不況になると日本語ブームが起こるというジンクスがある。明治大学教授の加藤徹さんが、「中央公論」5月号に書いている。昭和32年の鍋底不況、48年の石油ショックのあと、そして平成不況のさなかの11年、13年と、いずれも書名に「日本語」の入った本が、話題となった。
好景気のときは、ビジネス本やノウハウ本が売れる。一方不況では、人々の目が内向きになり、日本語へ関心が向く。今回の世界同時不況のもとでは、漢字ブームの形であらわれた、という。
昭和50年の発足時にわずか672人だった日本漢字能力検定の受検者も、今や270万人を超えている。ただ、大ヒットの理由はブームだけではなさそうだ。創立者の大久保昇氏は、大手電機会社を退職して、京都市内で文化教室を経営していた。
漢字のビジネス化を思いついたのは、子供の漢字離れを嘆く講師の声を聞いたときだ。ワープロ、パソコンの普及も追い風となった。毎年12月に、世相を表す「今年の漢字」の1文字を清水寺で披露するイベントは、アイデアマンとしての、大久保氏の面目躍如だろう。
協会の理事長、副理事長を、長男とともに辞任することを明らかにした記者会見で、大久保氏はこう言いたかったのではないか。「漢検を大成功に導いたのは、私だ」。とすれば、自分のファミリー企業と協会との取引を今後も続けるという、往生際の悪さも説明できる。
しかし、公益事業であげた巨額の利益の「私物化」は、もはや許されるものではない。今の心境を漢字1文字で、と記者に聞かれた大久保氏は、「2文字は出やすいけれど」と言葉を濁した。どんな言葉が浮かんだのか知らないが、「反省」の2文字でないことだけは、確かだ。
産経抄 産経新聞 4/17
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