『野性の女』(2)
中級フランス語
『フランス現代作家10人集』(昇龍堂)より
La SauvageⅡ
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Thérèse: (doucement) Oh ! Il y a d'autres façons de la connaître, allez¹....
Marie : Naturellement. Mais en France nous sommes trop tenues pour
ne pas rester des cruches² jusqu'à notre mariage. Ou alors³ il y
a un moyen, oui——si les parents ne sont pas trop vieille école,
c'est de travailler⁴.. Hélas ! ne le peut pas qui veut⁵ !
La vendeuse: Ah ! Mademoiselle a malheureusement raison. Nous avons
encore renvoyé cinquante ouvrières cette année chez M. Lapérouse⁶ !
————————————≪Voc.≫———————————————
doucement:(副) ❶そっと、静かに、穏やかに、ゆるやかに、
❷心地よく、やさしく、 ❸ゆっくりと落ち着いて
cruche:(f) [俗] とんま、おばかさん
naturellement:(話) 当然、もちろん、
vieille école:[俗] 旧弊な、頭の古い
vendeuse:(f) 売り子、女店員
—————————————《Notes》————————————————
1.allez:語調を強めるとき用いる間投詞.会話ではしばしば用いられる.
「ほんとに」とか「...よ」とかいうニュアンスを持っている.
Cf. Ça ne marche pas. ——Tu vois bien.——T'en fais pas, va.
うまくゆかないのか?—ごらん通りだ.—くよくよするなよ.
2.trop tenues pour ne pas rester des cruches...:tenues は soignées (箱入りに
された) の意味. trop... pour... は英語の too ... to ... に相当.したが
って「おばかさんのままでいないためには、あまりにも箱入りにされ
すぎている.あまり箱入りにされているものだから、おばかさんのま
までいる...」.
3.Ou alors: alors は単に ou の強調に用いられているだけ.会話に用い
られる表現である.「外国で暮らすことが若い娘に人生を教える唯一
の道」だ」と前に言っているので、それを受けて「あるいはまた」と、
次の言葉を導くために言っている.
Cf. Vous n'avez jamais envie de quelque chose ici, jamais ?
——Oh, si alors.
君はこの店で何か欲しいと思ったことは一度もないの、一度も?
——そりゃむろんあるわ.
4.c'est de travailler:「それは働くことです」.マリーがそういう場合、具体的
には(家庭の外へ出て、社会へ出て働く)ことを指す.
5.ne le peut pas qui veut:一種の成句的表現.qui は先行詞なしで用いられて
おり、si quelqu'un, quel qu'il soit の意味.「だれであれ、だれがそうしよう
と思ってもそうできるものでもない」.
6.M. Lapérouse: vendeuse らの勤めている製縫店の経営者.このvendeuse は
その店で、言わば「管理職」的な立場にあることが«Nous avons renvoyés.»
などという言い方に見てとれる.それは解雇されるほうでなく、するほう
の立場に身を置いた表現である.
—————————————(訳)———————————————
テレーズ: (おだやかに)あら、他にも人生を知る方法はありますわ.
マリー : もちろんよ.でもフランスでは、われわれ娘たちはあんまり
箱入りにされているものだから、結婚するまでおばかさんの
ままでいるんだわ.
でなきゃ、一つ方法はあるわ、そうよ——もし両親があん
まり旧弊でなければ、働きに出ることだわね.でも悲しいこと
に、そう思ってもなかなかできないのよ.
女店員 : ほんとに、残念なことに、お嬢さまのおっしゃるとおりですわ.
ことしはラ・ペルーズ商会でも、私ども50人の縫子をくびに
したんでございますよ.