Seiji Ninomiya (二宮正治)

Let me tell "JAPAN NOW"

二宮正治の短編小説 秀樹のクラリネット 第8回

2011-04-14 05:52:34 | 日記
 秀樹はある決断をしたのだった。
「家族が待つ、大好きだった中田真子が待つ天国へ行こう」
 この決断である。
マスコミの報道で、
「原発の被災地は百年封印したほうがいい」
 との報道を耳にした事も秀樹が絶望した大いなる原因のひとつであった。
ただ、秀樹には気になる事がひとつあった。
「宝物のクラリネットである」
 秀樹はクラリネットに張り紙をして江戸川の土手に置く事にした。
「これはぼくの宝です。音楽が好きな人はぼくに変わってこのクラリネットを愛してください。ぼくは理由があって遠いところに行くのです」
 この手紙を書き終えると秀樹の目から大粒の涙が流れ出てきた。
「思えば十四歳を前に旅立つのか。短い人生だった。でも悲しくはない。みんなが待ってるところに行くのだから」
 必死で自分に言い聞かせた。だが、やはり涙が出て止まらなかった。
秀樹は泣きの涙で江戸川に向かったのである。