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デニソバ人

2010-12-24 02:19:11 | 科学
シベリアのデニソバ洞窟で発見された化石のDNA解析の結果が 12/23 付けの Nature に出ていた。
いくつか面白い点があった。

デニソバ人はネアンデルタール人との関連が深いのでこの点をまずまとめてみよう。

ネアンデルタール人は数十万年前、歴史に登場した。
その後、イベリア半島にある洞窟で2万数千年前に生活していた痕跡を最後に歴史から姿を消している。
絶滅したのだ。

分子生物学の手法を使った解析で、以下のことがわかっている。

ネアンデルタール人は現世人類とは独立してアフリカから出てきた。
シベリアからヨーロッパまで広いところに分布するようになったが、中東に残っていたグループは、後から出アフリカした現生人類と混血している。
2010年5月のサイエンスの記事によると、現代人は1-4%ほどネアンデルタール人の血を引いているという。

さらに今回の記事には、クロアチアやロシアから発見されたネアンデルタール人のDNA解析で遺伝上のボトルネックがあったことがわかったと書かれている。
つまり、Effective Population (子孫を残すことに参加する人の数)が急激に減少して、遺伝的多様性が失われたということだ。
このような状態になると環境の変化や疾病の流行に対する適応力が衰え、絶滅の危険性が増加する。
例えばチーターがその例だ。
チーターの個体間では移植時の拒絶反応も起きないし、異常な精子の数も大変多い。
未だに生き残っているのは奇跡といえる。
ネアンデルタール人が地球上から姿を消したことと関係があるかもしれない。

一方、同じネアンデルタール人類に分類されているデニソバ人はこのボトルネックを経験しいない。
前述のネアンデルタール人はデニソバ人と分岐してから急激な人口減少が起こったと考えられる。
人口減少の原因については、火山説や戦争説などいろいろあるが、いずれの説も推定だけで決定的な証拠を持たない。

さらに、現在のメラネシア人には多くデニソバ人の遺伝子が存在し。10%以上もの混血状態が続いている。
ニューギニア人は出エジプトを経験しておらず、アフリカ南部から直接東向きに航海したという説も一部にはあったが、ニューギニア人の遺伝的特殊性はこのデデニソバ人混血説で科学的に説明できる。
地球上から消滅したと思われていたネアンデルタール人の遺伝子が脈々と受け継がれていた。

結論としては、まずネアンデルタール人の一部が出エジプトした。
彼らの一部は中東に残り、一部は遠くシベリア周辺まで進出した。
ネアンデルタール人の出エジプトはその後も続き、現生人類が10万年ほど前に出エジプトするころには中東からヨーロッパ、東アジアにまで広く分布していた。
現生人類は中東でネアンデルタール人と希に混血しつつ世界中に広がった。
東アジアでは、デニソバ人(ネアンデルタール人)と現生人類の混血も見られ、一部がニューギニアで生存している。

数万年前にネアンデルタール人は人口減少を経験しその後、南ヨーロッパを除いて絶滅する。
デニソバ人も、東アジアでは生き残れなかったようだ。

以上のように、現代人類 (homo sapiens) の歴史を一瞥することが出来る。
失われたと思った遺伝子が見つかる話はクニマスにも似ており、生命活動の不思議を感じる。