はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

私の頭(心)を柔らかくしてくれる人

2015年04月20日 | はなこ的考察―良いこと探し
 同じマンションに住む友人に、公立小学校で教師をしている人がいる。

 彼女は大学を卒業してすぐに教師になったわけではなく、都内の短大を卒業後は10年近く民間企業に勤務した経験がある。

 その後、子どもの頃からの夢だった教師になるべく一念発起し、臨任教師から始めて実務経験を積みながら教員採用試験を受け続け、40歳で本採用に至った経歴の持ち主だ。その間、会社の同僚だった男性と結婚し、2児をもうけ、子育てに奮闘しながらの挑戦だった。

 この20年近くの彼女の人生は、並々ならぬ努力と苦難の道のりであったと思う。

 多忙な彼女は土日も研修や当直で休むこともままならないようだ。マンション内で偶然会う度に、かなり疲れた表情を見せてはいるが、実際話してみると、日々の充実ぶりが伝わるような自信の片鱗をのぞかせる発言も少なくない。

 私自身は就業経験が正社員・パートをを合わせても10年程度で、専業主婦歴が長いせいか、社会でバリバリ働く同性に対しては多少引け目を感じているところがある。

 勤労学生であった短大時代に物足りなさを感じ(卒業後、時間の制約を受けずにもっと大学で勉強したかったと言う思いが止まなかった。自宅と大学とバイト先を往復するばかりで、学生らしい自由な時間がなかったのも、学生生活に物足りなさを感じた原因のひとつなのかもしれない)、30代で新たに四年制大学に入学して(←このような機会を持てたこと自体は本当に幸運なことだ)、自分なりに懸命に学んだにも関わらず、未だ劣等感(学歴コンプレックス?)が拭えないのは、総じて職業経験が乏しく、実社会での成功体験がないからだろう。

 男性にしても、大学を卒業したのは何十年も前のことなのに、ことあるごとに学歴に拘る傾向が強いのは、自身の現状に不満がある人(=現在が充実していない)、社会的成功を納めていない人に多いと聞く。

 教師の友人は言う。

 「息子さんは就職して今、頑張っているところだろうけれど、仮に今後、希望して入った会社だけれど自分には合っていないと思ったら、転職する可能性だってなくはないよね。でも、それも彼の人生だから、親は受け入れると言うか、見守るしかないよね。」

 「同僚に東大出の人がいるけれど、私はガンガン自分の意見を言っちゃう。その人、それを静かに聞いているんだよね。なまじ賢いから、いろいろ思うところがあっても、頭の中で合理的に処理してしまうのかもしれない。でも、中学生や高校生ならともかく、対小学生となると、そのおとなしさ、従順さが、子ども達には物足りないみたいだよ。何か思うところがあって、わざわざ小学校の教師になったんだろうけれど。」

 「神奈川県の公立校は旧師範学校の横浜国大出身者がとても多い。確かに彼らは賢い。それに努力家。自分に出来ないことがあると、「なぜ出来ないのか?」と自分を責める人が多い。賢いから感情のコントロールも上手くて無駄に人と衝突なんかしないけれど、一方でプライドも高いから付き合い辛い面もある。なまじずっと優等生で来たから、勉強の出来ない子、反抗的な子の気持ちが理解できないところもあるように見える。そこが教師としては、彼らの弱点と言えるのかもしれない。」

 「校長のような管理職は基本的に希望すれば誰でもなれると思う。しかし、教師の誰もが校長を目指すわけではない。子どもが大好きで、敢えて管理職を目指さずに生涯一線で子ども達と接し続けることを選ぶ教師も多い。だから人を肩書きで見るのは馬鹿らしいと自分は思っている。」

 「自分の同級生達を見ても、社会で活躍するのに学歴なんて関係ないんだなと思う。高卒で自ら起業して成功し、大手企業のサラリーマンより稼いでいる人も多い。要は本人のやる気とか資質だよね。学業優秀者が、必ずしも社会で人の上に立つ人間になるとは限らない。」

 「行政も学校現場の硬直性を危惧して、最近は積極的に社会人経験者を教師として採用したり、校長に登用している。教師も多様な人材がいた方が、子ども達にとっても良いことだと思う。」

 「忙しく日々を過ごす中で、あまり先のことは考えないようにしている。今日1日を無事に乗り切ることだけを考えて生きる。1日の終わりに、今日も無事に乗り切れたことを感謝する。特に年齢的にも心身の健康が大事だと思う。以前に比べて風邪をひきやすくなった、治りが遅くなったと言うのは、身体の免疫力が低下していると言うこと。つまり、ガンにも気をつけなきゃいけないってことよね。」

 まさに自らの努力で天職に就いて、現在は自信を持って日々を生きているように見える彼女の言葉には、太っ腹な力強さがある。そこに私は励まされたり、ハッとさせられる。



 美術館でボランティアとして従事する同僚の中にも、特に親しくしている女性が一人いる。私より20歳近く年長だが、当初から互いに惹かれ合うところがあり、この十年はしばしば一緒に展覧会に足を運んだり、面白そうな本を紹介し合ったり、電話であれこれ話し込んだりする仲だ。

 彼女の刮目すべき点は、とにかく勉強家であることだ。

 私が紹介した本は、次に会った時には必ず読み終えて、感想を述べてくれる。

 驚いたことに、60歳で美術館のボランティアになるまでは、ボランティア先の美術館に来たことさえなく、美術に関する知識も殆どないに等しかったらしいが、今では土日の美術トークをこなすまでに知識を深めている。会う時も、人の噂や世間話よりも、美術史の疑問点等について存分に語り合えるのが嬉しい。

 また、大学で英文学を専攻したとは言え、50歳の時にTOEIC対策の勉強を始め、ほどなくして満点に近いスコアを出したと言う、チャレンジ精神と学習能力の高さには感心する。そして、その英語力を生かして、これまで企業や官庁の語学研修の講師を務めたり、政府の海外プロジェクトの和文英訳作業にも携わって来たらしい。

 さらに二人のお嬢さんを大学院で修士号を取得するまで育て上げ、現在お嬢さん達は社会の一線で活躍中だ。ご主人はご主人で、大手電機メーカーを退職後、以前から興味のあった英語を本格的に勉強され、今では学会で研究成果を発表されるまでなっておられるとか。こうして見ると、一家をあげて勉強家と言えるのかもしれない。

 彼女は、生来怠け者で臆病な私の背中を押してくれている存在と言えるだろうか。特に、何かを始めるのに遅すぎることはない、と言う点で。



 実は、30代で学んだ大学の同窓会会報が届く度に、憂鬱になってしまう自分がいる。会報には社会で活躍する同窓生が写真入りで紹介されている。年長者は長年の実績を積み上げて、今ではその分野の第一人者として活躍していることを讃えられ、中堅若手は社会での現在の活躍の様子が伝えられている。

 おそらく、憂鬱の原因は、自分がその何れにも属さないことにあるのだろう。学生時代は主婦として家事をしながら、片道2時間の通学を続け、寝る間も惜しんで勉強に励み、総代で卒業したのに、卒業後10年経っても何者でもない自分。日々暮らしている分には何の不足もなく、幸せなのだが、会報を見る度に自分の不甲斐なさに落ち込む。

 郷里に帰ったら帰ったで、私より中高では成績の悪かったはずの同級生が地元の国立大や私立大を卒業後は、就職してキャリアを着実に積んでいる。今さらながら、親が教育に無関心で、希望する大学への進学を許してくれなかったことへの恨みが募る。

 正直に言えば、上述の会報で紹介されている同郷の年配の卒業生には、当時、地方から上京して大学進学など、どれだけ恵まれた家庭の人間なのだ、その運の良さも彼女の今に繋がっているのではないか、と嫉妬にも似た感情を覚える。社会で自分の持つ能力を最大限に発揮し、それが認められるチャンスを得る為には、目指す分野によっては適性だけでなくタイミングも大事だと思う。

 しかし、一方で、上述の教師の友人が言うように、地元の商業高校を出た後に起業して、現在は社長としてバリバリ働いている友人もいるのだ。そんな友人は今さら学歴がどうのなんて言わないだろう。何十年前も昔のことで悶々としている自分を情けなく思う。さらに、もう50代だからと新たなことへの挑戦を諦めている自分は、上述のボランティアの友人の前では恥じ入るしかない。

 そもそも2度目の大学の入学動機は、大学で4年をかけて興味を持った分野を学びたいと言う単純なものだった。多額の投資に見合う成果(収入?)を卒業後に得ようと言う戦略なしに進学した(投資した分をしっかり回収するというコスト意識が欠けた)私に呆れた友人もいた。結局、自分の現状の(社会的成功を得ると言う意味での)不甲斐なさは、努力不足以外のなにものでもない。

 ただし、大学で学んだことは、現在の美術館でのボランティア活動に十分過ぎるほど生かされている。たとえボランティアと言う形でも、大好きな美術に関われていることには満足している。何より結婚生活と子育て以外で、ひとつのことを10年以上継続したことは、このボランティア活動が初めてなので、やはり自分は美術関係の仕事に(努力を傾注できる)適性があったのかなと思う。だからこそ、若き日にきちんと学んでいれば、と言う後悔もあるのかもしれない。

 
 ややもすると視野狭窄に陥ってしまう自分に、新たな気付きを与え、目を見開かせてくれるのは、上述の二人のような存在だ。そういう存在は、自分の一度しかない人生をより豊かにする為に、一人でも多くいた方が良いに違いない。彼女達との出会いに感謝したい。



 写真は何れも2010年にスペイン・バルセロナで撮影


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