山合いの街で開催された春恒例の慰労会。
当日は、朝から晴れわたり、普段限られた人達だけの会話と異なり、近隣町村の参加者の中には連休で帰郷していた人達の顔も見えて話題も増え、会場は賑やかな会話で盛り上がって、皆は本能的に身体を動かしたい心の躍動感に誘われている。
遠くの飯豊連峰も白銀で神々しく眺望でき、なだらかなスロープを描いて駅のある街場に連なる緑の棚田も、雲ひとつない青空のもと、早苗が植えられた水田の水がキラキラと日光を反射させて眩しく輝いていており、まるで光る池のようだ。
連休最後の日曜日を利用した慰労会は、中学校の運動場で開催され、近隣市町村の老若男女を交えた人々で賑わい、卒業生を加えた人数が増えた吹奏楽の演奏から始まり、華ばなしく開催された。
この慰労会は、農作業で疲労した身体を癒す人々や、サラリーマンで運動不足を気に留めている人達が、夫々に、健康保持と普段途絶えがちな人々とのコミュニケーションを図る目的で開催されている。
外国での生活経験豊富な診療所の老医師が、名誉会長とはいえ元気溌剌、会員の先頭に立つて会を運営している。
ダンスクラブは当初参加者が少なく寂しい会であったが、会を重ねるに従い口コミで広がり、現在では、小学生から中高年層と多士済々で、フォークダンスや社交ダンスと多種目で、多少ステップを間違えても、かえって愛嬌を誘い気楽さから参加者も増えて程よい人数となつていた。
今春は趣向をこらして華やかに開催するとゆう名誉会長の音頭で、会場の窓を暗幕で覆い、借りてきた照明器具を使用して雰囲気を盛り上げる様に工夫をこらしたが、本音は初参加者の羞恥心を薄めることにあるようだ。
生活慣習が全てに保守的な地方では、ダンスは都会の若者の娯楽とゆう観念が未だに強く残っている以上、参加者を含め多くの人達にリクリエーションとして認知してもらうには、この様な配慮も主催者には必要かも知れない。
吹奏楽の方は、何時もの見慣れた顔の先輩後輩で音合わせも順調に進み、馴染みのないダンス音楽の曲目は、会場の音響施設を利用しCDを用意して準備は完了した。
会場の準備は、常連の参加者が過去の経験を参考に知恵を出し合い設営に取り掛かったが、素人集団のにはか作業のため、照明操作には大分汗をかいていたが、なんとか準備を終えた。
さて、ころあいをみて名誉会長の開催趣旨を兼ねた司会のあと、最初に高校生の織田君の指揮で吹奏楽で雰囲気を盛り上げ、心の硬さをほごす意味で、行進曲「旧友」に続いて「泳げタイヤキ君」など、誰もが聞きなれた曲を軽快に演奏し、音響効果宜しく会場に熱気が盛り上がったあと、ダンスを踊ることになったが、最初は各人が相手の指名に遠慮してモジモジしていたが、これも名誉会長の咄嗟の発案で、最初のパートナーを、初・中級者のペアをと考え抜いた末の組み合わせで指名した(これがなかなか難しいのだが?)そこは老医師の人徳と巧みな話術で一方的に指名したので誰もが気楽に応じた。
何時ものことで、服装は普段着を原則とし、例外として自分の好みの服でも良いとしていたので、常連の居酒屋のマスターは、店でも時々客の求めで着る、競馬の騎手が着る派手な色彩の騎手服に半長靴でニコニコと愛想の良い笑顔で臨んできた。
マスターは、相手を高校の英語の助教として一年前に単身で来日している20歳代の少し肥満気味だが美しきヤンキー娘とペアを指名され、皆から大きな拍手を受けたが、彼はそれとは反対に一瞬笑顔が消えてしまった。
ちなみに、マスターはこの地の中学を終えると、自分の身体的特徴を自覚し、また、動物好きでもあったことから、地方競馬の騎手となり、新潟・山形・岩手・名古屋と、競馬の衰勢につれて各地を転戦したが、40歳でムチを置き故郷で居酒屋を経営しているが、性格が明るくて愛想が良く、話題も豊富なため人気があり、その人生経験の賜物か、カラオケとダンスは非常に上手い。
一方、相手に指名された彼女は、黒縁の眼鏡をかけやや丸顔を包むように髪を伸ばし、やや肉付きは良いが背丈に比例してスレンダーに見える。
当然のことながら背丈は高く、当日は薄桃色のセーターと黒のロングスカートにハイヒールとゆう姿で出席していたが、その顔には絶えず微笑みがあり、愛嬌のあるアクセントだが日本語で参加者に語りかけていた。
会にも来日以来毎回積極的に参加していて、老医師の孫娘である小学6年生の美代子の家庭教師をしている関係で可愛がられていた。
理恵子は赤いセーターと通学用の紺色のスカートで装い、秋子さんは初参加の節子さんの希望を受け入れたのか、共に薄い青色のセーターと黒のロングスカートで服装を揃え、会場に姿を見せていた。
秋子さんは診療所からの一時帰宅のため片隅の椅子に座っていたが、節子さんは会場に入るや、理恵ちゃんに会場内をあれこれと案内されていたが、理恵ちゃんはこの様な雰囲気が好きらしく、先輩の男子高校生と機嫌よく話を交し会場内を歩き回っていた。
理恵子とは仲良しの高校生の織田君は、節子さんとは初めての顔合わせで渋ったが、理恵ちゃんの強引な誘いで節子さんの後について説明していたが、羞恥心もあってか顔が少しこわばっていた。 それでも理恵ちゃんの陽気さに仕方なく引きずり廻されていた。
他の会場でも見受けられることだが、この年代の青少年は体育系の部活を除き、どうも女性のリード役が多いようだ。
吹奏楽の部活は女子が多いためか特にそれが顕著である。