俺は孤高のスナイパー…
本作は、前年度に発行されたエンターテインメント&ミステリー小説の読者投票によるランキング「このミステリーがすごい」2000年度版で、海外部門第一位に輝いた小説『極大射程』(上下巻)の映画化らしい。例によって私は原作を読んでいないので(¨;)、あくまでも映画作品としての感想である。
ここ最近のエンターテインメント系映画の傾向のひとつは、「アフリカ」、「アフリカを食いものにする先進諸国」、「(喩えるなら)巨象に立ち向かう1匹の蟻」という3つのキーワードで語れると思う。本作もその傾向に見事に嵌った作品と言える。今やヒーローの敵は国家(ソ連)やイデオロギー(テロリスト)ではなく、そうしたものを超えたところで手を組んで「搾取により巨利を生み出すシステム」である。こうした戦うべき相手の変遷も興味深いところだ。次は何が来るのだろう?
もっとも本作は、これらの重なる要素を持ちながらも、既出の作品群とは趣を異にしている。あくまでもスナイパーの個人的な義憤に焦点が当てられ、社会派色はかなり薄め(それを期待する方が間違っているのかもしれないが)。巨悪に立ち向かう孤高のスナイパーの活躍が物語の肝であり、真骨頂でもある。
しっかりとした原作があるからプロットに破綻はない。キャストも熱演。ところが何か物足りない。どことなくチープ感が漂うのだ。このことは映画を見ながらずっと気になっていた。見終わって、アフリカ問題に触れながら、アフリカでアフリカを描いていないことに気がついた。既出の『ナイロビの蜂』にしても、『ラストキング・オブ・スコットランド』にしても、そして現在公開中の『ブラッド・ダイヤモンド』にしても、アフリカの壮大で豊かな自然をあますことなく描写している。それが、搾取され続けるアフリカの悲劇性を際だたせ、物語をよりリアルに感じさせているのは間違いない。
制作予算の関係なのだろうか。本作は殆ど北アメリカ大陸で撮影が敢行されたと想像するが(これはこれで、雄大なロッキー山脈の眺めが素晴らしいとも言えるが)、宣伝で比較対象に挙げられている”ジェイソン・ボーン”シリーズの贅沢な海外ロケに、どうしても見劣りしてしまう。これでは主役で好演したマーク・ウォールバーグがあまりにも気の毒である。この辺り、見方によっては物語のスケールを矮小化していると言えなくもないが、それともアフリカの話は最初から”刺身のツマ”でしかなかったのか。
今後も楽しみなマーク・ウォールバーグとマイケル・ペーニャ
ところでアメリカのアクション・ヒーローには、スティーブ・マックィーン(子供の頃大好きだった!)を祖とする”猿顔”の系譜の連なりでもあるのだろうか?本作のマーク・ウォールバーグ、マット・デイモン共正統派の美男子とは言い難い。しかし、かつてスティーブ・マックィーンがそうであったように、激しいアクションも厭わないクールで野性味溢れる魅力を発散して、幅広い人気を獲得しているようである。
因みにマーク・ウォールバーグはボストンのスラムに9人兄弟の末っ子として生まれ、少年時代は相当なワルだったらしい(『ディパーテッド』出演陣の中で、映画で描かれたボストンの裏世界を最もよく知っていたのは誰あろう、このマークである)。一時は兄に誘われ人気アイドル・グループ”ニューキッズ・オン・ザ・ブロック”にも在籍したことがあるらしいが、グループのクリーンなイメージに馴染めずに早々と脱退。その後何やらワルさをして刑務所に収監されるなどしたが映画出演のチャンスを掴み、『バスケットボール・ダイアリーズ』で共演したディカプリオの推薦で『ブギーナイツ』の主役を射止めて以後は着実に成功の階段を昇っている。今後の活躍が益々楽しみな中堅俳優の一人である。共演のマイケル・ペーニャも要注目の俳優だ。どこかで見覚えがあるなと思ったら、現在公開中の『バベル』『ミリオンダラー・ベイビー』『クラッシュ』と、このところの話題作・秀作への出演が(脇役ながら)目白押しの俳優なのだ。
【参考リンク】
■マーク・ウォールバーグ インタビュー
原題は冠詞がついていないのに、邦題にはついているのが不思議だった。それについて言及している記事があったのでご参考までに。未見の方はネタバレにご注意。
■アメリカTV/映画ノーツより
以下はネタバレにつき、Read Moreで…
射程距離、角度、風力、風向はもちろんのこと、温度、湿度、そして地球の自転に至るまで考慮して射撃を行うというスナイパーの繊細な仕事ぶりを本作で初めて知った。銃を巡る事柄に関して、いろいろ知られざる一面が窺えるのも本作の見どころかもしれない(原作小説はスナイパーの心理描写に優れ、銃についての記述もかなり詳細に渡るらしい)。しかし「目には目を」「暴力には暴力を」という思想にどうしても馴染めない人には、結構精神的にハードなシーンの連続である。個人的には物語の結末にも爽快感はなかった。
本作は、前年度に発行されたエンターテインメント&ミステリー小説の読者投票によるランキング「このミステリーがすごい」2000年度版で、海外部門第一位に輝いた小説『極大射程』(上下巻)の映画化らしい。例によって私は原作を読んでいないので(¨;)、あくまでも映画作品としての感想である。
ここ最近のエンターテインメント系映画の傾向のひとつは、「アフリカ」、「アフリカを食いものにする先進諸国」、「(喩えるなら)巨象に立ち向かう1匹の蟻」という3つのキーワードで語れると思う。本作もその傾向に見事に嵌った作品と言える。今やヒーローの敵は国家(ソ連)やイデオロギー(テロリスト)ではなく、そうしたものを超えたところで手を組んで「搾取により巨利を生み出すシステム」である。こうした戦うべき相手の変遷も興味深いところだ。次は何が来るのだろう?
もっとも本作は、これらの重なる要素を持ちながらも、既出の作品群とは趣を異にしている。あくまでもスナイパーの個人的な義憤に焦点が当てられ、社会派色はかなり薄め(それを期待する方が間違っているのかもしれないが)。巨悪に立ち向かう孤高のスナイパーの活躍が物語の肝であり、真骨頂でもある。
しっかりとした原作があるからプロットに破綻はない。キャストも熱演。ところが何か物足りない。どことなくチープ感が漂うのだ。このことは映画を見ながらずっと気になっていた。見終わって、アフリカ問題に触れながら、アフリカでアフリカを描いていないことに気がついた。既出の『ナイロビの蜂』にしても、『ラストキング・オブ・スコットランド』にしても、そして現在公開中の『ブラッド・ダイヤモンド』にしても、アフリカの壮大で豊かな自然をあますことなく描写している。それが、搾取され続けるアフリカの悲劇性を際だたせ、物語をよりリアルに感じさせているのは間違いない。
制作予算の関係なのだろうか。本作は殆ど北アメリカ大陸で撮影が敢行されたと想像するが(これはこれで、雄大なロッキー山脈の眺めが素晴らしいとも言えるが)、宣伝で比較対象に挙げられている”ジェイソン・ボーン”シリーズの贅沢な海外ロケに、どうしても見劣りしてしまう。これでは主役で好演したマーク・ウォールバーグがあまりにも気の毒である。この辺り、見方によっては物語のスケールを矮小化していると言えなくもないが、それともアフリカの話は最初から”刺身のツマ”でしかなかったのか。
今後も楽しみなマーク・ウォールバーグとマイケル・ペーニャ
ところでアメリカのアクション・ヒーローには、スティーブ・マックィーン(子供の頃大好きだった!)を祖とする”猿顔”の系譜の連なりでもあるのだろうか?本作のマーク・ウォールバーグ、マット・デイモン共正統派の美男子とは言い難い。しかし、かつてスティーブ・マックィーンがそうであったように、激しいアクションも厭わないクールで野性味溢れる魅力を発散して、幅広い人気を獲得しているようである。
因みにマーク・ウォールバーグはボストンのスラムに9人兄弟の末っ子として生まれ、少年時代は相当なワルだったらしい(『ディパーテッド』出演陣の中で、映画で描かれたボストンの裏世界を最もよく知っていたのは誰あろう、このマークである)。一時は兄に誘われ人気アイドル・グループ”ニューキッズ・オン・ザ・ブロック”にも在籍したことがあるらしいが、グループのクリーンなイメージに馴染めずに早々と脱退。その後何やらワルさをして刑務所に収監されるなどしたが映画出演のチャンスを掴み、『バスケットボール・ダイアリーズ』で共演したディカプリオの推薦で『ブギーナイツ』の主役を射止めて以後は着実に成功の階段を昇っている。今後の活躍が益々楽しみな中堅俳優の一人である。共演のマイケル・ペーニャも要注目の俳優だ。どこかで見覚えがあるなと思ったら、現在公開中の『バベル』『ミリオンダラー・ベイビー』『クラッシュ』と、このところの話題作・秀作への出演が(脇役ながら)目白押しの俳優なのだ。
【参考リンク】
■マーク・ウォールバーグ インタビュー
原題は冠詞がついていないのに、邦題にはついているのが不思議だった。それについて言及している記事があったのでご参考までに。未見の方はネタバレにご注意。
■アメリカTV/映画ノーツより
以下はネタバレにつき、Read Moreで…
射程距離、角度、風力、風向はもちろんのこと、温度、湿度、そして地球の自転に至るまで考慮して射撃を行うというスナイパーの繊細な仕事ぶりを本作で初めて知った。銃を巡る事柄に関して、いろいろ知られざる一面が窺えるのも本作の見どころかもしれない(原作小説はスナイパーの心理描写に優れ、銃についての記述もかなり詳細に渡るらしい)。しかし「目には目を」「暴力には暴力を」という思想にどうしても馴染めない人には、結構精神的にハードなシーンの連続である。個人的には物語の結末にも爽快感はなかった。