銭湯で湯に浸る。
きょうの疲れが癒やされる。
湯船の入り口で、
腰までの部分浴をしていたおじさんが
揺れるように身体を大きく
時には小さく動いている。
両手で手すりをにぎりながら
ゆらりゆらりと右に左に。
ゆれうごきながら
だんだん、身体は傾いて
いつしか、顔や頭も湯に触れるようになり
そして、お湯の中に顔が没して
鼻からブクブクブク…
って、をい
これ、溺れてるんじゃねーか。
すわ。鎌倉。
身体が勝手に動いた。
おじさんを後ろから抱え
引っ張り上げて
とりあえず腰から上を湯から出す。
そして
大声で、湯船の入り口近くにいた客に向かって
店員を呼んできてくれと助けを求めた。
おじさんは、朦朧としていて、
こちらの呼びかけに反応はあるんだけれど
何を言っているのか聞き取れない。
店員さんがやってきて
そして、素っ裸のお客さん7、8人で
溺れたおじさんを担架で脱衣所に運ぶ。
しばらく、店員さんがおじさんを見守る。
店員さんが
「おうちの人に来てもらいましょうか?」
とおじさんにの問いかける。
おじさん、もごもご弱々しく応えてる。
「独りだから…、家に誰も…」
なんだかなあ。
意識が飛んで溺れたことも大変なことだが
その応えのほうが、よっぽど、こっちにずっしりきた。
同じ境遇じゃん。