春庭パンセソバージュ

野生の思考パンセソバージュが春の庭で満開です。

ぽかぽか春庭「ヴィヴィアンガールズ」

2009-12-16 | インポート
2009/12/16
ぽかぽか春庭ことばの海を漂うて>非現実の王国で(4)ヴィヴィアンガールズ

 ヘンリー・ダーガーは正規の美術教育を受けていないので、病院の掃除の合間に拾った新聞写真や雑誌挿絵を利用して自分の絵にコラージュしていきました。幼いときに母に死なれ、妹は里子に出されたので、一生のうちに女性の身体を見たり触ったりしたこともなかっただろうと言われているのですが、ヘンリーが描き出した「悪と闘う9人の少女たち=ヴィヴィアンガールズ」は、鮮やかな色彩で描かれ、ドキュメンタリー映画ではこれらの挿絵がアニメ化されて動き出します。ヘンリーの内面では、このように挿絵の少女たちが動きだし、ともに行動していたことでしょう。

 ヘンリー・ダーガーもエミリー・ウングワレーもそうですが、アウトサイダーアーティストは、「自分の絵をオークションで高く売ろう」とか「有名になって美術界に名を残そう」とか、考えたこともなく、ただ、描くことを生活の一部として描き続けました。

 多くの「売れないアーティスト」は、売れた人を見て「私のほうが芸術的価値の高い作品を作っているのに、彼のほうが作品を売り込むノウハウを知っていたから売れた」とか「私の作品を理解してくれる人さえあれば売れるのに」としきりにぼやきます。
 一生、理解されなくても売れなくてもいいじゃありませんか。ヘンリー・ダーガーのように、亡くなってからその作品が発見される人もあれば、理解のない周囲の人によって焼却処分されてしまったアウトサイダーアートもたくさんあることでしょう。
 描きたいから描く、つづりたいから文章を書いていく。人の一生はそれだけですごしてよいのだ、と思います。

 ヘンリーダーガーの「非現実の王国で」は、まだ翻訳が出ていません。あまりに膨大すぎて、出版のめどが立ちにくい。ハリーポッターシリーズ、全7巻でも総ページ数は7000ページ程度。しかし、ダーガーの「非現実の王国で」は、12000ページに及び、続編も入れると15000ページ、日本語に翻訳すると単行本20巻くらいになる。しかも、ハリーのような「不幸を背負ってはいるが、きわめて健全な坊や」が成長する話ではなく、少女達が拷問を受け虐殺されるグロい描写が続く暗い物語ということなので、翻訳が読めるようになるのはまだまだ先でしょう。

 「ロリータ・グロ」マニアが日本にどれだけいるかわからないけれど、「ハリー」のような売れ方はされるはずもなく、出版社は挿絵に少々の説明文をつける程度の本は出版するかもしれないけれど、全訳には二の足を踏む。

 もし翻訳が出版されるとして。英語専門家が下訳をしたあと、日本語文章としてもっともよくヘンリー・ダーガーの雰囲気を保つ文体に仕上げられるのは誰だろう。嶽本野ばらあたりがいいんでないかい、と思っていたら、野ばらもヘンリー・ダーガーに並々ならぬ関心を寄せていたことがわかりました。『きらら』(2009年3月号)」の野ばらによるヘンリー・ダーガー紹介文がとてもよかったです。わらべは見た~り、野中の薔薇バラ。バラバラに切り刻まれたりする少女達を野ばらさんはどう翻訳するのでしょうか。

 商売にはならなくても世に出したい本を売る、という気骨ある出版社が生き残れるような今の世ではないことを重々承知ながら、売れる本だけ売るのでは、寂しい。
 売り出すまで内容をいっさい秘密にしておき、ノーベル賞落選まで宣伝材料にした出版社の戦略で、村上春樹の『1Q84』は、予約60万部、年末までの売り上げ部数は上下巻で220万部に達するという今年随一のヒット作となりました。うう、うらやまし、、、、と、売れなくても書き続ければいいじゃありませんかと言った口でこれを言う。

 出版社の下請け零細校正会社の我が夫の自営業「倒産しないだけマシ」というものの、私の「中国出稼ぎ金」まで運転資金につぎ込んでしまい、我が家はなんと12月の20日まで暖房いっさいなしという暮らしを続けています。「地球にやさしいエコ生活」といいながら、数日来のこの冬一番の寒さ(15日の最高気温9度)という中暮らしていたら、最初息子が風邪をひき、つぎに娘がうつった。う~ん、次の日曜日には灯油を買おう。
 ヴィヴィアンガールズは悪を相手に戦いましたが、ビンボーガールズの春庭は寒さ相手に戦っています。風邪うつらないように、今日もお仕事いってきます。

<おわり>

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