母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

鳳仙花

2018年08月14日 | 花(夏)
鳳仙花を
見なくなったのはいつからかしら

鳳仙花は
触れるといきなりはじけだし
可愛い実はそっくりかえる

庭の真ん中でない隅のあたりに
遠慮がちに咲く花だった
なにかつつましい花だった

でも鳳仙花はまっすぐで
曲がらずきちんと立つ花だった
背中の辺りが奇麗だった

あれから何年も何年も
鳳仙花の花を見なくなった
それは流行歌の中にだけ咲く花だった

鳳仙花の
漢字に見える尊さうつくしさに
遠い日を想う盂蘭盆の朝

見知らぬ村ちいさな村の家の隅で
咲き続けているだろうか鳳仙花
ホウセンカよ
鳳仙花
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入道雲へ

2018年07月21日 | Weblog
夏空の将軍
入道雲
その雲が湧く空には
青春のみなぎる力溢れ
世界は自分のため光リ耀いて見えた

キスゲの花
背を伸ばしたクローバー
未だ開かぬ吾亦紅
夏草は茂り
土手は幾つもの生命を宿し
用水には小魚が群れ
季節は盛りのいのちを謳歌していた
やがて来る秋の気配も見えず
入道雲は毎夕
山山の稜線を越えて訪れ
空一杯に勢いを増し
やがて恵みの雨を大きな如雨露になり降り注いだ

入道雲は夏の父
いきなり空に雲が黒く広がり襲ってくる
強い雨脚は
いたずらを叱る父の声のようだった

入道雲は優しい母でもあった
安倍川餅を皿に盛り
さあ食べなさい残さずに
と襲ってくる母の気配もあった
私はサイダーのほうが好きだった

厳しく青い空の下の
夏休みの子供の時代は
午睡の夢になり毎年襲ってくる
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赤松林の山百合

2018年07月08日 | 花(夏)
湧き水の階段を上がると
赤松
どっしりの松の木の下に群れて咲く
山百合

大輪の百合は白い花びらに赤い鹿子
木漏れ日の中で
夏のいのちを輝かせてゆらりと揺れる
山林の女王様との再会 幸せの時
  

雨に濡れた落ち葉たち
そのかすかな香り

遠く流れる百合の香に誘われて
黒揚羽がヒラリと舞い来る
赤松の林
夏の朝


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去った家

2018年06月30日 | Weblog
坂を登り切ると家はあった
四季にはそれぞれの花が咲き
野鳥が飛来し
梅の枝の虫たちをついばみ
人工の瓢箪池にはガマガエル
毎年夫婦でやってきてその
家主のような振る舞いに
少なからず誰もが笑わせられたものだった

人々も沢山やってきた
それぞれの胸に家への懐かしさ以上の
思いを抱かせられて

家にはなにゆえかいつもはかない夕暮れの芙蓉の花のように
輪郭を欠いていた
なぜなら家には
家族の匂いがなかった

家は何時も何かを拒んでいた
サロンのように放たれながら
折々の花が飾られていても
何時も人の心の侵入を畏れているかにみえた

あるじはいつか老いて風になってか
十二月の朝忽然と消え
嵐の日々が何ヶ月も襲いやがて
コトリ のもの音もない静けさの後
家の形は崩れてあっけなく消え去っていった
何事もなかったように誰も居なかったかのように

椿咲き 梅香しく蕗の薹遊び
アマリリスが咲き
水仙ヒヤシンスの根を植え
野鳥も野猫も水を飲みに来
家はその昔 迷う生き物らのオアシスでもあったろう
僅か数十年の歴史にそれなりの楽しさもちりばめ
凝縮されていった言葉たち
寡黙な心の軌跡をぬぐいさるには何年を要するだろうか

また六月の花を子のないあるじは愛した
その歳月レンズが捕らえた水いろに開いた可憐な花たち
露草の透き通る青の美しさに
去った時間の思いが揺れ残る


今はない幻の土地 坂の上の緑豊かな家
集った人々の笑い声 足音 漂う墨の香

思えば短かい人間の生きた証 儚すぎる宴に
はらり落ちた わたしの
涙のゆくえ

                    (1989 12)

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おたからの歌

2018年06月19日 | Weblog
かなしきは 金(きん)
うれしきは カネ
あやしきは マネー
いとしきは 金子(きんす)
こっそりと まる
どうどうと ゼニ
おおらかに ぜにこ
有り難きは おたから
おがむばかりに 菩薩

そのかみの ボニーとクライド
花咲爺とポチは裏の畑
竹やぶの大金 時効の三億円
赤坂のベンツ永田町の首
金庫の中身
黄金色の中毒

労働組合は合い言葉 代々木の初夏
公定歩合の浮気
金利の発熱 微熱
妖怪の棲む兜町のべにばら

あの街この街だまされて
だまし抜いて日が暮れて
そそのかされ
たぶらかされ
男と女
親を泣かせ子にたかり
昇る日沈む日
ひそやかに日めくり

ジェラシーを終わることなく育てながら
相続人に被相続人
他人の芝生も自分の芝生
他人も血縁も
ありったけのファイトを燃やし
妬み憎しみ慣れっこの
目に見えぬ 淋しき格闘技

めまぐるしい時の流れ
古今東西
生き物にならぬ まぼろし
しかして息する気配もする
したたかではかないかたちの生き物のような
おたからよ

    (1993.秋)

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梅雨の句

2018年06月11日 | 季節
・雨雲の下はみどりに湧く清水

・この庭の門閉じさても猫の道

・軒なくも親子猫棲む薮いとし

・水の風空気を込める夕べなり

・芍薬のつぼみ石にも語り合う

・りらの木もはや老木となる生家

・くちなしの香の流れてる坂の上

・混声のユニゾン雨の音色かな

・清涼の音なにやらむ雨を詠む

・雨の月はグラジオラスを捧げたく

・早咲きのラベンダー積み終え雨待つ日

・ひとくちのスイカの赤いいのちとて
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かぼちゃの心

2018年05月31日 | Weblog
去年の冬の日
ご主人様は習わしで私を食べた
ほくほく美味しいと言ってくれた
私は北海道の広い空の下で
兄弟と一緒に大きくなり
飛行機や車で運ばれて
知らない町で切り分けられ
お店の店頭に積まれていた
切られても痛かったわけでないけれど
少し淋しかった
でもご主人は私を手に取り眺め回し
にこっと笑い私を選んで運び
ホーローの鍋で甘辛く煮て食べてくれた
食べられるのは運命
私はご主人の身体に染みこんで生きてきた
たっぷりの太った種をご主人は
野鳥の冬越えに とプランタに乗せたのだ
鳥のおなかに入らず残った私は
暖かくなるとむずむずしてきて
とうとう芽を出す気分になったのだった
ご主人は農家の生まれだったからちいさな芽を愛しみ喜んでくれ
大きな鉢に植え替えて
私を大事に育てることにしてくれた
でもここは地上30メートルの風の吹く場所
ご主人は添え木を立て大切にしてくれるので
遠慮しながらも大きな葉っぱを幾つも広げてしまったのだ
ジャックの豆の木ではないけれど
添え木に巻き付いた蔓がその気になり
二メートルでは足りないくらいだ
ここは納屋の屋根もないし地面もない
でも食べられてもいのちが繋がり生き残り
緑色の大きな葉っぱを広げる幸せ
黄色に開いて咲く花の 
つぼみの数をご主人様は毎日数えて笑っている ふっふ

大風よお願いだから吹かないでーーー
毎日空を見ながら 葉を広げる私です



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ポエトリー

2018年05月13日 | Weblog
猫はのんびりと昼寝
おなかに春の陽を浴び
ヒゲはひくひく

ある日突然猫がむっくり起き上がり
絵筆を取り出したら何を描くか
硯に墨をすりだし
紙をくれ
などと言ったら そして
立派な文字 達者な線で圧倒し
私の机を占領していたら...


が やっぱり 
猫は目に見える線は描かない
文字も読まない書いたりしない
食と昼寝と身繕いの好きな
恩知らずで勝手で可愛い生き物だ

それでも思う猫が遠くをある日眺め
ふっ とため息をついて手紙を書いたり
絶望して高いベランダから身を投げようとしたり
なんかしていたらー

見せかけだけの人間の詩人はかなり戸惑う
何か恥ずかしく 表通りはそーっと歩く

猫はきっと
締め切り日が来たからなどの理由で
無理矢理面白くもない詩を書かない
コンクールのためだからと
大きなキャンバスに背伸びして
高価な絵の具を塗り込めない

猫こそ自然のままの詩人で画家
無垢で心優しい孤高の芸術家なのだ

不純な動機いっぱいの人間界の芸術師は
猫のおしっこよりもっと酷いにおいで
ときおり純な人々を悩ますが
涼しい瞳ののんびり猫には
なんの関わりもないことです



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りらの空

2018年05月04日 | Weblog
童話のように小さく老いた
父と
母の 庭で
この空と花の位置をどうしよう
途方に暮れるのは
豊かすぎる賑わいの
花の色 空の色
ようこそ と迎えるには
花は大地に似合いすぎて
迎えられているのはいつも人間

見上げれば
おとめのかわいい乳首のような
淡いローズマダー色のりらたちの花房が
甘い香りを揺らせている

短い今年の五月
新緑の季節を
おとぎ話のような時は流れて
黒々の火山灰の台地にりらの花と
童話の父母がちいさく並び緑茶をすすり
花の位置はもう
変わらない

  

    清水みどり詩集『黒猫』 1997年 東京学芸館 より
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残酷な春

2018年04月29日 | 青春
ゆっくり眺める間もなしに
大急ぎで通り過ぎて行く春の花は
人の心に燃え残る短い青春のよう
冷酷ともいえない自然の風情で
あっという間に立ち去ってゆく

陽光の下に
午後の暖かい空気を浴びれば
既にはらはらからかうように散り急ぐ桜
曙色のあらしのはなびら

大輪の牡丹の花は
盛りの美しい顔をふと陰らせ
時の流れを刻んで無情に変貌し
丸い舞台をあっけなく回していく

駆け足で秋はやってくるが
春は飽きっぽく心変わりする恋人のように
衣の裾ひらりひらい翻して
無情な顔で遠ざかる

取り残された哀れな人間は
いつものように仕方なくも
自分の年輪をまた数えなおし
みなしごのように辻で佇んで
糸のようなため息などつくだけ

毎年やってくる美魔女の面影抱き
自らはまあ一年ごとに古くなっていくのにね
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七重の塔

2018年04月08日 | Weblog
礎石は春はにぎやかに
桜の広場におわします

礎石の上に聳えてた
七つの屋根の大建築
東の国の国護り
天平の甍の夢に目覚めるとき
平成の風が吹き渡る


花咲く春をいとしんで
去りゆく季節をおしみつつ
花愛で酒飲み語り合う
善男善女のこの春日

広場に残るいにしへの
石のならびの金堂のまぼろしを追い


天平平成ひと続き うるわしはなの春
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そして葉桜

2018年04月02日 | Weblog
坂を上がると桜の木があった
毎年毎年 必ず行くその通り
桜の木は脇に木蓮の木を従えて
大きく大きく枝を広げる

少し高い塀に護られ
静まりかえる一軒の家の
庭にあまりにも大きく太い桜の木
何十年も立ち続け
春を知らせる木なのだった

月曜日の郵便局の帰り
また逢いに行った桜の大樹
道に舞い散り落ちてかさなり
ピンクの砂のように はなびらの宴

葉桜に変わりながら
今年も青い空にのびのびと
いのち謳い広がる枝の
さくらの木よ


そして葉桜の時 
  
  ↑ 完全版  唄 ボニージャックス
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七匹のめだか

2018年03月16日 | 
冬越えした七匹のめだか
秋に生まれて晩秋の縁側
糸のようにか細かっためだか
目だけで泳いでいるような
心許ないちいさな生き物だった

赤赤燃えるストーブの部屋に棲み
水割りのアイスペールのガラス容器のなかで越冬し
兄弟でもりもりとゴハンを食べ
草むらに隠れたり飛び出したり
それなりの楽しみを知っていたか賢いめだかたち
脱落者も無く明るい春を迎えた
ちいさな兄弟たちは知っていたのだ
寒い木枯らしの季節が過ぎたら
明るい春の日が訪れると

透き通るガラスの家に行儀良く棲み
団子のような緑の水草をしゃぶりなめ
また水面にあがり一斉に
ご飯を欲しいと訴えていつのまにか
しらうおのように成長しためだかの兄弟
いのちのいとしさを教える
オレンジ色の七匹の ちいさな
めだか
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ひな様の顔

2018年02月22日 | 
金の屏風の前に立つ
お内裏さまはいとしずか
しろい綺麗な皮膚をして
微笑むお顔の凜々しさに
春浅い陽が少し射し

梅のお花の乱れ咲く
緋色の衣装のおひなさま
結んで流した黒髪の
豊かな三束ね揺れる陽に
しずかな午後がかたむいて

乱れ争うこの世へと
あの世に繋ぐ橋を越え
ヒト型となりいでまして
淋しき人らを慰める
ひな人形の有り難き

白いおかおに灯火して
浅い春は暮れてゆく
静かに立てるひな人形
金の屏風のその御前



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寒の句

2018年02月02日 | Weblog
☆ 満月の赤き光よ雪の街

☆ 雪残る芝生をスズメの忙しく

☆ 残る雪白猫通す竹の道

☆ 春の香を浅く流せりかすみ草

☆ 母の忌に板海苔柚酢飯の色

☆ 柚子すし酢南国土佐からはるばると

☆ 海老の赤玉子の黄色春未だ来

☆ 太巻きを梅と供える晦日なり

☆ 雪の日の猫の体温なつかしむ

☆ 衿に巻くミンクに何をか語らわん
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