
単なる、ハリウッドが好んでよく作る歴史大作ではない。
リドリー・スコット監督はきわめて男性的な映画を作る人で、
「男前(←単に容姿だけを指すのではなく)」や「英雄」を
描くことに長けた人だ。
この映画でも彼のスタイルが貫かれていて、
オーランド・ブルーム演じるバリアンが、
勇壮で賢明でカリスマ性を持った英雄として
見事に描かれている。(難を言えば、一介の鍛冶職人が
そこまでに至るプロセスの描写が雑か?)
オーランドは最近母国英国でも「今後最も期待される俳優」
に選ばれているが、この映画は彼のスター性を決定づけた
と思う。そして彼のこの映画での変身は、
監督の手腕によるところが大きいと言えるだろう。
ロケ地はスペインとモロッコらしい。
私はエルサレムには実際に行ったことはないが、自宅のテレビ
にイスラエル放送が入るほど近接した地に住んでいた。
地続きの自然、建築様式等、昔ながらの街の様子は
共通する点が多く、自分が知る限りにおいて、
今回のエルサレムやその周辺地の再現セットは素晴らしい。
主人公バリアンがキリストの磔刑が行われたゴルゴダの丘に
上り、その丘から望む風景が映し出されるシーンがある。
私が大好きで、50回以上は足を運んだスピガの峰(ネボ山)
というモーセ昇天の地から望むカナンの遠景にそっくりで、
一瞬そこでロケを行ったのではと錯覚するほどだった。
実際のロケ地はスペインらしい。
戦闘シーンのロケ地はモロッコだと思うが、
まるで「アラビアのロレンス」で用いられた
ワディ・ラムを彷彿させる景観とスケールであった。
↓空から見たスピガの峰(ネボ山)
頂上にビザンチン時代に立てられた教会が建っている。
下手の方向がイスラエル側で、夕暮れ間近には、
水面が金色に光り輝く死海が見える。

そして、西洋の「偏見に満ちたエキゾチシズム」
という点に注目して、この映画を見てみると、
これがまた十字軍側、イスラム側双方がかなり公平な眼で描
かれており、第三次十字軍遠征前の比較的両者の力が拮抗
し、地域に束の間の安定が訪れた時代の賢王に対して
きちんと敬意が払われ、とても好感の持てる人物描写だった。
映画化にあたって、脚本家も詳細なリサーチを行ったようだ。
だからこそ、イスラム世界を代表する俳優が出演を快諾した
のだと思う。
「命を賭して守るべきものは何か?」「人はなぜ戦うのか?」
という命題に対して、本作は明快な答を示していると思った。
「エルサレムとは貴方にとって何か?」「”無”だ」。
~この作品の舞台は、一般の日本人には馴染みが薄いので、
少し長めの解説を加えました。
「歴史」を大雑把に処理しがちなハリウッドにしては、
かなり頑張った作品だと思います。とにかくご覧あれ。