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母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

フェンネルは咲く

2022年06月14日 | 
フェンネルは伸びに伸び
お空をめざして咲いた
黄色い小さな花
細い枝の先で楽しそうに揺れ揺れ咲いた

フェンネルの種は薬草湯として袋に入れられ
暖かい湯船のなか人間と一緒に欠伸して湯あみして
やがて袋から出され土に捨てられた
捨てられたけどそ知らぬ顔で
芽を出し伸びて蕾を開くのだ

なんという逞しさ
フェンネルは賢い
フェンネルは美しい
不敵に健康で悩みがない
たおやかに背を伸ばし風に揺れそ知らぬ顔で
初夏の空をめざし咲いた
黄色い花フェンネル
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白い色に還る

2021年11月07日 | 
人は生まれて様々な色を知る
人は彩にあこがれ色に染まり
人はひとの彩を着る

空の色海の色風の色
この世に色は美しすぎ
人は何時か彩に疲れる
疲れ傷つき人は末枯れて
静かに静かに眠りにつく
思い出を語る色は
白いカーネーションか
人は人の心に多くを残し
悲しみ色の白を残す

純粋とは
あなたのためにある亡き人よ
秋の夕暮れひそかに咲く

あなたの人生今は白く咲け
純白に黙す花よ白いチャペルの
いとしきカーネーション

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甃のうへ  ー詩人の春の詩界ー

2021年04月10日 | 
     甃のうへ

        三好 達治

あはれ花びらながれ

をみなごに花びらながれ

をみなごしめやかに語らひあゆみ

うららかの跫音空にながれ

をりふしに瞳をあげて

翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり

み寺の甍みどりにうるほひ

廂ひさしに

風鐸のすがたしづかなれば

ひとりなる

わが身の影をあゆまする 甃(いし)のうへ


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たまご

2020年10月21日 | 
たまごは遠くからやってきて
たまごは遠くに去って行く

温かい丸み
ほんわりする形
たまごはいつも平和で
たまごはいつも眠っている
眠っているけれど
生きて呼吸をする

朝早くめんどりは声高く叫ぶ
目覚まし時計のように正確に朝の光の中で
めんどりの日課の歓喜の声
 私が産んだの
 今産んだの
 早く見に来てわたしのたまご
めんどりの体温のままに生きてるたまごは
ふわり初めての呼吸をする

まあるいたまご
やさしいかたち
青草を食み
土壌の生き物を食べ
美味しい高原の空気を吸って
この世に生まれ来るたくさんのたまご
そしてどこかにいつの間にか
ひっそりと去って行く
もの言わぬ愛しい たまご
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春の祈り

2020年03月12日 | 
ふわりやさしい春の風
心弾む春の音

この柔らかさの中を
生まれてくるいのちと
去って行くいのちとが
挨拶をするわかれみち
その辺りには
黄色い花の咲く野原

甘美すぎてねむくなり
交差して
光と風
永遠の中にいて
気づかずに過ぎていく
時間
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新年(2)

2020年01月03日 | 
海の底から白い二枚貝
大地の岩の中から透き通る水晶
大空を翔る鳥
実るのは木の実
そして地上に沢山の 動きまわるいきものたち

地球が廻り
太陽が燃え
季節めぐらせ
ことしもまた
新年がやってきた

止まらず上がる太陽
その光り浴びて
ことしもまたいのちを磨いてゆく
初めての
二度と来ないたった一つの年
新年
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秋の愁いは

2019年10月19日 | 
紫苑が咲けば母を思い
菊が匂うと父を思う

大地は安らぎいのちの実りが戻る季節
どこかで家を失った人々
家族を失った人たちが
広い空の下で泣いている

愛に囲まれた幸せな日日が
ある日突然に壊されて別世界に放り出され
それでも生きてゆかねばならぬ厳しさに涙する
誰もいなくなった家の跡地で
淋しく命を抱え切なさをこらえ

人は喜び悲しみ当たり前に与えられた日々を過ぎ
いつのまにか深く老い
消えゆく人の世の短さに気づく
その時初めて人間の何が
神の怒りに触れたのか振り返っては天を仰ぐが
もはや深く考える力も残されては居ない

真上に輝く太陽はしずかに傾き
休みなく夜を与え朝をくれる
当たり前の時間が過ぎゆく

ひとは過ちを幾度も犯しても顧みること少なく
この生がいつまでも続くと信じながらやがて
消え去るだけ
天上の父母たちは地上の花の精になり
永遠の謎を黙し
語ることをしない 



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鮎はメロンの香りがして

2019年08月14日 | 
鮎はメロンの香りがして
魚でないと訴えるか

川の魚 海の魚
魚は魚の匂いがするが
鮎は山の瀬の水の中で
植物のように生きるのか

川石に付く苔を食べ
冷たい雪解け水や清冽な湧水を飲み
天使のように暮らしているのか

メロンも知らず
苔そよぐ川の中で
鮎は泳いで番って一生を終える

手に取るとやはり鮎はメロンの香りがして
火に焼かれても恨みもいわず
清流に生きたままの姿で消えてゆく

鮎よメロンの香りよ
清流に生きる美しい
魚よ
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花のむこう

2019年04月05日 | 
花の向こうに人は何を見る
空を埋める曙色の
桜の花に心があるなら
毎年やってくるにんげんの
心の騒ぎを花は 知るだろうか
老いた桜を 
若い桜を 
山蔭に咲く一本の桜を
人はいとおしむ
遠く去った日の数知れぬ想い出を
春を埋めることしの桜の花の
ひとひらひとひらに視て
彩度をいや増す短い季節
花の
いのちの語り
花の向こう
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七匹のめだか

2018年03月16日 | 
冬越えした七匹のめだか
秋に生まれて晩秋の縁側
糸のようにか細かっためだか
目だけで泳いでいるような
心許ないちいさな生き物だった

赤赤燃えるストーブの部屋に棲み
水割りのアイスペールのガラス容器のなかで越冬し
兄弟でもりもりとゴハンを食べ
草むらに隠れたり飛び出したり
それなりの楽しみを知っていたか賢いめだかたち
脱落者も無く明るい春を迎えた
ちいさな兄弟たちは知っていたのだ
寒い木枯らしの季節が過ぎたら
明るい春の日が訪れると

透き通るガラスの家に行儀良く棲み
団子のような緑の水草をしゃぶりなめ
また水面にあがり一斉に
ご飯を欲しいと訴えていつのまにか
しらうおのように成長しためだかの兄弟
いのちのいとしさを教える
オレンジ色の七匹の ちいさな
めだか
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ひな様の顔

2018年02月22日 | 
金の屏風の前に立つ
お内裏さまはいとしずか
しろい綺麗な皮膚をして
微笑むお顔の凜々しさに
春浅い陽が少し射し

梅のお花の乱れ咲く
緋色の衣装のおひなさま
結んで流した黒髪の
豊かな三束ね揺れる陽に
しずかな午後がかたむいて

乱れ争うこの世へと
あの世に繋ぐ橋を越え
ヒト型となりいでまして
淋しき人らを慰める
ひな人形の有り難き

白いおかおに灯火して
浅い春は暮れてゆく
静かに立てるひな人形
金の屏風のその御前



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花の夏

2017年07月25日 | 
それは遠い夏
若かった父さんが庭を花で埋め私たちに
蝶や虫を仲間にさせた

白百合の丈高く 
黒揚羽蝶が飛び交った日

目眩するようじりじりと
耳の鼓膜に残る生き物たちのざわめき
眠っても眠っても子供の頭から消えない
光る空白い入道雲 高原の大気 土と水の匂い

思い出は花垣に動く父さんの手の厚さ花の群れ
ピンクのダリア 深紅のカンナ グラジオラスの色はとりどり
地面にはちいさな松葉ボタン
おしろいばな
ホウセンカの種がはじけ
オジギ草の細い葉がひらいて閉じる

白い顔の都会のはとこと
アブラゼミの鳴き声を聞きながら軒下の
蟻地獄の巣を掘っていた

キャンデー売りの声通りを行き
午睡の蚊帳の色涼しくゆれた 


おとな達の思い出語りに
軍刀や手袋 大陸のトランプが暗い土蔵からふわふわと
家の中をさまよっていた八月

山麓の短い夏はすぐに去り
客たちは白い帽子と共に消え
毎年約束のように訪れる
夏のたそがれー

国も人も若くひたむきに
人々が生きたいとしい時代が蜃気楼のようにぽっと浮かび
やまなみは素知らぬ顔でうねるだけの


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四月の句ー九州ー

2016年04月19日 | 

 春に揺れ阿蘇に乱れる火山の土

 爪跡も大いなる大地言葉無く

 若葉萌える阿蘇山麓の空黙す

 火と水と豊かなる肥後哀れなる

 花冷えに夜を過ごせし人を想う

 避難所の軒下の犬のつぶらの眼

 大阿蘇の旅の思い出もはるかにて

 湯けむりの別府に朝の定期船

 友の里春の別府よ若き日の

 雄大な草千里を牛ら草はむも

 歴史古る神の天地に祈り捧ぐ 

 

 
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青葉そよげる

2015年05月14日 | 
光る青葉のしげり
風にそよぐいのちのみち

この風の中に
次々に生れてくる新しい芽
動き出す初めての声たち
謳歌する命の波

そのうねりに
約束のように落ちて消え
年輪を刻みもとの処へ戻ってゆく命のさざなみ

それは底のない宇宙まで広がり
また静寂の中にしずまりやがて
一斉に再び湧きたち繰り返す波

若葉青葉は
繰り返しをやめれない
星のゆらめき いのちの謳歌


青葉しげり青葉そよぐ
空と地の交わるところに
こころと体が場所を入れ替え
不思議な祝福を受ける自然の法則がある
星の間で産み落とされる
いのちの循環がある


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四月五日の花の下

2015年04月05日 | 
春の花の揃って咲く日に父さんは
横たわってもう起きて来なかった
閉じた目もとは生きているようでやさしかった
お腹の上で組んだ指はとても太くて
山の男の骨は老いても強く強靭で
容易には焼けおちなかった
焼いたはずの老人の骨が太くて多すぎて
壺に入れるのに
おんぼうは汗びっしょりになった
誰が97年のいのちの抵抗を知るだろう
骨になってもまだ父さんは
明治から大正 昭和 平成にまで継続を
し続けようとするかのようだった

春の梅 水仙 ヒヤシンス 椿 しだれ桜
夏の百合 ダリア 百日草に赤いカンナ
秋は自慢の菊鉢の群れ 糸菊 豆菊 懸崖の菊
一年中花が絶えない花の庭を
遠くから観に来ては縁側で茶を飲み遊んで行った村人たち
彼らももう今はいなくなって久しい

富士の浅間神社の神様の名にちなんだ花の名を持つ父さんは
桜の満開だったふるさとの空の下
この世との別れを悲しむこともなく
長い人生を終えて去った

桜の花がはらはら散り
誰も涙も流さずにのどかに
食事をした春の日の焼き場の待合の部屋
爛漫の色溢れる花の季節
父さんはもの言わぬ静かな存在になって
空の上にある新しい国で住むことを決めた

最後に生まれて来た私は
毎年白いご飯を盛り
大好きだったマグロの刺身と熱い茶を供え
白いストックの花と菜の花を供え
青い空に消えたとうさんとの
別れの日を思い出す

故郷の山山は今は父さんになり
懐かしい家と今は花の咲かなくなった庭を
静かに眺めていることだろう




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