広島原爆死没者慰霊碑(広島平和都市記念碑)
「安らかに眠って下さい 過ちは繰り返しませぬから」
慰霊碑が建立されたのは、原爆投下から7年後の1952年8月6日のことであった。
碑文の作者は、広島大学教授の雑賀忠義である。
その3ヶ月後の11月、長身のインド人が慰霊碑の前に立ち献花し黙とうを捧げた。
あの東京裁判で判事を務め、ただ一人、日本のA級戦犯全員の無罪を主張した、
インドの国際法学者ラダビノッド・パールである。
パール博士は碑文を見ると、通訳に何と書かれたいるのか何度も意味を確認した。
彼の目は、怒りに燃えていった。
「この“過ちは繰り返さぬ”という過ちは誰の行為をさしているのか。むろん日本人を
さしていることは明らかだ。それがどんな過ちであるのか、わたしは疑う」
彼は、敗戦国が戦勝国に屈して、加害者の責任をあいまいにしてしまうことが、許せ
なかったのである。パール博士は、原爆死没者慰霊碑に刻まれた文章の主語は、
日本人であると考えた。
しかし、原爆を落としたのはアメリカであり、日本人は被害者である。
その日本人が“過ちは繰り返しませぬから”ということが、博士には納得できなかっ
たのだ。このパール博士の発言は、ラジオや新聞で取り上げられた。
これに対し、広島市長の浜井信三(当時)は、「あれは原爆の犠牲者に対し広島市
民に限らず、生きている全人類の立場を代表した言葉だ」と述べている。
また、碑文の作者・雑賀忠義は、「広島市民であるとともに世界市民であるわれわれ
が過ちを繰り返さないという霊前に誓う ― これは全人類の過去、現在、未来に通じ
る広島市民の感情であり、良心の叫びである」と、パール博士に抗議文を送ってい
る。碑文をめぐる論争は、1970年にも再燃。
碑文は屈辱的であり、抹消すべきだという運動も起こっていた。
山本伸一は、敗戦国を擁護し、尊重する、パール博士の心を、嬉しく思った。
しかし、伸一は、この碑文は核戦争の過ちを二度と起こさないという、人類の誓いで
あるととらえていた。誰が加害者で、誰が被害者であるかを明らかにすることも必要
であろう。だが、慰霊碑にとどめるべきは、平和への誓いである。
また、被害者であるとの考えのみにとらわれ、加害者を糾弾しているだけでは、憎悪
と報復の連鎖を繰り返すだけである。
世界の恒久平和を創造していくには、被害者・加害者という分断的な発想を転換し、
地球上のすべての人が、同じ人類、世界市民としての責任を自覚することが必要で
ある。伸一は、慰霊碑の言葉はそれを世界に明示するものとして、高く評価していた
いたのだ。その言葉を広島の、日本の、そして世界の人びとの誓いとしていくには、
人類の心の結合が不可欠だ。
それを可能にする生命尊厳の哲理こそが、日蓮仏法なのである。
<新・人間革命より引用>
「核兵器 ― 現代世界の脅威」
1982年6月1日。ニューヨーク・マンハッタンにあるルーズベルトホテル。
格子柄の絨毯に敷き詰められた部屋に、三人のアメリカ人学者が入ってきた。
マンハッタン計画の参加者、バーナード・フェルド。
ノーベル賞受賞者、ジョージ・ウォールド。
世界的な行政学者の権威、ジョン・モンゴメリー。
待っていた日本人たちに静かに歩み寄る。長身を折って握手。
一斉にカメラが光る。マンハッタン計画の参加者が、原爆の被害者と対面する ―
メディアの注目が集まっていた。
重い空気。フラッシュの音まで、ずしりと腹に響く。
テーブルのジュースに誰も手を伸ばさない。フェルドが口を開いた。
「あなたたちは、アメリカを恨みますか?」
イエスかノーかを迫る、いかにもドライな米国人らしい問いかけだった。
「はい・・・・・。最初は憎くて、たまらんやった」
とつとつとした口調で婦人が答えた。長崎で被爆した橋本トミヨ。
「ばってん、今は怨んでましぇん」
爆心地から1.2キロ。全身にガラス片が刺さり、重たい梁の下敷きになった小柄な
体をもむように、声をふりしぼった。
「アメリカの人にも、私らが受けた苦しみを、二度と絶対に味あわせたくなかと。
そいだけです!」 耳を疑ったフェルド、ウォールド、モンゴメリー。
さらに橋本は、まるで世界に宣言するように、自分は創価学会の一員であると名乗
った。「池田先生に教わりました。『愚かな指導者の生命にある魔性が、一番悪か』
って!」 モンゴメリーは、池田会長が発表した軍縮提言にも目を通した。
非常に示唆に富んでいる。だが眼前の婦人にも、価値観をひっくり返されるような
衝撃を受けた。原爆を落としたアメリカ。長崎、広島の被爆者。
永遠に交わらない平行線と思っていたが、煉獄の炎をくぐり抜けた東洋の女性から
人類の根本命題を突きつけられた。
<月刊 潮から引用>
アメリカのオバマ大統領「プラハ演説」
核廃絶へむけて自分たちが変わるとの宣言であった。
日本は、唯一の被爆国として「核兵器は絶対悪」との平和アピールをすべき。