母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

生糸のうた

2014年06月24日 | 
天には星

地にはプラチナ

地上には絹

クリーム色の生糸は

人の肌を何世紀も包んで来てくれた糸

絹の真綿は

蒲団の布に薄く張られ

優しい眠りを守ってくれた大繭から紡いだ糸

小さな白い虫の吐くミクロンの糸は

つややかで冷たく美しく

第二の肌のように体にまとわり息をして

未来に向かって人の心を魅了し続ける

クリーム色の生糸のうねりは自然の造る最高の輝き

うねりの中には農民たちの

静かで貧しい素朴な暮らしがみえる

晴れの日のほかに絹を纏うこともない村で

桑の木はそらに向かって伸び

桑の葉はのびのび手を広げ

濃い紫の桑の実が実る夏

世界のどこかで今日も小さな虫と人間が無心に

愛しい真白い繭を育て

クリーム色の糸の夢を織っている

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愛加那の島

2014年06月03日 | 
黒潮の海に浮ぶ島に
人の歴史は静かに眠る
墓石は初夏の強い日差しの中
凛と立っていた
墓石に刻まれたその人の名は 龍 愛子 郷士の娘愛加那
加那 は愛しい人の呼び名という

薩摩の侍の流鏑の地は
素朴な島人が今も住む小さき美しき島 奄美

島人らは大男を初め恐れていたが 
心の大きさにいつか惹かれて
二人の婚礼の祝いは賑やかだったが三年後
時代はまたこの侍を必要として本土に連れ去った
海を隔て二人が会うことは二度となかったという

島妻は
やがて2人の吾が子も引き渡し
二部屋の家に独り暮らし 
吾子らの手紙を唯一の楽しみとし
明治も固まるその三十五年
六十五歳でひっそりみまかった
豪雨の野良に出かけて倒れそのまま
静かにこの世から去ったという
愛加那は強く聡明な島娘だった

明治も遠い今もなお
奄美と鹿児島とは伝説となった二人の男女の
メモリアルを共にすることもなく
島人の 愛加那への思いはあまりにも深い

心広き侍 西郷南州は国の未来を信じ
歴史の波間を薩摩に散ったが
短き愛の日々をすごした青き島この小家屋に今も心を寄せ
苦難の日をともに過ごした愛しい人の墓を
遠くから守り続けているだろう

奄美は
四方を青い海に囲まれ真紅の花を咲かせる島
愛切な思い出を語る赤い花を
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