外伝 IV
『善と悪。』
- あらすじ。-
こたつからシュート(落下)したエリスさんは、
むかしむかしの、ファンタジックな世界に舞い降りました。
いい感じで、マジカル乙女15才になって、
ウハウハな感じでのエリスさんです。
エリスさん「ハアハアの間違いだろッ!!
残業明けで疲れた身体にムチ打って、
こっちは、必死に頑張ってんだよッ。」
おや、言葉が元の姉御口調に戻っていますねっ♪
謎の声の主が消えたせいでしょうか。
とにかく、よかったですね。
◇ そんなエリスさんに選択肢です。
→ ・ そのまま、姉御口調で楽に乗り過ごす。
・ しんどいの無理して、気迫の乙女口調。
(もうオートで、その口調には変換されないです。)
エリスさん「あらすじにも試練出すのかよッ!」
ためぞうは、沢山の苦労を、
乗り越えて来てたんだねぇ。
おろおろおろ・・・。
エライよ、ためぞう。
世界の誰も、ためぞうをヒーローと認めないとしても、
あたしの中で、アンタはあたしの一番星。
ちゃんと煌いてるよ。」
どーしますかー。
スルーですかー?
エリスさん「いきなり変わったら、
味方のテンション、
ダダ下がりだろうがッ!
無理でも何でもしてやっよッ、
・・・まったく。」
では、がんばってくださいね~♪
エリスさん「おほほ・・・、
もちろん、
完璧に演じて見せますですよ。」
クススッ、すでに結果は見えてますね。
ではー。
エリスさん「ごきげんよう、解説さん。
ありがとうですわっ。
・・・いけるのか、あたし。」
話は、暗黒の戦士と、
銀髪の少年剣士との、死闘へと続きます。
平原の空と大地は、
すでに西方から茜色に染まって来ています。
エリスさんの絶対防御の残り時間も、
もうほんの僅かしか残されていない、
そんな夕暮れ前。
異世界との繋がれた空間の歪みが、
序々に小さくなっていきます。
戦士としての能力に目覚めた、
麗しい、細身の銀髪の少年剣士の、
活躍によるものです。
ついにその力が、
暗黒の戦士と同等に、並びます。
共に戦う兵たちの士気は、
その光景を目の当たりにして、劇的に上がります。
青の戦旗の歩兵「『戦士』の誕生を、
目撃する事になるとは・・・。
なんという、圧倒的な存在感ッ!
オレは、戦士と共に戦えるのかッ!!」
赤の戦旗の騎兵「・・・勝ったぞッ!!」
戦士という言葉に、勢いを増す4万を超える軍勢は、
次々と、弱体した妖異の群れを駆逐し始めます!
それは、誰もが勝利を確信した瞬間でした。
彼らにとって、『戦士』との邂逅は、
それほど特別な物です。
人の生涯で、一度会えるかどうかの存在。
戦士の覚醒率を彼らは知りませんが、
その確立は、この時代の世界では、
1億分の1と云われます。
まさしく、奇跡の確立です。
戦乙女の降臨に次ぐ、
光の戦士の誕生。
相次ぐ奇跡の連続に、
もはや、彼らの心には、
『勝利』以外の文字は浮かびませんでした。
それほどまでに、
伝説的な存在へと到達した、
銀髪の少年剣士です。
キンッ、キンッ、キンッ! カァーーーンッ!!
暗黒の戦士と、力に目覚めた少年剣士は、
目にも留まらぬスピードで、
火花を撒き散らして、戦っています。
割り入る隙間のないほど、
過密しつつある戦場の中にあって、
この二人の戦士たちの間には、
数メートルのサークルを描くように、
空間が開けられています。
その円の中には、激しい重力が発生しており、
人の身体では、容易に近付けないのです。
妖異達ですら、立ち入る者は、
容赦なく大地へと叩き付けられます。
追い込まれつつある暗黒の戦士が、
無理に大地から吸い上げるエネルギーによって、
円の中には、10Gを越える圧力が掛かっています。
それは、光の戦士である、
銀髪の少年の力に対抗する為ですが、
信じられないほどの成長を見せる、
そのあまりの光輝に、
暗黒の騎士の肉体が、
ついには限界へと達しようとしています。
暗黒の戦士「グオォォォォォォッ!!!」
至高の紫の宝玉となろうとする、
銀髪の少年を前に、
自己崩壊を起こしかけている、暗黒の戦士。
その闇の肉体は、
まるで砂で作られた像のように、
黒い粉を散らしながら、
壊れ去ってゆくのが、誰の目にも明らかでした。
刹那、強力な闇の圧力が、
戦場全体に圧し掛かります。
銀髪の少年「させるかぁ!!」
少年のその紫の眼光は、
暗黒の戦士の意図を即座に見抜きます。
それは、戦場にいる全ての者を巻き添えにして、
銀髪の少年と共に闇へと還る、
まさに相打ちを狙ったものでした!!
エリスさん「間に合わないッ!」
もうエリスさんの背中の翼には、
暗黒の戦士の最期の力を耐え凌ぐだけの、
力は残されてはいません。
果敢に、暗黒の戦士に挑む銀髪の少年ですが、
その暗黒の戦士から、
背筋が凍るほどの笑みを見せられます。
・・・闇の力の『暴走』が始まりました。
暗黒の戦士は、人としてのカタチを失い、
極めて小さな、黒い点へと変化します。
僅かな間、時が止まります。
音も、光も、捻じ曲げる、
暗黒物質の爆縮。
それは、最悪の展開でした。
黒点となった暗黒の戦士の、
その闇の力は、
視界に入る全てを消し去る、
この世界にあってはならない、
暗黒のエネルギーを放ち始めます。
銀髪の少年剣士は、
その闇の中心で、
とてつもない重さに拘束されて、
身動きが取れないでいます。
銀髪の少年「させるものかァ!!!」
抗う銀髪の少年ですが、
脆くも、その鉄のつるぎは、
粉々に砕け散ります。
エリスさん「やらせてたまるかァァァア!!!」
守りの壁の能力を強制解除したエリスさんが、
長槍を手に、稲妻のようなスピードで、
少年のいる闇の中心へと飛び込みますッ!!
パリーーーンンンッ!!!
ガラスが砕けるような高音を放ち、
エリスさんの手にした、
光輝を纏う長槍は崩れ去ります。
エリスさんは、銀髪の少年を、
闇のサークルの外へと突き飛ばすと、
その闇の中心の黒点を、
全身を以って抱え込みます。
銀髪の少年「天使さまぁぁぁあッ!!」
エリスさん(よく頑張ったね・・・。
・・・ここから先は、私の番。)
エリスさんの心の声が、
銀髪の少年の胸に刺さります。
銀髪の少年「イヤだッ!!
こんな所で、終わるわけにいくものかーーぁッ!!!」
エリスさんは、この凶悪な闇の力を、
自らの力に変える事が出来ます。
闇の力、『ダークフォース』によって、
放たれるその闇を利用して、
物理障壁を構成し、
破滅の危機を回避する手段を、
彼女は選びました。
異世界への歪みは完全に閉じられ、
溢れる妖異の群れは、
塵のように、無へと還ります。
これがエリスさんの起こす事の出来る、
最期の奇跡です。
破滅は、エリスさんという代償を得て、
回避されるでしょう。
その中心点を包み込む、
ダークフォースの障壁によって、
外からは、数メートルの闇の球体が、
浮かんでいるようにも見えます。
銀髪の少年は、
その紫の瞳に強い意志を宿して、
大地に落ちた長剣を拾い上げ、
闇の壁に激しく斬り付けます!!
カァァァァーーーンッ!!!
根元からバキッっと折れた長剣の剣先が、宙を舞いながら、
茜色に染まった大地を突きます。
平原に取り残された兵士たちは、
皆、一様に緊迫した様子で、
暗黒の球体を、ただ見つめています。
もう次の奇跡は起こせない・・・、
そう、誰もが諦めようとした、
その時ですッ!!
天から、一筋の光が射し込み、
閃光が、闇の球体を貫きます。
一瞬で、闇の脅威は消え去ると、
そこには、今にも膝を折るように崩れようとしている、
緑の髪の戦乙女の姿と、
見たこともないような、
美しい刀身を持つ一本のつるぎが、
大地に深く、突き立っていました。
倒れ行くエリスさんの身体を支える、
銀髪の少年剣士。
それと同時に、
天より声が聞こえます。
その美声は、夕陽に染まった平原の兵士たちにも、
しっかりと聞き取ることが出来ました。
天からの声「確かに、そなた等の勇気は見せてもらった。
故に、我はその奇跡を望む声、内なる声に答えたのだ。」
すると不意に、
一人の長身の、金髪の剣士が姿を現し、
こう、彼らに告げたのです。
長身の剣士「我が名は、『アレスティル。』
天の六極の、その一角を守護する者なり。
少年よ、
聖剣をそなたに授けよう。
さあ、その手にするがよい。」
エリスさんは、朦朧とした意識の中、
銀髪の少年に、か細い声でこう伝えます。
エリスさん「・・・その剣に、手を・・、
触れては・・・だめ。」
エリスさんはそのまま、
アレスティルと名乗った長身の剣士を見上げ、
こう続けました。
エリスさん「剣聖、・・アレスティルに、
この、身を捧げ・・・よう。
だから、この子を・・連れ行くのは、
どうか止めて・・欲し、い。」
剣聖アレスティル「我は、他の六極の者らと、
意を同じくしてはおらぬ。
故に、対価として、
そこの若き戦士を求めはしない。
そこにある聖剣、オメガ・レプカは、
若き戦士への手向けである。
抜けるというのであらば、
聖剣は、その者のつるぎとなろう。
・・・仮初めの戦乙女とはいえ、
その栄誉を賜えるのであらば、
我、自ら、そなたに頭を垂れてもよい。
だが、そう急くではない。
我は、この争いの顛末(てんまつ)に、
ただ純粋に、
敬意と感動を覚えただけなのだから。」
剣聖アレスティル。
彼は、六極の神々の中にあって、
その上位の存在として、君臨する者の一人。
地上の人々は、
彼の事を、古いおとぎ話の本の中でしか知りません。
六極の頂点に、最も近い者である、
彼のその素性は、
他の六極神ですら、知らぬ事も多い、
孤高の存在です。
この大地に現れるであろうと予測された、
六極の神々の中で、
それが彼だった事は、
非常に、幸運だったかも知れません。
他の者が現れていたとしたら、
有無を言わさず、
その目的を果たしていたのだから。
エリスさんの表情が、
少しだけ和らいだように見えたその時でした!
剣聖アレスティルが突然、
腰に帯びた伝説のつるぎ、
聖剣・エルザードを抜きます!
剣聖アレスティル「・・・来る。」
瞬きする隙すら与えず、
この地に、二つの人影が姿を現しました。
現れたのは、共に美しい容姿を持つ、
金髪と銀髪の女性です。
少女のように若い金髪の女性「我が名は、邪王にして、
この大地より生まれし息吹を欲する者、アリス。」
剣聖アレスティル「・・・アトロポジカの双子か。」
エリスさん「邪・・王・・・、」
そう発したエリスさんの顔色は一変し、
苦虫を噛んだ様な苦しい表情になります。
金髪の姉、アリスのその背後にいるのは、
銀髪の妹、フェノ。
二人で一つの名を持つ、姉妹の六極神です。
邪王は、六極の神々の中で、
最も邪悪な存在です。
『邪王アトロポジカ』の名で、
他の六極の神々から畏怖されています。
剣聖アレスティルは、
エリスさんと銀髪の少年を守るようにして、
双子の姉妹の前に立ちはだかります。
剣聖アレスティル「・・・ここは、分が悪いか。」
単純に数の差で、剣聖アレスティルは劣勢です。
アリスとフェノの双子の姉妹は、
共に、アレスティルに並ぶ実力を備えているのです。
邪王アリス「これは、高潔なる剣聖さまではありませんか。
久しく挨拶もせず、ただ争いに興じていた、
この無礼な私どもの非礼を、お許し頂ければ、
嬉しく存じますワ。」
金髪の姉アリスは、
とてつもなく底の深い悪意を、周囲に漂わせています。
周りの者たち全ては、
この圧倒的なまでの邪神なる存在に、
身動き一つ取れないでいます。
声の一つでも上げれば、
瞬時にその者を跡形なく消し去る、
邪悪なオーラが、
耳鳴りがしそうなほどに、
この夕焼け色に染まる平原を、静寂にさせるのです。
銀髪の少年の腕の中で、
ついには意識を失うエリスさん。
戦天使能力のこれ以上の行使は、
エリスさんの命にまで危険が及びます。
彼女のその意識を奪ったのは、
剣聖アレスティルです。
少年はその澄んだ紫の美しい両眼に、
再び、強い決意を宿すと、
緑の髪の天使さまの、
意思を裏切ると知りながら、
他の兵士に彼女の身を任せ、
剣聖アレスティルを脇に、
悠然と刀身に紅を宿し、この大地に突き立つ、
聖剣オメガ・レプカを抜きます。
邪王アリス「ウフフッ・・・、
そのオメガ・レプカを抜けるという事は、
紛れもなく、
エクサーに選ばれし戦士の証。
・・・わざわざ、
こんな辺境の地まで出向いたのも、
無駄にならなくって、嬉しくってよ。」
邪王アリスは、
そのか細い銀髪の少年の身体を、
舐める様な視線で見ると、
恍惚とした表情でこう続けます。
邪王アリス「貴方のその白き肢体を愛でる事を想像すると、
やはりどうしても、
アレスティル様には、引いて頂きたく思います。
どうでしょう、
ワタクシの抱える魔神級の戦士を、
数名ほど献上いたしますので、
ここは、アレスティル様の好意に甘えたく思いますの。」
それは六極の神にとって、
願ってもない、破格の条件でした。
魔神と言えば、六極の神々の側近で、
その地位に、最も近い戦士たちです。
剣聖アレスティルは、
その誘惑に、眉一つ動かす、
その剣先をただ、姉のアリスに向けています。
アレスティルは、
邪王アリスの漂わせるやたら甘く、
毒々しい負のオーラを、
その聖なる剣威で中和しています。
もし、この剣聖アレスティルがいなければ、
邪王の発するオーラに飲まれ、
城塞都市の市民ごと、その生命力の全てを、
甘美な感覚と共に、枯らされ朽ちていた事でしょう。
六極の神々の地位では、
邪王の上位にある、剣聖アレスティルとはいえ、
アレスティルが止められる邪王は、
せいぜい双子のどちらかです。
単身乗り込んできたアレスティルにとって、
それは致命的なミスと言えたのです。
今は静かに沈黙している、
もう一人の双子の邪王が動けば、
剣聖アレスティルは、数の上で単純に不利です。
アレスティルは、一対一ならば、
戦いを有利に進めるだけの力を備えていますが、
その片方を退ける間に、
もう一方の邪王によって、
城塞都市ごと根こそぎ、周囲の大地の全ては、
命の存在しない土地へと、
平らげられてしまうでしょう。
故に、銀髪の少年剣士は、
二対二の状況を生み出す為に、
その手に聖剣を握ったのです。
邪王アリス「あらあら、勇敢な事ですこと。
ウフフッ・・・、
その無知で無垢なところも、
遊び甲斐があって嬉しく思いますワ。
アレスティル様が、
ワタクシの提案をお嫌だとおっしゃるならば、
少し、強引な手段をとらなくては、
なりませんが。
ワタクシ、『強引』や『奪う』という言葉に、
少し敏感なのかしら。
フフッ、
もう、お返事など待たずとも、
良いような気が致してなりませんワ。」
剣聖アレスティル「・・・。」
姉のアリスの意に従うように、
もう一人双子の方が、
その腰に帯びた細身の剣に、手をかけました。
邪王アリス「では、参りましょうか、フェノさん。
ワタクシ、このゾクゾクとした気持ちを、
もう、抑える自信がございませんの。」
もう一人の邪王、
銀髪の乙女フェノが、
アレスティルと姉のアリスの間に、
割って入ります。
邪王アリス「では、フェノさん、
アレスティル様は、お任せしましてよ。
おいでなさい、
勇敢で無知で、可憐なる勇者さん。
この身の全てをかけて、
優しく愛でて差し上げますワ、
ウフフフフッ・・・。」
こうして、
地上では初となる、
六極の神々の戦いが、
今、始まろうとしていました。
そのVに続きます。
『善と悪。』
- あらすじ。-
こたつからシュート(落下)したエリスさんは、
むかしむかしの、ファンタジックな世界に舞い降りました。
いい感じで、マジカル乙女15才になって、
ウハウハな感じでのエリスさんです。
エリスさん「ハアハアの間違いだろッ!!
残業明けで疲れた身体にムチ打って、
こっちは、必死に頑張ってんだよッ。」
おや、言葉が元の姉御口調に戻っていますねっ♪
謎の声の主が消えたせいでしょうか。
とにかく、よかったですね。
◇ そんなエリスさんに選択肢です。
→ ・ そのまま、姉御口調で楽に乗り過ごす。
・ しんどいの無理して、気迫の乙女口調。
(もうオートで、その口調には変換されないです。)
エリスさん「あらすじにも試練出すのかよッ!」
ためぞうは、沢山の苦労を、
乗り越えて来てたんだねぇ。
おろおろおろ・・・。
エライよ、ためぞう。
世界の誰も、ためぞうをヒーローと認めないとしても、
あたしの中で、アンタはあたしの一番星。
ちゃんと煌いてるよ。」
どーしますかー。
スルーですかー?
エリスさん「いきなり変わったら、
味方のテンション、
ダダ下がりだろうがッ!
無理でも何でもしてやっよッ、
・・・まったく。」
では、がんばってくださいね~♪
エリスさん「おほほ・・・、
もちろん、
完璧に演じて見せますですよ。」
クススッ、すでに結果は見えてますね。
ではー。
エリスさん「ごきげんよう、解説さん。
ありがとうですわっ。
・・・いけるのか、あたし。」
話は、暗黒の戦士と、
銀髪の少年剣士との、死闘へと続きます。
平原の空と大地は、
すでに西方から茜色に染まって来ています。
エリスさんの絶対防御の残り時間も、
もうほんの僅かしか残されていない、
そんな夕暮れ前。
異世界との繋がれた空間の歪みが、
序々に小さくなっていきます。
戦士としての能力に目覚めた、
麗しい、細身の銀髪の少年剣士の、
活躍によるものです。
ついにその力が、
暗黒の戦士と同等に、並びます。
共に戦う兵たちの士気は、
その光景を目の当たりにして、劇的に上がります。
青の戦旗の歩兵「『戦士』の誕生を、
目撃する事になるとは・・・。
なんという、圧倒的な存在感ッ!
オレは、戦士と共に戦えるのかッ!!」
赤の戦旗の騎兵「・・・勝ったぞッ!!」
戦士という言葉に、勢いを増す4万を超える軍勢は、
次々と、弱体した妖異の群れを駆逐し始めます!
それは、誰もが勝利を確信した瞬間でした。
彼らにとって、『戦士』との邂逅は、
それほど特別な物です。
人の生涯で、一度会えるかどうかの存在。
戦士の覚醒率を彼らは知りませんが、
その確立は、この時代の世界では、
1億分の1と云われます。
まさしく、奇跡の確立です。
戦乙女の降臨に次ぐ、
光の戦士の誕生。
相次ぐ奇跡の連続に、
もはや、彼らの心には、
『勝利』以外の文字は浮かびませんでした。
それほどまでに、
伝説的な存在へと到達した、
銀髪の少年剣士です。
キンッ、キンッ、キンッ! カァーーーンッ!!
暗黒の戦士と、力に目覚めた少年剣士は、
目にも留まらぬスピードで、
火花を撒き散らして、戦っています。
割り入る隙間のないほど、
過密しつつある戦場の中にあって、
この二人の戦士たちの間には、
数メートルのサークルを描くように、
空間が開けられています。
その円の中には、激しい重力が発生しており、
人の身体では、容易に近付けないのです。
妖異達ですら、立ち入る者は、
容赦なく大地へと叩き付けられます。
追い込まれつつある暗黒の戦士が、
無理に大地から吸い上げるエネルギーによって、
円の中には、10Gを越える圧力が掛かっています。
それは、光の戦士である、
銀髪の少年の力に対抗する為ですが、
信じられないほどの成長を見せる、
そのあまりの光輝に、
暗黒の騎士の肉体が、
ついには限界へと達しようとしています。
暗黒の戦士「グオォォォォォォッ!!!」
至高の紫の宝玉となろうとする、
銀髪の少年を前に、
自己崩壊を起こしかけている、暗黒の戦士。
その闇の肉体は、
まるで砂で作られた像のように、
黒い粉を散らしながら、
壊れ去ってゆくのが、誰の目にも明らかでした。
刹那、強力な闇の圧力が、
戦場全体に圧し掛かります。
銀髪の少年「させるかぁ!!」
少年のその紫の眼光は、
暗黒の戦士の意図を即座に見抜きます。
それは、戦場にいる全ての者を巻き添えにして、
銀髪の少年と共に闇へと還る、
まさに相打ちを狙ったものでした!!
エリスさん「間に合わないッ!」
もうエリスさんの背中の翼には、
暗黒の戦士の最期の力を耐え凌ぐだけの、
力は残されてはいません。
果敢に、暗黒の戦士に挑む銀髪の少年ですが、
その暗黒の戦士から、
背筋が凍るほどの笑みを見せられます。
・・・闇の力の『暴走』が始まりました。
暗黒の戦士は、人としてのカタチを失い、
極めて小さな、黒い点へと変化します。
僅かな間、時が止まります。
音も、光も、捻じ曲げる、
暗黒物質の爆縮。
それは、最悪の展開でした。
黒点となった暗黒の戦士の、
その闇の力は、
視界に入る全てを消し去る、
この世界にあってはならない、
暗黒のエネルギーを放ち始めます。
銀髪の少年剣士は、
その闇の中心で、
とてつもない重さに拘束されて、
身動きが取れないでいます。
銀髪の少年「させるものかァ!!!」
抗う銀髪の少年ですが、
脆くも、その鉄のつるぎは、
粉々に砕け散ります。
エリスさん「やらせてたまるかァァァア!!!」
守りの壁の能力を強制解除したエリスさんが、
長槍を手に、稲妻のようなスピードで、
少年のいる闇の中心へと飛び込みますッ!!
パリーーーンンンッ!!!
ガラスが砕けるような高音を放ち、
エリスさんの手にした、
光輝を纏う長槍は崩れ去ります。
エリスさんは、銀髪の少年を、
闇のサークルの外へと突き飛ばすと、
その闇の中心の黒点を、
全身を以って抱え込みます。
銀髪の少年「天使さまぁぁぁあッ!!」
エリスさん(よく頑張ったね・・・。
・・・ここから先は、私の番。)
エリスさんの心の声が、
銀髪の少年の胸に刺さります。
銀髪の少年「イヤだッ!!
こんな所で、終わるわけにいくものかーーぁッ!!!」
エリスさんは、この凶悪な闇の力を、
自らの力に変える事が出来ます。
闇の力、『ダークフォース』によって、
放たれるその闇を利用して、
物理障壁を構成し、
破滅の危機を回避する手段を、
彼女は選びました。
異世界への歪みは完全に閉じられ、
溢れる妖異の群れは、
塵のように、無へと還ります。
これがエリスさんの起こす事の出来る、
最期の奇跡です。
破滅は、エリスさんという代償を得て、
回避されるでしょう。
その中心点を包み込む、
ダークフォースの障壁によって、
外からは、数メートルの闇の球体が、
浮かんでいるようにも見えます。
銀髪の少年は、
その紫の瞳に強い意志を宿して、
大地に落ちた長剣を拾い上げ、
闇の壁に激しく斬り付けます!!
カァァァァーーーンッ!!!
根元からバキッっと折れた長剣の剣先が、宙を舞いながら、
茜色に染まった大地を突きます。
平原に取り残された兵士たちは、
皆、一様に緊迫した様子で、
暗黒の球体を、ただ見つめています。
もう次の奇跡は起こせない・・・、
そう、誰もが諦めようとした、
その時ですッ!!
天から、一筋の光が射し込み、
閃光が、闇の球体を貫きます。
一瞬で、闇の脅威は消え去ると、
そこには、今にも膝を折るように崩れようとしている、
緑の髪の戦乙女の姿と、
見たこともないような、
美しい刀身を持つ一本のつるぎが、
大地に深く、突き立っていました。
倒れ行くエリスさんの身体を支える、
銀髪の少年剣士。
それと同時に、
天より声が聞こえます。
その美声は、夕陽に染まった平原の兵士たちにも、
しっかりと聞き取ることが出来ました。
天からの声「確かに、そなた等の勇気は見せてもらった。
故に、我はその奇跡を望む声、内なる声に答えたのだ。」
すると不意に、
一人の長身の、金髪の剣士が姿を現し、
こう、彼らに告げたのです。
長身の剣士「我が名は、『アレスティル。』
天の六極の、その一角を守護する者なり。
少年よ、
聖剣をそなたに授けよう。
さあ、その手にするがよい。」
エリスさんは、朦朧とした意識の中、
銀髪の少年に、か細い声でこう伝えます。
エリスさん「・・・その剣に、手を・・、
触れては・・・だめ。」
エリスさんはそのまま、
アレスティルと名乗った長身の剣士を見上げ、
こう続けました。
エリスさん「剣聖、・・アレスティルに、
この、身を捧げ・・・よう。
だから、この子を・・連れ行くのは、
どうか止めて・・欲し、い。」
剣聖アレスティル「我は、他の六極の者らと、
意を同じくしてはおらぬ。
故に、対価として、
そこの若き戦士を求めはしない。
そこにある聖剣、オメガ・レプカは、
若き戦士への手向けである。
抜けるというのであらば、
聖剣は、その者のつるぎとなろう。
・・・仮初めの戦乙女とはいえ、
その栄誉を賜えるのであらば、
我、自ら、そなたに頭を垂れてもよい。
だが、そう急くではない。
我は、この争いの顛末(てんまつ)に、
ただ純粋に、
敬意と感動を覚えただけなのだから。」
剣聖アレスティル。
彼は、六極の神々の中にあって、
その上位の存在として、君臨する者の一人。
地上の人々は、
彼の事を、古いおとぎ話の本の中でしか知りません。
六極の頂点に、最も近い者である、
彼のその素性は、
他の六極神ですら、知らぬ事も多い、
孤高の存在です。
この大地に現れるであろうと予測された、
六極の神々の中で、
それが彼だった事は、
非常に、幸運だったかも知れません。
他の者が現れていたとしたら、
有無を言わさず、
その目的を果たしていたのだから。
エリスさんの表情が、
少しだけ和らいだように見えたその時でした!
剣聖アレスティルが突然、
腰に帯びた伝説のつるぎ、
聖剣・エルザードを抜きます!
剣聖アレスティル「・・・来る。」
瞬きする隙すら与えず、
この地に、二つの人影が姿を現しました。
現れたのは、共に美しい容姿を持つ、
金髪と銀髪の女性です。
少女のように若い金髪の女性「我が名は、邪王にして、
この大地より生まれし息吹を欲する者、アリス。」
剣聖アレスティル「・・・アトロポジカの双子か。」
エリスさん「邪・・王・・・、」
そう発したエリスさんの顔色は一変し、
苦虫を噛んだ様な苦しい表情になります。
金髪の姉、アリスのその背後にいるのは、
銀髪の妹、フェノ。
二人で一つの名を持つ、姉妹の六極神です。
邪王は、六極の神々の中で、
最も邪悪な存在です。
『邪王アトロポジカ』の名で、
他の六極の神々から畏怖されています。
剣聖アレスティルは、
エリスさんと銀髪の少年を守るようにして、
双子の姉妹の前に立ちはだかります。
剣聖アレスティル「・・・ここは、分が悪いか。」
単純に数の差で、剣聖アレスティルは劣勢です。
アリスとフェノの双子の姉妹は、
共に、アレスティルに並ぶ実力を備えているのです。
邪王アリス「これは、高潔なる剣聖さまではありませんか。
久しく挨拶もせず、ただ争いに興じていた、
この無礼な私どもの非礼を、お許し頂ければ、
嬉しく存じますワ。」
金髪の姉アリスは、
とてつもなく底の深い悪意を、周囲に漂わせています。
周りの者たち全ては、
この圧倒的なまでの邪神なる存在に、
身動き一つ取れないでいます。
声の一つでも上げれば、
瞬時にその者を跡形なく消し去る、
邪悪なオーラが、
耳鳴りがしそうなほどに、
この夕焼け色に染まる平原を、静寂にさせるのです。
銀髪の少年の腕の中で、
ついには意識を失うエリスさん。
戦天使能力のこれ以上の行使は、
エリスさんの命にまで危険が及びます。
彼女のその意識を奪ったのは、
剣聖アレスティルです。
少年はその澄んだ紫の美しい両眼に、
再び、強い決意を宿すと、
緑の髪の天使さまの、
意思を裏切ると知りながら、
他の兵士に彼女の身を任せ、
剣聖アレスティルを脇に、
悠然と刀身に紅を宿し、この大地に突き立つ、
聖剣オメガ・レプカを抜きます。
邪王アリス「ウフフッ・・・、
そのオメガ・レプカを抜けるという事は、
紛れもなく、
エクサーに選ばれし戦士の証。
・・・わざわざ、
こんな辺境の地まで出向いたのも、
無駄にならなくって、嬉しくってよ。」
邪王アリスは、
そのか細い銀髪の少年の身体を、
舐める様な視線で見ると、
恍惚とした表情でこう続けます。
邪王アリス「貴方のその白き肢体を愛でる事を想像すると、
やはりどうしても、
アレスティル様には、引いて頂きたく思います。
どうでしょう、
ワタクシの抱える魔神級の戦士を、
数名ほど献上いたしますので、
ここは、アレスティル様の好意に甘えたく思いますの。」
それは六極の神にとって、
願ってもない、破格の条件でした。
魔神と言えば、六極の神々の側近で、
その地位に、最も近い戦士たちです。
剣聖アレスティルは、
その誘惑に、眉一つ動かす、
その剣先をただ、姉のアリスに向けています。
アレスティルは、
邪王アリスの漂わせるやたら甘く、
毒々しい負のオーラを、
その聖なる剣威で中和しています。
もし、この剣聖アレスティルがいなければ、
邪王の発するオーラに飲まれ、
城塞都市の市民ごと、その生命力の全てを、
甘美な感覚と共に、枯らされ朽ちていた事でしょう。
六極の神々の地位では、
邪王の上位にある、剣聖アレスティルとはいえ、
アレスティルが止められる邪王は、
せいぜい双子のどちらかです。
単身乗り込んできたアレスティルにとって、
それは致命的なミスと言えたのです。
今は静かに沈黙している、
もう一人の双子の邪王が動けば、
剣聖アレスティルは、数の上で単純に不利です。
アレスティルは、一対一ならば、
戦いを有利に進めるだけの力を備えていますが、
その片方を退ける間に、
もう一方の邪王によって、
城塞都市ごと根こそぎ、周囲の大地の全ては、
命の存在しない土地へと、
平らげられてしまうでしょう。
故に、銀髪の少年剣士は、
二対二の状況を生み出す為に、
その手に聖剣を握ったのです。
邪王アリス「あらあら、勇敢な事ですこと。
ウフフッ・・・、
その無知で無垢なところも、
遊び甲斐があって嬉しく思いますワ。
アレスティル様が、
ワタクシの提案をお嫌だとおっしゃるならば、
少し、強引な手段をとらなくては、
なりませんが。
ワタクシ、『強引』や『奪う』という言葉に、
少し敏感なのかしら。
フフッ、
もう、お返事など待たずとも、
良いような気が致してなりませんワ。」
剣聖アレスティル「・・・。」
姉のアリスの意に従うように、
もう一人双子の方が、
その腰に帯びた細身の剣に、手をかけました。
邪王アリス「では、参りましょうか、フェノさん。
ワタクシ、このゾクゾクとした気持ちを、
もう、抑える自信がございませんの。」
もう一人の邪王、
銀髪の乙女フェノが、
アレスティルと姉のアリスの間に、
割って入ります。
邪王アリス「では、フェノさん、
アレスティル様は、お任せしましてよ。
おいでなさい、
勇敢で無知で、可憐なる勇者さん。
この身の全てをかけて、
優しく愛でて差し上げますワ、
ウフフフフッ・・・。」
こうして、
地上では初となる、
六極の神々の戦いが、
今、始まろうとしていました。
そのVに続きます。
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