日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

蒼い影(44)

2024年08月22日 02時58分37秒 | Weblog

 節子さんが話し終えて自室に入ると、理恵子達三人は、また掘り炬燵に足をのばして仰向けに寝そべり、江梨子が冴えない顔で
 「私 小島君に悪いことをしてしまったわ。どうしようかしら」
と、節子さんの話に強く刺激されて溜め息をついた。  
 理恵子と奈津子は、自分達のこれから先の親しい先輩である彼氏との別れが近いことで、寂しさや不安で頭が一杯のところに、江梨子が困った様に呟やいたので、二人は勝手に思い巡らす架空の世界から急に現実に戻り、気性の勝った奈津子が
  「江梨ちゃん あなた本当は、机を並べている隣席の小島君に親しみを感じているんでしょう?」
と言うと理恵子も
  「そうよ 毎日机を並べていれば、そうなるのが自然だわ」「私も、あの子にはどことなく好感がもてるわ」
  「江梨ちゃん 本心はどうなの?」      
と、二人で口を揃えて聞くと、江梨子は両手を手枕にして天井を見ながら小声で
  「お二人さんとも いやねぇ~」「そんなにずばり聞かないで~」
と、顔を少し赤らめてフフッと笑いながら
  「それは、嫌いではないわ。何しろ毎日隣で無駄話しをしたり、たまには足を軽く蹴りあったり、お弁当を覗きこんだりしておかずを交換したりしていれば、他の人達よりも親近感が湧くわ。 ね~ そうでしょう。」
と答えたあと、口調を強めて
  「だからと言って、貴女達の様に恋人としての感情はないわ。普通の友達よ」
  「本当のことを言うと、彼、ときどき家に遊びに来ているが、ひょうきんで愛想がよいので、そのためか、わたしより母親や妹に好かれているのよ」
と、正直に話すと奈津子は
  「み~んな その様な単純なことから恋がはじまるのよ」
と、少しばかりこの道では先輩らしく、別れの近い自分達とは反対に、これからの江梨子が羨ましく思えた。
 奈津子は少し間をおいて        
  「ねぇ~ 理恵ちゃん、江梨ちゃんのために、野球部の先輩で彼氏の織田君から次のキャプテンになる大島君に、小島君を是非正捕手として使う様にたのんでよ」
  「あの子。一年中補欠として頑張って来たのだし、今回のことで、また、補欠では可哀想よ」
と言し出し、理恵子も
 「そうだはね。江梨ちゃんのためにも、わたし、精一杯織田君を設得するわ」
と、二人の意見が一致した。
 理恵子にすれば、暫く逢っていない織田君と話が出来る絶好の機会と思った。

 そのあと参人は、誰が言うともなく
 「ねぇ~ 今度の日曜日は、予報では晴れて気温も上がるとゆうことだし、この際、厄払いしてツキを取り戻す意味でスキーに行かない」と、理恵子にとっては苦い思い出でではあるが、揃って遊びに行くことに決めた。

 日曜日の朝は予報通り快晴で、理恵子は出掛けに節子さんから注意を受けた後、駅で三人が待ちあわせ、郊外のスキー場に向かった。  
 小高い山頂にたどりつくと、三人揃ってわざと自分達の技術では無理な急斜面を滑って、雪煙がサット舞い上がり、わざと転倒して雪の中に身をしずめた。  まるで白いお化けの様に新雪にまみれたが、冷たさが心を洗ってくれてるように思えた。
 雪の中から覗く景色は、白銀の山々が陽を浴びて青空に白く輝いており、山の下のほうにはゴマをまぶした様に街が展望された。
 大地をおおった厚い雪に、弾力のある若い身体を沈めてゆくのは、今の自分達にとって最高のストレス解消であり、凹地に入ると、厚く白い雪の起伏のほかになんにも見えず、孤独感が襲ってくるが、理恵子は、いまここに織田君がいてくれて、強く抱きしめてキスをしてくれたらなぁ~。と、あられもない欲望を覚えた。
 そして、この様な欲望が心に湧き出るのは、決して恥ずかしいことではない。と、これまで一年を通じてお互いに育んできた純真な恋を確信すればこそ、自然のことと思つた。
 おそらく、他の二人も、とりわけ情熱的な奈津子も、そんな欲望にかられているのではないかとも思った。

 思い切り遊んで帰宅した理恵子は、母の節子さんから
 「たった今、織田君がお母さんと一緒に来て、大学入試センターでの試験に合格した。と、わざわざ御挨拶に来たのよ」
織田君は「理恵ちゃんは?」と聞くので、「友達とスキー場に遊びに行きましたわ」と返事をしておいたは。と言ったあと、「なにか貴女に伝えたいことがある様な様子だったわ」と付け加えた。
 理恵子は、それを聞いて内心嬉しい様な反面、寂しいがなにか訳のわからない胸騒ぎを覚え、入浴後、夕食をすませると自室に入り、ベットに横たわって、壁に貼った織田君の写真を見ながら、今後の織田君との関係をどうするかを真剣に考え込んだ。

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