母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

手のひらの秋

2015年11月24日 | 季節
手のひらには秋がいた

そっと訪れる冷気のなかで秋はいつも

季節の香りをさまざまに撒いて行くのだった

押し寄せるように力強い稲穂の匂い

草むらの匂い土手の乾草の匂い

菊の花たちの匂いまた何処かから

漂ってくる植物の煙の匂い

色ずく柿の葉にさえ香りがあり

埋もれた病葉が重なりあうその下には

湿った豊かな土の匂いそして

澄んだ眼の動物たちのいのち満ちる匂い いのち果てる匂い

霞のような匂いをその大気の中に漂わせ

秋は遠い記憶を鮮やかに浮かび上がらせる


移りゆく光の中に鼓動し

広げた手のひらに毎年訪れる秋

しかし同じ顔をしてはいない

一度限りのことしの秋



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