「なんとしてでも、地球を死の惑星にはしたくない。
未来に向かって、地球上のすべての生物との共存をめざし、むしろこれから
が、人類のほんとうの“あけぼの”なのかもしれないと思うのです」
戦後、膨大な数の漫画を描き、今や世界50ヶ国にもアニメとして放映されている。
平成元年に惜しまれながら他界した。
彼の漫画に貫かれているメッセージは“生命の尊厳”である。
「『鉄腕アトム』で描きたかったのは、一言で言えば、科学と人間のディスコミュ
ニケーションということです。(中略)
ディスコミュニケーションという点では、科学と人間もそうですが、いま地球と人
類にそれが起きている。もっと地球の声に耳を傾けるべきだと思うのです」
「幼いころから生命の大切さ、生物をいたわる心を持つための教育が徹底すれ
ば、子どもをめぐる現在のような悲惨な事態は解消していくだろうと信じます。
今、ここから始めればいいのです。ただ、繰り返しますが、そのためには“豊か
な自然”が残されていなければならない。
自然というものは人の心を癒す不思議な力を宿していて、自然こそ、子どもに
とっては最高の教師だとぼくは思います」
「『ブラック・ジャック』の作品中に、ある老人の話を描きました。
高層ビル建設のために、一本のケヤキの木が伐り倒されることになり、
その木とともに育ってきた、ある老人がなんとか建設をくいとめようとしますが
果たせず、明日は伐り倒されるという最後の夜、ケヤキと一緒に酒盛りした
後、その枝で首つり自殺をはかります。
それをブラック・ジャックが手術して助けるのですが、さて困った問題を抱えまし
た。老人は生きのびましたが、もはや老人には生きがいがないのです。
これで人助けをしたことになるのかどうか。
物語としては、結局、その老人が可愛がっていたケヤキが種を飛ばしてつくっ
た子どもの木を手術中の幻に見て、その木を発見し、生きていく力を取り戻す
のですが、現実には老人が生きがいを見出すのは、なかなか今のような社会
では、むずかしいことのように思われてなりません」
「生まれながらに、地球という天体を外から眺めながら育った子どもたちは、
その天体に棲む何十億という人間を、万物の霊長だとは見ないに違いないと
思います。きっと他の無数の生きものと同等に、一介の生物として考えるでしょ
う。その地球を、乱開発したり荒廃させたりという人間のエゴイズムを、彼らは
黙認はしないと思うのです。実際、アメリカの宇宙飛行士たちの多くが、月面か
ら、宇宙から、地球を初めて眺めることによって、いかにそれまでの自分の人
生観が変わったかを述べています。(中略)
大宇宙の孤独に耐えて、ガラスのように壊れやすく、美しい地球が浮かんでい
る。(中略)
宇宙の果てしない闇の深さにくらべ、この水の惑星の何という美しさでしょう。
それはもう、神秘そのものかもしれません。
ひとたび、そんな地球を宇宙から見ることができたら、とてもそのわずかな大切
な空気や緑、そして青い海を汚す気にはなれないはずです。
だから、ぼくは宇宙ステーションや月面で生まれ育った子どもたちに期待してい
るのです。(中略)
きっと彼ら未来人、そして宇宙人である子どもたちは、新しい地球規模の哲学
を携えて、地上の人々に警告を発することでしょう」
この宇宙のあらゆる生命は、すべて“縁”によってその生命活動が起きる。
因果の法則によって、あらゆる事象はあらゆる形で顕現する。
そこには全知全能などという、神秘やオカルト的なものは存在しない。
あたかもこの宇宙にリズムがあるとすれば、そのリズムと一緒に実相を奏でる。