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ひからびろ 3.0

密かに輝くラクダとビロード、ロバ。お願いだから、ひからびてほしい。

ガルシア=マルケス『族長の秋』を読んだ。

2012-01-24 | 文学


ガルシア=マルケス『族長の秋

去年、新版として出た文庫本で読んだ。
本編は358ページ(?)だけど、
たったのそれだけ!? と思わせるくらいに、
かなり重量感のある読み物だった。
気分的には600ページ以上読んだ心地です。

章立てが成されてるわけじゃないけど、
要所要所に区切りがあって、
それが6箇所あるので、
実質6章立てという構成になると思う。

おもしろいのは、
本のカバーの見返しで
主な登場人物の名前が一覧できるんだけど、
章を進むごとに、
彼らのほとんどがことごとく死んでいく
ということ。

いま、うあ、ネタバレ!と思った人、
大丈夫です、『族長の秋』は
そんな小さなことで面白さが半減してしまうような
つまらない小説じゃありませんので。
というかむしろ、
話をあらかじめ掴んでおかないと、
かなり混乱すると思う。
(これはマルケスが意図してやってるんだと思うけど)




まず最初に死ぬのが
パトリシオ・アラゴネス
この物語の主人公である大統領の影武者。
(言い忘れてましたが『族長の秋』は
232歳まで生きたというある国の大統領を主人公にした
とてもおもしろい小説です)
すごくいいキャラだったのに、
序盤でさっそく死んじゃって残念だった。



次に死ぬのが
マヌエラ・サンチェス
美人コンテストで優勝した女性で、
大統領の初恋の相手。
死ぬというか、正確には
行方不明になってしまう感じ。



3章にてド派手な死を遂げるのが、
ロドリゴ・デ=アギラル
大統領の終生の友」と言われた陸軍の中将。
その割には、最終的に凄まじい死に方をするんですが、
これはぜひ実際に本編を読んでみてほしいものです。



ベンディシオン・アルバラドは、
大統領の母親。
ひどいマザコンだった大統領は、
本編中で何度もこの母の名を呼んでます。
しかし、本編で彼が何回、
ベンディシオン・アルバラドよ
と言ってるのか、数えた人、いないのかな?

しかしこの母もかなり印象的な死に方をしてた。
なんかよく分からんけど、
ものすごい病気にかかっちゃって、
その描写がジャングルに生えてる植物の名前を
全部列挙していくかのような勢いで、
マルケスのノリノリ感がおそろしい。



レティシア・ナサレノは、
232歳まで生きた大統領の、唯一の正妻。
この人も確かに壮絶な最期だけど、
記述自体は結構あっさりしてる。
というか、あっという間に終わっちゃう感じで。



サエンス・デ=ラ=バラは、
大統領の名前を使って残虐行為を繰り返す男。
実は上流階級の末裔ということで、
ずっと冷血なキャラで通していたのに、
最後になって思わずポロリと本性をあらわしちゃって、
ここらへんは物語の定石をきれいに踏んでて、
さすがはマルケスさんと言わんばかり。




影武者、初恋の人、親友、
母親、妻、そして殺し屋(?)。

この長編小説は大統領のキャラも魅力的だけど、
脇を固める登場人物の死にっぷりもなかなかの見物で、
作中では、上に挙げた主要人物だけでなく、
様々な人間が、いろんな理由と方法で死んでしまう。
誰一人として退屈な、つまらない死に方をしない。

ぼくはここにマルケスのやさしさを感じる。
せっかく死ぬなら、
読者を楽しませるのに有効活用しよう
みたいな、
無駄な死をひとつも生まない姿勢に、
感服せずにはいられないわけである。

これだけを取ってみても、
この小説を読む価値があるというものだろう。

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