大学同窓の大先輩から「第74回創元展」の案内状が届いたので、開催場所の国立新美術館に行って来た。
この方とは、東日本大震災の時に偶然横浜美術館に居合わせ、震災の混乱で電車が不通となった為に、やむなく横浜ランドマークタワーで共に一夜を明かして以来のご縁だ。
不安の中、数人で語り合ううちに、この方と同じ大学の卒業生と分かり、震災の翌日には都内から息子さんが車で横浜まで駆けつけて、私も自宅近くまで送っていただいた。その時の御礼をきっかけに年賀状のやりとりが始まり、今では度々ご自宅のアトリエや展覧会に招いていただいたりもしている。
もう70代半ばを超えられていると思うが、精力的に創作活動を続けておられるようで、今回は伝統ある創元展で最高賞の「文部科学大臣賞」に次ぐ、「損保ジャパン賞」を受賞されたらしい。凄い、の一言だ。
以前から海外展にも積極的に参加されているとはお聞きしていたが、展覧会場でも関係者から「先生」と呼ばれる立場の方なのだと今回初めて知った。自分の無知が恥ずかしい。
受賞作は、ご本人の大らかなで自由闊達なお人柄そのままに伸びやかな作品だった。タイトルは『天翔る人、人』。中央の作品だ。
会場は20ほどの区画の、壁という壁に、100号大の作品がズラリと並び掛けられていた。数百はあるだろう。個々の作品に美術史上の数多ある表現様式や先行する作家の影響が見えることはあっても、数百ある中でひとつとして類似した作品がないところに、芸術表現の多様性の素晴らしさを感じて、時間を忘れて見入ってしまった。創元会という美術団体だけでも、これだけ数多くの人々が、絵画における自己の表現に、計り知れないほど注力している。その熱情が、壁という壁からビンビン伝わって来た。
不思議なことに遠目に見て気になる作品に近づいてみると、受賞作品が多かった。どのような審査基準で受賞が決まるのか、私には皆目見当がつかないのだが、受賞作品には人を惹きつける何らかの魅力、引力があるのかもしれない。
「創元展」の前に、隣室で開催中の「ルーヴル美術館展」(~6月1日(月)まで)も見た。ルーヴル美術館の膨大なコレクションの内、西洋美術史上、近代まで殆ど顧みられることのなかった「風俗画」に注目した企画展だ。日本でも往年のレンブラントへの注目や、近年のフェルメール・ブームもあって、オランダやフランドルの風俗画への関心と理解が高まったからこその、今回の企画展なのだろう。
今回は風俗画の本場オランダ、フランドルはもとより、表現やモチーフによって風俗画にカテゴライズされるフランス、イタリア、イギリス等の画家の作品も多数展示されている。さらに、それらの前段として、会場の最初の部屋では、古代まで遡って、当時の人々の日常がモチーフとして描かれている石板や土器も展示されている。
鑑賞にあたって、神話画や宗教画がある程度ギリシャ神話やキリスト教(旧約聖書及び新約聖書の内容だけでなく、時代毎のキリスト教文化等)に関する知識を必要とするのに対して、近代の「印象派」絵画と同じく風俗画は当時の人々の日常や風俗を描いて、一般の美術ファンにも比較的親しみやすい主題が多い。
とは言っても寓意画や暗喩など、解説がなくては作品の理解が心許ないものもある。今回の展示作品にも、そういった点が少なからずあって、どういう風に作品を見たら良いのか分からずに戸惑っている人が何人も見受けられた。
有料の音声ガイドを利用すれば、そうした戸惑いも解消されるのだろうか?音声ガイドなしでも、ある程度理解できるような解説が、展示等でできないものだろうか?それとも個人で、ある程度知識を得るよう努力すべきなのか?
しかし、それ以前に美術館側で、鑑賞初心者に対して、美術作品全般へのアプローチのヒントを与える試みがあっても良いのではないか?
その意味では、今回、会場入り口に出品リストと共に子ども向け鑑賞ブックレットが置かれていたのは良かったと思う。これは子どもだけでなく、鑑賞初心者の大人にも有効だと思う。(この点に関しては、特にシニア層に、どのようなサービスが提供できるのか?以前、西美の教育普及室長も、高齢化社会の進展に伴い、シニア層への鑑賞教育の必要性を感じている、と言っておられたのを思い出す)
風俗画の基本的知識に関しては、私は以前、小林頼子先生の講演会を聴講したことがあり、その時に得た知識(元々本で得た知識も含めて)が、今回の風俗画展でも作品の理解に役だった。その時の聴講記録が当ブログにあるので、下記にリンクしておきます。
『フェルメールとオランダ風俗画』(1)
『フェルメールとオランダ風俗画』(2)
『フェルメールとオランダ風俗画』(3)
そう言えば本展で、16世紀に活躍したイタリア・ボローニャ派を代表するアンニーバレ・カラッチの大判作品も展示されていた。彼は、国立西洋美術館で開催中の展覧会で取り上げている画家グエルチーノに多大な影響を与えた画家と目され、特に聖母像の造形や構図に類似点が見出されている。思いがけず見られて、ちょっと得した気分。
現在、国立新美術館ではシュルリアリスムの「マグリット展」も開催中(6月29日(月)まで)。この展覧会、とても評判が良いので見たい…今日は体力的にも時間的にも無理だったので、ポスターだけ。
この方とは、東日本大震災の時に偶然横浜美術館に居合わせ、震災の混乱で電車が不通となった為に、やむなく横浜ランドマークタワーで共に一夜を明かして以来のご縁だ。
不安の中、数人で語り合ううちに、この方と同じ大学の卒業生と分かり、震災の翌日には都内から息子さんが車で横浜まで駆けつけて、私も自宅近くまで送っていただいた。その時の御礼をきっかけに年賀状のやりとりが始まり、今では度々ご自宅のアトリエや展覧会に招いていただいたりもしている。
もう70代半ばを超えられていると思うが、精力的に創作活動を続けておられるようで、今回は伝統ある創元展で最高賞の「文部科学大臣賞」に次ぐ、「損保ジャパン賞」を受賞されたらしい。凄い、の一言だ。
以前から海外展にも積極的に参加されているとはお聞きしていたが、展覧会場でも関係者から「先生」と呼ばれる立場の方なのだと今回初めて知った。自分の無知が恥ずかしい。
受賞作は、ご本人の大らかなで自由闊達なお人柄そのままに伸びやかな作品だった。タイトルは『天翔る人、人』。中央の作品だ。
会場は20ほどの区画の、壁という壁に、100号大の作品がズラリと並び掛けられていた。数百はあるだろう。個々の作品に美術史上の数多ある表現様式や先行する作家の影響が見えることはあっても、数百ある中でひとつとして類似した作品がないところに、芸術表現の多様性の素晴らしさを感じて、時間を忘れて見入ってしまった。創元会という美術団体だけでも、これだけ数多くの人々が、絵画における自己の表現に、計り知れないほど注力している。その熱情が、壁という壁からビンビン伝わって来た。
不思議なことに遠目に見て気になる作品に近づいてみると、受賞作品が多かった。どのような審査基準で受賞が決まるのか、私には皆目見当がつかないのだが、受賞作品には人を惹きつける何らかの魅力、引力があるのかもしれない。
「創元展」の前に、隣室で開催中の「ルーヴル美術館展」(~6月1日(月)まで)も見た。ルーヴル美術館の膨大なコレクションの内、西洋美術史上、近代まで殆ど顧みられることのなかった「風俗画」に注目した企画展だ。日本でも往年のレンブラントへの注目や、近年のフェルメール・ブームもあって、オランダやフランドルの風俗画への関心と理解が高まったからこその、今回の企画展なのだろう。
今回は風俗画の本場オランダ、フランドルはもとより、表現やモチーフによって風俗画にカテゴライズされるフランス、イタリア、イギリス等の画家の作品も多数展示されている。さらに、それらの前段として、会場の最初の部屋では、古代まで遡って、当時の人々の日常がモチーフとして描かれている石板や土器も展示されている。
鑑賞にあたって、神話画や宗教画がある程度ギリシャ神話やキリスト教(旧約聖書及び新約聖書の内容だけでなく、時代毎のキリスト教文化等)に関する知識を必要とするのに対して、近代の「印象派」絵画と同じく風俗画は当時の人々の日常や風俗を描いて、一般の美術ファンにも比較的親しみやすい主題が多い。
とは言っても寓意画や暗喩など、解説がなくては作品の理解が心許ないものもある。今回の展示作品にも、そういった点が少なからずあって、どういう風に作品を見たら良いのか分からずに戸惑っている人が何人も見受けられた。
有料の音声ガイドを利用すれば、そうした戸惑いも解消されるのだろうか?音声ガイドなしでも、ある程度理解できるような解説が、展示等でできないものだろうか?それとも個人で、ある程度知識を得るよう努力すべきなのか?
しかし、それ以前に美術館側で、鑑賞初心者に対して、美術作品全般へのアプローチのヒントを与える試みがあっても良いのではないか?
その意味では、今回、会場入り口に出品リストと共に子ども向け鑑賞ブックレットが置かれていたのは良かったと思う。これは子どもだけでなく、鑑賞初心者の大人にも有効だと思う。(この点に関しては、特にシニア層に、どのようなサービスが提供できるのか?以前、西美の教育普及室長も、高齢化社会の進展に伴い、シニア層への鑑賞教育の必要性を感じている、と言っておられたのを思い出す)
風俗画の基本的知識に関しては、私は以前、小林頼子先生の講演会を聴講したことがあり、その時に得た知識(元々本で得た知識も含めて)が、今回の風俗画展でも作品の理解に役だった。その時の聴講記録が当ブログにあるので、下記にリンクしておきます。
『フェルメールとオランダ風俗画』(1)
『フェルメールとオランダ風俗画』(2)
『フェルメールとオランダ風俗画』(3)
そう言えば本展で、16世紀に活躍したイタリア・ボローニャ派を代表するアンニーバレ・カラッチの大判作品も展示されていた。彼は、国立西洋美術館で開催中の展覧会で取り上げている画家グエルチーノに多大な影響を与えた画家と目され、特に聖母像の造形や構図に類似点が見出されている。思いがけず見られて、ちょっと得した気分。
現在、国立新美術館ではシュルリアリスムの「マグリット展」も開催中(6月29日(月)まで)。この展覧会、とても評判が良いので見たい…今日は体力的にも時間的にも無理だったので、ポスターだけ。