日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

山と河にて (24)

2023年10月14日 03時43分27秒 | Weblog

 健ちゃんは、皆が崖淵の方に景色を見に行った後、残ってもらった永井君と草わらに対面して座り
 「今度から、町内会や商店会に積極的に参加してくれるとのことだが、君は頭も良いと言うことだし、人当たりも如才なく柔らかくて、会員の親睦と商店街の発展に頑張ってくれ」
 「町内会は任意団体で法律的な裏付けがなく、纏めるのに苦労もあるが、君なら性格的にも適任だと期待しているよ」
と言ったあと
 「聞くところによれば、珠子さんと結婚するらしいが、彼女とは同級生だろう?。兎に角、おめでとう」
 「俺が口出しするのも、出すぎている様で失礼だが、城(珠子)さんの家族は店のお得意様で古くから親しくさせてもらっているので、差し支えなければ、これまでのいきさつを聞かせて欲しいのだが」
 「君、珠子さんを幸せにする確かな自信があるんだろうな?。極めて当たり前のことだが・・」
 「君の過去のことについては、色々と耳に入っているが、単なる噂かも知れないが、結婚後は、噂と言えども、彼女を泣かせることのない様に俺からも頼むよ」
と言うと、永井君は、健ちゃんの黒々と光る鋭い眼差しを見て、少し緊張した顔で

 「今後、色々とお世話になりますので、健太さんには、正直に話しをしますが、今までは、同級生や取引先で知りあった5人位の女の子と、興味半分でsexプレイをして遊んだこともあり、珠子さんもその中の一人でしたが、これからは、その様な遊びは慎むことにします」
 「僕達の仲間は、皆が、夫々に彼女をつくり、気楽に遊んでいたので、僕も皆と同様に、特別に恋愛感情なんて持ち合わせなく、女性に対する興味から、軽い遊び気分で付き合い、皆、2~3回位sexすると、自然に別れてしまっています」
 「そのことで、あとで女の子に泣かれたり、又、文句を言われたこともありません」
と正直に告白したので、健ちゃんは、彼の正直すぎる返事に、一人っ子で甘えん坊なところがあるなぁ。と思い、ついでに

 「珠子さんとは、何時ころから、どの様な動機で交際を始めたんだい。彼女にきちんとプロポーズしたのかい?」
と聞き返すと、彼は額に手を当てて、少し思案したあと、重苦しい口調で
 「珠子さんとは、高校生時代2~3回遊んだが、高校卒業以来は逢ったことも、勿論、遊んだこともありません」
 「最近、急に彼女との結婚話が周囲から持ち上がり、僕も驚きましたが、彼女ならしっかりしており、彼女の心も身体も知っており、他の女性よりずぅ~と好きで、僕にはもったいない人と思っておりますが、未だに、この話が半信半疑で信じられないので、従って、まだ、プロポーズはしておりません」
と、健ちゃんに対する畏怖と恥ずかしさから、青ざめた顔色で答え、更に
 「彼女を幸せにする自信があるか。と、正面から聞かれても・・」「まぁ~、精一杯努力しますと答える以外に、確かな返事は・・」
と、言葉を濁してしまった。 

 健ちゃんは、彼を見つめて諭す様に
 「君達の結婚について、俺が言う立場でもなく、大変失礼だが、生意気ぶって言わせて貰えば、君が幸せを得る反面、影で悲しむ人がいることを決して忘れないでくれ」
 「それと、商工会の役員会の慰労会で、区会議員が君と珠子さんのことを盛んに言いふらしていたが、あの様なことは、君の名誉の為にもさせない方が良いと思うよ」
と、先輩らしく一言注意すると、彼は
 「区会議員の件は、お袋が僕と珠子さんの結婚を焦って、多額の謝礼金を払って頼んだらしく、あとで知らされて、余計なことをしないでくれ。と、母親と喧嘩してしまったが、健太さんも知っていると思うが、お袋は婿とりで、普段、威張っているので、親父も面白くなく外に女を作っているらしく、我が家も内情は、たった三人の家族が内戦状態で大変なんですよ」
 「それだけに、しっかり者の珠子さんに来て欲しいと、お袋の方が僕より熱心なんですよ」
と、聞きもしない家庭内の事情まで暴露して、真面目な顔で話したあと俯いて

 「僕達が結婚した場合、悲しい思いをする人がいることは、噂話で承知しておりますが、恋愛や結婚にはメロドラマの様に悲喜がつきもので、僕なりに、僕の知りうる範囲内の人で、将来、個人的にも、また、商売の上でも、大切な人達には、どうしたら皆が納得して、誰もが心に傷を残さずに、この話が円満に治まり、そして、僕が親に干渉されずに一人前に生活して行けるか、日夜、真剣にその方法を考え悩んでいるんですよ」
 「場合によっては、健太さんにも応援をお願いをするかも知れませんが、そのときは是非力添えを、宜しくお願いします」
と、彼の心情を聞かされて、健ちゃんは、それこそ想定外のことで逆にビックリしてしまった。
 と、同時に、成る程、彼は頭脳明晰で性格も温和であるが、家庭内の事情から推察して、珠子の結婚について、前途に不安な予感が頭をよぎった。

 健ちゃんは彼の話を聞き終えると
 「いや、正直に話して貰って、君の人柄と悩みは良く判ったょ。余計なことを聞いて迷惑かけて済まんかった」
と言うと、永井君も笑顔を取り戻して、互いに握手したところ、永井君が空を見上げて
 「健ちゃん、風が冷たくなって来たようだし、雲の流れも早くなったようだが・・」
と言ったので、彼は上空を見上げていて
 「本当だ、夏山の天候は変わりやすいので、下山することにしよう。皆に連絡してくれ」
と返事して身支度を整えていると、珠子達が集まって来て、彼は女性達に
 「天候が急変する様なので下山するが、風に煽られないように帽子はリュックに仕舞い、スカーフで髪の毛を覆い、首にはタオルを巻いて、何でもよいから重ね着して、登るときと同じペアで、六助組が先頭になり、岩石の崖は濡れているので、足元に特に注意して男性が手助けして、ゆっくりと降りろ」
と言うと、女性達は薄手のニットのカーデガンの上にジャケットを重ね着て支度が整い終わると、彼は「さぁ~、出発だ」と号令を掛けて一行は下山をはじめた。

 最初の急勾配な断崖に差し掛かったとき、各ペアとも、男性が先になって岩盤に這い蹲り、一歩一歩足元を確かめながら降り、後から降りる女性の足元を気遣いながら、その都度「よし。ヨシッ!」と声をかけて降りたが、崖を降りたころで、尾根を渡るように強い風と濃い霧が流れだしてきたので、健ちゃんは
 「風が強まり、霧が濃くなって視界が悪くなったら、大き目の岩石の影で低い姿勢で屈み込み、男性は風上になり身体を利用して、遠慮することなく、彼女に覆いかぶさるように抱きしめて風から守れ」
と大声で注意を与えていた。
 敬虔な信仰者である小柄なマリーは、六助に向かい、胸に十字をきり
 「主よ、六助とわたしを、風と霧から守り給え」
と祈ると、その様子を見ていた他の者達にも一瞬緊張感が漲った。



 

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