
19世紀ロンドンを舞台とした、
孤児オリバー・ツイストの物語。
家族で安心して見られる作品ですね。
先頃見たミュージカル『ベガーズ(乞食)・オペラ』は
18世紀のロンドンが舞台でしたが、貧しい人々の暮らしに、
18世紀も19世紀も大差ありません。
不衛生な街で、着たきりスズメで、食うや食わずの生活。
そもそも19世紀までヨーロッパにおいて、子供は
”幼く未熟であるがゆえに保護される存在”ではなく、
一部の富裕層を除けば、歴とした働き手であり、
働けなければ穀潰しと疎まれる存在でした。
その様子が、この作品でもつぶさに描かれています。
原作者のチャールズ・ディケンズ自身、
下級官吏だった父の借金のために、
わずか12歳で靴墨工場へと働きに出て、
働きながら小学校を卒業したという、なかなかの苦労人です。
彼自身の体験が、『オリバー・ツイスト』に投影されている
のは間違いないでしょう。
ポランスキー監督は60歳を過ぎてから授かった、
幼い二人の我が子の為にこの映画を撮ったと語っていました。
ちょうど親が古今の名作を我が子に読み聞かせるようなもの
でしょうか?それにしても豪華な我が子へのプレゼントです。
主演のバーニー・クラークがとにかく美しい顔立ちで、
オリバー役にハマッています。その愁いを帯びた表情は、
彼と接する多くの人々の同情を誘うようです。
その無垢さが、悪人の心に良心を呼び覚ますことさえある。
でも、ちょっと泣きすぎかな(笑)。
チェコで、路面に石をひとつひとつ敷き詰めるまでして
再現した19世紀ロンドンの街並みや、
街を行き交うエキストラにまで
19世紀的顔立ちの持ち主を求めたという、
監督の徹底したリアリティへの拘りのおかげで、
すんなり作品世界に没入できました。
タイトルバックとエンドロールの版画も素晴らしいです。
あれはエングレーヴィング(銅版画の一種)でしょうか?
映像的にも随所に監督の拘りが感じられる、美しい映画でした。