理恵子達三人にとって、今日は全てが考えていることと反対の所謂ツキのない日で、学校を午前中で退校して、理恵子の家で炬燵に入り、思い思いにお昼時間の出来事を勝手に語りあっていたところに、節子さんが、「ただいまぁ~」と声をかけて帰宅したので、三人は予想もしない早い帰宅に慌てて炬燵から抜け出し、恥ずかしげに姿勢を正して「お帰りなさい。お邪魔しております」と手をついて丁寧に挨拶すると、節子さんは
「まぁ~ こんな時間に、どうしたの?」「今日は、早退日ではないでしょう」
と、炬燵の上に無造作に広げられた弁当などを見ながら不審な顔をして尋ねたので、理恵子が
「今日は、もう~ 何もかも滅茶苦茶よ」「ねぇ~ お二人さん」
と返事をして、その日のお昼時間の出来事を話しだしたら、節子さんは、フフッと苦笑いを浮かべて、
「貴女達の気持ちも判るが、その様なことで早退するなんて、まだ幼いのねぇ~」
「これから、上級生に進むと、もっと色々なことがあるわ」
と、自分も炬燵に足を入れて並んで座り、三人に対し同じ目線で
「江梨子ちゃんは、偶然とはいえ、いい実習をしたのね?」「小島君は、さぞ痛い思いをしたでしょうねぇ~」
と、睾丸が急所であることを簡単に説明すると、理恵子と奈津子が、口を揃えて「あらぁ~ そうなの、ちっ~とも知らなかったわ」と言いながら口を抑えて恥ずかしそうにクスクスと笑った。
節子さんは、ベテランの看護師らしく、前々から理恵子に常識として話しておこうと思っていたことを、この際、丁度良い機会であると思い
「貴女達、女性にとってとても大切なことなのですが、HPVと言うことを聞いたことあるでしょう?」
と語りかけたら、三人が「保健の時間に教えられたことがあるが、詳しいことはよく判らないわ」と、返事をするので、この年頃で難しい医学的なことは無理と思いつつ、要点だけをかいつまんで
「あのねぇ 女性特有の、子宮癌とか子宮頸癌とゆう病気のことは、判りますよねぇ~」
「今は、乳がんと並んで三人に一人が癌になると言はれている時代で、病院にも多くの人が訪れるわ」
「勿論、検診の人もおりますが、中には手遅れで手術をする人もいるわ」
「原因は、ヒトパピローマウイルスと言うウイルスが、感染して発症するのよ。これは男女に関係なく、皮膚や粘膜につくウイルスで、主な原因は無用心で感情的なその場の雰囲気での性のまじわりで発症し、特にパートナーが複数の場合、その感染率は高いと言はれているのよ」
「最近は、若い中学生の患者も多いので、よく覚えておくのね」
「貴女達は、その様な危ないことはしていないと思うが・・」
と、説明すると、三人は半ば恥ずかしいのか顔を伏せながらも真剣に聞きいっていた。
節子さんは、普段、理恵子に対し気になっていることを一気に話すと、堅くなった雰囲気を和ませるためにも話題を変えて「小中学生のころの異性に対する憧れと言うか片思いと言うか、その頃の淡い切ない思いが、今は少し型を変えて大きくなった様なもので、これから巡り来る恋が本当の恋なのよ」
「それには、お互いに立場を理解し、そして健康をおもいやり、自分達の出来る範囲内で協力することが大切だと思うわ」
「その様な交際を続けて行くうちに、成熟した恋が実るものなのよ」
「決して自分の我侭で、焦ることは禁物よ」
と話をしたあと、理恵子の顔を見て
「理恵ちゃん!成人になるまではキスまでよ。 お母さんと約束してね。 貴女の愛が永遠に変わりなく誇れるものであると、自分で一生信じられるためにもね」
「それが幸福の原点なのよ」「例え経済的に苦しいときがあってもね」
と、自分の過ぎ去りしさまざまな想い出を心の中で回顧しながら、厳しい言葉も交えながらも優しく話してやった。
別れの季節でもある三月は、誰しもが未来に描く希望と現実の寂しさや不安が入り混じる季節でもある。