
作中では、上に挙げた主要人物だけでなく、
様々な人間が、いろんな理由と方法で死んでしまう。
誰一人として退屈な、つまらない死に方をしない。
ぼくはここにマルケスのやさしさを感じる。
せっかく死ぬなら、
読者を楽しませるのに有効活用しようみたいな、
無駄な死をひとつも生まない姿勢に、
感服せずにはいられないわけである。
これだけを取ってみても、
この小説を読む価値があるというものだろう。