小父さんから

ミーハー小父さんの落書き帳

犬と私たちの10の約束 : 寺島しのぶ (文藝春秋)

2007年11月20日 | 
  寺島しのぶ
 
 

「著名人と愛犬の心の交流、感動のエピソードが、田辺聖子、小池百合子、野村克也、松たか子、佐々淳行、猪瀬直樹、田中宥久子、齋藤孝、平岩弓枝と並んでいる。小父さんはペットを飼ったことはないが、ウォーキングで出会う愛犬家の気持ちの一端が理解できた。最後の平岩弓枝の、飼い犬と仲がいい仔猫が、よそのシェパード犬に噛み殺された時の愛犬の形相の逸話が特に印象深い。いやはや皆さんお揃いで、うらやましいほど犬馬鹿やっている。」  

  
 

【夫ローランのしつけ】(捨助:フレンチブルドッグ オス 二歳) 父(七代目尾上菊五郎)が無類の犬好きで、小さい頃から家には常に犬がいました。父も母も(富司純子)も仕事で留守がちだったので、私と弟(尾上菊之助)は犬がいたからこそ救われたというか、犬に支えられて育った気がします。

父はゴールデン・リトリーバーが好きで、特に「マイティ」と名づけたメスのゴールデンとは相思相愛の仲でした。末期がんを宣告されたマイティは、父が地方巡業で一ヵ月留守のあいだひたすら帰りを待ち続け、戻ってきた父に介護されて少し元気になったかのように見えました。再び巡業に出る日、「マイちゃん、もういいよ。頑張らなくて」と父が言ったんです。そのときは父を見送り、父が電車に乗ったと思われる時間に息を引き取りました。最期の苦しむ姿を最愛の父に見られたくなかったのでしょうか。

そんな父と犬たちの強い絆を見て育ったせいか、大人になった私は、自分だけの犬がほしいと思うようになりました。最初に飼ったのが、黒柴の「姫」です。出あったのは六年前、デパートのペット売り場やペットショップを覗いてしまうのがクセで、そこで可哀そうな雰囲気をかもしだしている犬に出合ってしまうと弱いんです。「姫」が、まさにそれでした。生後三ヶ月でしたが、柴犬の仔犬は普通ころころしていて可愛いはずのに、「姫」はほっそりとした成犬の顔をしていました。体もがりがりに痩せていて、とても放っておけない子だったのです。 次に、二年前出会ったのが、フレンチブルドッグの「捨助」。ペットショップにいたのですが、笑ってしまうくらいブサイクな犬で、「これじゃあ、きっと売れ残っちゃうだろうな」と思うと矢の盾もたまらず、連れ帰ってしまいました。母は私に「そんなに可哀そうな犬がいいのなら、保健所から引き取ってくれば」と叱りますが、実は母も小さい頃から捨て犬、捨て猫に弱いタイプで、しょっちゅう拾ってきては育てていたそうです。 可哀そうと思って飼いはじめた捨助ですが、これが不細工なうえに凶暴なんです。 メスの姫は五歳ですし、もののわかったおとなしい犬ですが、捨助は甘え方はうまいし、力も食欲もはんぱじゃない。最初の一年、姫は捨助が近くににくるとヨダレを垂らし続けていました。これは、犬が嫌いなものに出会ったとき、生理的に起きる反応だそうです。やっとお互いに慣れた共存しはじめたところに、二匹にとって大いなる敵が現れました。 今年二月に結婚した、私の夫ローランです。彼はフランス人ですし、欧米流の犬との暮らし方に慣れていて、私の叱らない甘やかし放題の育て方に呆れ、いつもそばにへばりついている二匹を見て、これではいけないと思ったようです。それまでは食事のときも私の真横に並び、寝るときも一緒のベッドだったのですが、彼は断固として彼らに命じました。「君たちは犬なんだから、犬としての生活をしなさい」 最初はつめたいなぁと思った私ですが、彼の犬たちに対する態度から、だんだん学ぶようになりました。欧米では動物と一緒に暮らすときも人のテリトリーと犬のテリトリーがあって、お互いにそれは侵さないという無言のルールがあるようです。ただ、べたべたと可愛がるだけではダメなんですね。

彼は犬たちを叱るときはきちんと叱り、よいことをすると思いきりほめてやります。最初は噛みついて凶暴さを発揮しまくっていた捨助も、今ではすっかり一家のボスとして尊敬しているようです。彼のほうも、噛むのは犬の本能なんだから、それを否定してはいけない、どんな犬にも「可愛い」と言って無防備に手を出すのは日本人だけだと言います。「犬は犬として尊敬しなさい。彼らは人間と同じではないのだから」というのが彼のスタンスです。 犬たちの順応性にも驚かされました。私が長期に留守にするときは実家に預けるのですが(実家には今、坊太夫というゴールデンがいます)、そこでは母と一緒のベッドで甘えて眠り、うちに戻ると犬たちの決められたテリトリーで寝ます。ちゃんと二つの家族に合わせて暮らし方を変えているわけです。そんな二匹が可愛くてたまらず、私はやっぱり甘いママを演じてしまいます。「おりこうにお留守番したあとは、必ず楽しいことをしてあげるよ」それが、私が犬たちにしている約束です。
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