Seiji Ninomiya (二宮正治)

Let me tell "JAPAN NOW"

二宮正治の短編小説 秀樹のクラリネット 第16回

2011-04-23 04:14:24 | 日記
「この先ぼくの人生はどうなるんだろう」
 秀樹はこう自問自答した。
「正直なところ生きる事が辛い」
 新しい中学校の人気者になった田村秀樹だったが、心は晴れなかった。
生まれ故郷の福島県いわき市の風景を思い出しながら、井上陽水の少年時代をクラリネットで吹くと心が落ち着いた。
「もう故郷には帰れないんだろうか、多分そうだろう。この江戸川を故郷だと思って生きよう」
 決意を新たにする秀樹だったが、なぜか涙がこぼれた。
「江戸川はぼくの故郷、このすばらしい緑、青い空」
 即興で詩を作り歌を唄いながらクラリネットを吹いていると、新しいクラスメイトの村田愛子が現れた。
「村田さん」
 秀樹がこう呼ぶと、
「止めて村田さんなんて言い方」
 愛子が秀樹にこう言った。
「愛子ちゃん」
 秀樹がこう言うと村田愛子はにっこりと笑った。
秀樹もそれにつられて愛子を見て笑うのだった。