ごとりん・るーむ映画ぶろぐ

 現在584本の映画のあくまで個人的な感想をアップさせていただいています。ラブコメ、ホラー、歴史映画が好きです【^_^】

「ヴェニスの商人」(マイケル・ラドフォード監督)

2008-04-29 | Weblog
評価:☆☆☆
キャスト:アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズ、ジョセフ・ファインズ、リン・コリンズ、ズレイカ・ロビンソン、クリス・マーシャル、チャーリー・コックス、マッケンジー・クルック、ヘザー・ゴールデン、ジョン・セッションズ、グレゴール・フィッシャー、ロン・クック、アントン・ロジャース
コメント:1596年のベニスという設定。もちろんシェイクスピア原作の「ベニスの商人」を忠実に映画化したものだが、土地の所有を禁じられたユダヤ人がゲットーに押し込められ、金融業務でしか生計をたてられないユダヤ人は、ゲットーの外に出るには赤い帽子の着用が義務付けられていたなどのコメントが冒頭に述べられる。シャイクスピアが実際にベネチア共和国に行ったかどうかというとおそらく行かずに想像でこの世界を作り上げたのだろうと推測されており、「金を取るのに利息をつけるのは…」とカトリック信者がクレームをつけている場面があるが、もちろんユダヤ教の教義でも利息をつけるのは違反だが、それはユダヤ教徒同士の間でのみのこと。他宗教の人間に利息をつけるのはけっしてユダヤ教の教義にも違反しないし、現在のイスラム金融なども利息禁止ではあるがキリスト教徒や日本人に利息付で融資するのはけっして宗教上問題にならない。むしろ「想像力」だけでここまでの物語を紡ぎ上げてしまうのがシャイクスピアの偉大さなのだろう。ただ原作どおりに映画化するにはちょっと21世紀の現在、問題点が見受けられる「箇所」もある…ということで冒頭のナレーションそのほかが付加されたのではないかと思う。土地の所有が禁止されていたのは事実なのかもしれないが海洋国家のベネチアではそれが致命的な経済的打撃になったとはちょっと思いにくい。そもそも第4次十字軍のベネチア共和国の政治的手法は、国家そのもので商業そのほかに打ち込んでいたとも思われ、けっしてアントーニオのような「良識派」(?)ばかりではなかったような…。「いつの世も人は見かけにだまされる」という警句は、シェイクスピアほどの偉人の台詞ならば、二重三重の意図が隠しこまれている可能性も。そしてシャイロックのこの劇中の扱いもまた21世紀の現在になっても多重の解釈ができうる存在だということをこの映画で再確認した。シャイロックの仲間のユダヤ人テューバルは映画の中ではちらっと登場するだけだが、裁判の途中には複雑な表情を浮かべている。シャイロックの娘ジェシカはカソリック教徒のロレンゾと駆け落ちして、駆け落ち先から海のむこうの父親に涙する。トリポリ、西インド、メキシコ、イングランドなど5つの船に全財産を積載しつつも海上保険すらかけていなかった商人アントーニオは結局のところ公証人に認証してもらった契約を履行できずに終わっている…。「信用でお金を借りる」といった背景からしても、当時のベネチア共和国ではすでに保険業も有限会社形態も存在したわけで、投資リスクの分散を図らずに契約した以上は宗教上の問題とは違った信義則もあったはずだ。そしてクイズで「ベルモントの美しい女」(ポーシャ)と結婚するバッサーニオ。話としては非常に面白い話だが、「鉛」の箱を選ぶだけではなく、話の伏線としてポーシャがかなりの資産を保有しているとともに、ベルモントに向かう前の衣服そのほかはシャイロックから調達した資金。結局外装にとらわれている点では、「クイズをはずした」モロッコの王やフランスの貴族とさして本質的な違いはない…。
 この手の映画では相当にいろいろな「研究」を下敷きにしてオリジナルの世界を作っていると思うのだが、ユダヤ教の「コオシェル」(食べていいもの)の中に羊があることは初めてこの映画を見て知った。慎重に血抜きをしているシーンがあるのだが、「血」そのものはやはり食べたり飲んだりしてはいけないらしい。またシャイロックが「あのナザレ人が悪霊を閉じ込めた豚」という台詞があるが、もともとユダヤ教でも「豚」は食べてはならないものらしい。さらに「金利」を「ウエイト」を表現して「金利表」を取り出すシーンも印象的。現在ならば、一種の融資基準ということになるのだろうか。金額によって利息が定まる方式だったようだ。貸付期間は3ヶ月だったと思うが、船がぜんぶ難破することまではシャイロックは予想していなかっただろうから、もともとはそれほど利息を取ろうとは思っていなかったのかもしれない。
 またユダヤ人の始祖とされているヤコブについての台詞で「ヤコブの杖に誓って…」というシャイロックの台詞も興味深い。ヤコブの杖は映画の冒頭にワンシーンちらっとでてきたユダヤ教のクロス(のようなもの)をさすらしいのだが、キリスト教だと「十字架に誓って」という表現に相当するのだろうか。当時レコンキスタを果たしてナポリやシチリア、さらに地中海に進出していたアラゴン王国の貴族や、すでにイスラム化していたはずではあるがやはり地中海の入り口付近に位置するモロッコ王国なども「求婚者」として登場。シェイクスピアが想像を膨らませるにしてもやはり当時の地中海の有力な国家をしっかりシナリオにすえていたことがわかる。
 マッケンジー・クルックは「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズで脇役とみえて実は結構台詞そのほか出番が多かった「隻眼の海賊」役だったがこの映画では、シャイロックのもとを去るランスロットの役で出演。この人まだ36,7歳なのにえらくふけこんでいる…。ポーシャ役のリン・コリンズは男装した法学者の役でもなかなかの演技を見せる。シェイクスピアも想定していなかったほどの堂々の演技ぶりだと個人的には高い評価。まだ若い女優さんだしこれからさらに飛躍していきそうな予感。