母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

手のひらの秋

2015年11月24日 | 季節
手のひらには秋がいた

そっと訪れる冷気のなかで秋はいつも

季節の香りをさまざまに撒いて行くのだった

押し寄せるように力強い稲穂の匂い

草むらの匂い土手の乾草の匂い

菊の花たちの匂いまた何処かから

漂ってくる植物の煙の匂い

色ずく柿の葉にさえ香りがあり

埋もれた病葉が重なりあうその下には

湿った豊かな土の匂いそして

澄んだ眼の動物たちのいのち満ちる匂い いのち果てる匂い

霞のような匂いをその大気の中に漂わせ

秋は遠い記憶を鮮やかに浮かび上がらせる


移りゆく光の中に鼓動し

広げた手のひらに毎年訪れる秋

しかし同じ顔をしてはいない

一度限りのことしの秋


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糸のような月

2015年11月17日 | Weblog
晩秋の日の暮れ
西の空に浮かぶ糸の様な月

暮れゆく空はサーモン色
暮れゆく空に僅かに残る青空
絵具を流したような雲の移動
その空に傾くように浮かぶ白い糸の様な月は
この世界の物語のなかの不思議な生き物のよう

明るい丸い満月はめでられ
暗闇に浮かぶ新月は人の想いを深めるが
上弦の月は青い夜の詩の中で
魔的に病的にうたわれてきた

真っ黒い猫が
夜の屋根の上で尻尾を立てる時
糸の様な三日月があらねばならないのはなぜか
光の細さに人は何を不安するのか

糸菊の花の匂いが残る庭に
糸の様な白い月が浮かぶ夕暮れ
生きる悦び盃に受ける酒の楽しみ
ひんやりの大気のまことに好ましい豊かな秋の終わりに
強靭な日本刀のような絹糸のような
三日月が浮かび暮れてゆく


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