春庭パンセソバージュ

野生の思考パンセソバージュが春の庭で満開です。

ぽかぽか春庭「田口アヤコの「女中たち」

2006-09-15 | インポート
2006/09/15 金
ことばのYa!ちまた>観劇リポート(2)田口アヤコの「女中たち」

 演出家田口アヤコは、「女中たち」に、女優として「奥様」役で出ていました。
 東大芸術学専攻の学生のときからさまざまな演劇活動を行い、山の手事情社などに所属。現在は「COLLOL」主宰の劇作家、演出家、女優。
 
 田口アヤコ演出の作品は、「女中たち」のセリフとストーリーを取り入れたコラージュ作品。
 8月18~21の王子小劇場公演のあと、利賀サマー・アーツ・プログラム2006 の「演出家コンクール」参加作品として、8月26日(土)に上演されました。

 ソランジュ役が3人(男2人、女1人)。クレール役が3人(女2人、男1人)
 この6人が入れ替わり組み合わせを代え、しかもソランジュがクレール役を演じるごっこだったり、クレールがクレールにもどったりするので、いったいだれがだれのセリフを言っているのか、ごちゃごちゃになったり、6人がいっしょに出て、それぞれ勝手に自分のセリフを言ったりする。

 また、ジャン・ジュネの役が自由に舞台の中を歩きまわったり、パントマイム風に動いたりする。最後に「女中のうた」という詩を朗読しながら客席のうしろへ消えていくまでは、ひとこともしゃべらない。

 ストーリーを追うことを目的にしていないから、ジャン・ジュネの原作を知らなくても、田口アヤコの独立した作品として見ればよいのだけれど、原作を知らない人には「なんだか難解でわけわからない話」と思えたみたいだったし、「あの、ずっとしゃべらない人は、なんのために舞台にいたワケ?」と、いう感想もきこえた。

 わたしにとっては、田口さんの才気を感じられたお芝居だったし、演劇映画文学などのAdaptation、改作翻案脚色について考えているところだったので、とても興味深い演出だった。
 以下は、田口さんがブログ「田口アヤコ 毎日のこまごましたものたち」に書いた「女中たちあらすじ」の後半引用です。http://taguchiayako.jugem.jp/?eid=297

奥様の 赤いドレス 白いドレス たくさんの花々
じぶんたちの屋根裏部屋のみじめさ
じぶんたちの生活のみじめさ
ごぼりとくさいにおいを放つ 台所の流し
なんどもなんどもくりかえす 奥様ゲーム
ゲームは奥様を殺すことで終わるはずなのに
女中は奥様を手にかけることができない
カーテンをドレスのかわりに巻き付け
上流のじぶんを演じるクレール
奥様を殺そうと殺そうと絞め殺そうと
毛布をめくることができなかったソランジュ
どこまで相手を責めても
相手は鏡にうつった自分とおんなじ顔をしている

ふたりは 奥様の夫 この家の主人のちゃちな犯罪を警察に密告した
ふたりの企てに反し
警察に取り調べを受けていた奥様の夫はすぐに釈放される
逃げることすらできないふたりは
また奥様ゲームをはじめる
最後に奥様を演じたのはクレール
この家のなかで いちばん高価な いちばんりっぱなカップで
ほんものの奥様を殺そう と用意していた
毒入りの菩提樹茶を飲む。

もっと高貴なじぶん
もっと美しいじぶん
もっともっとこんなんじゃあないじぶん
それは 彼女たちの手には はいらない。

ジャン・ジュネ作『女中たち』は、
「労働」と「消費」そして「愛情」という
現代の女性たちが(いまや男性よりもむしろ女性たちが)
ふりまわされている問題を描いた
「Paris」という都市の戯曲である。                      

労働 は もちろん疲れる。
おんなたちは 鏡の中の 疲れ やつれ しぼんだ自分を見て
ますます老いに近づいていくような気がする。
お互いのすがたをうつす鏡としての「姉妹」

結婚 への あこがれや
気持ちがうきうきする瞬間は すぐに 消 え る
それでも生き続けること
おんなでありつづけること
都市ではたらく おんなのはなし。

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 都市ではたらく女たち。現代の女中たち、会社の事務員や情報産業のIT端末機器オペレーターやデパートの売り子やスーパーのレジ打ちや、家庭で主婦と呼ばれる女中たち。

 こんなんじゃない自分、この自分とはちがう華やかな美しいものに囲まれた自分を求めつつ、働けば働くほど、自分をすり減らし自分の輝きが失われていくように感じている女たち。

 そんなすべての女中たちは、毎日鏡をのぞき込む。
 クレールとソランジュが覗いた鏡。こんなんじゃない自分、もっと美しいはずの自分。他者の輝きがねたましい自分。

 そんな自分をリセットするには、10粒の薬を入れた菩提樹のお茶をあおるしかないのか。
 ソランジュとクレールは、今日の私。今のあなた。

<「女中たち」おわり>

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