7月から9月までの、長い長い夏休みを前にしても、ヤセッポッチちゃんは嬉しくありませんでした。
住み慣れた家の柱にお母さんがつけてくれたキズ跡が、ちょうど10個目になって、もうすぐ11個目のキズ跡をつける前の日に
お母さんは旅に出たまま帰ってはきませんでした。お母さんは、海を越えてお姉さんに会いに行ったのです。
ヤセッポッチちゃんも、一緒に行く予定でしたが、朝起きると身体中赤い湿疹が出来て、まるでニンジンのようでした。それで、お母さんが帰るまで病院に入院する事になったのです。すっかり、元気になった日にお母さんから手紙が届きました。
「明日帰ります。叔母さんも心配いらないほど元気になりました。お土産沢山持って帰るから楽しみに待っていてください。
明日は2人でお誕生日をお祝いしましょう。柱の印をつけたら、ケーキをつくりましょうね! 愛をこめて私のポッチちゃんへ」
でも、ポッチちゃんはお土産を見ることは出来ませんでした。お母さんと一緒に海に飲み込まれてしまったからです。
ヤセッポッチちゃんは、お母さんと2人でずっと暮らしてきました。
お父さんが病気で死んでしまったのは、ヤセッポッチちゃんがまだ赤ん坊の頃でしたから、
2人で居れば寂しさなんてちっとも感じませんでした。
でも、一人ぼっちになって始めての誕生日を迎えた朝、いつも笑ってばかりいた
ヤセポッチちゃんの頬に細長い涙の川が沢山出来ました。
一人で柱に背中をつけて、ヤセッポッチちゃんは言いました。
「こらこら、背伸びをしたらずるいぞ。」
お母さんの真似をしながら、鉛筆で頭のてっぺんに11回目の印をつけました。
そして、消えないように柱にもう一度ナイフで刻むと10個目と11個目の間が
とても離れていて、ヤセッポッチちゃんはますます、やせっぽっちに見えました。
<ヤセッポッチちゃん、叔母さんの家に行く>
一人ぼっちのポッチちゃんの家に、叔母さんが訪ねて来たのは、朝日が昇って7月の夕陽が、
ちょっと前まではお母さんだったけど、お母さんの柱だけを詰め込んだ白い小さな箱を、
不思議そうに見つめるポッチちゃんの背中を支えて疲れだした時でした。
玄関の扉が音もなく開いて、叔母さんが言いました。「ポッチちゃん!叔母さんよ!久しぶりだねぇ!」
ぽっちちゃんが振り返ると、お母さんとお母さんを足し算した位、太った女の人が
真っ赤な顔で立っていました。ヤセッポッチちゃんは、柱に5本目の線をつけた夏から一度も叔母さんに会っていませんでした。
だから、お母さんのお姉さんがどんな顔だか覚えていないし、こんなにふとっちょさんがヤセッポッチちゃんの叔母さんなんて、
信じられませんでした。お母さんと違うので、少しがっかりしたポッチちゃんでした。
叔母さんの名前は、フトッテッタさんといいます。
ポッチちゃんは夏休み中ずっと、いえいえもっとずっとフトッテッタ叔母さんが住む、海の向こうにある島国へ行く事になりました。
お母さんの思い出が詰まった家を離れるなんて、信じられませんが、「いつか又帰って来れるから心配しないで」と
テッタ叔母さんは言いました。次の朝早く、ポッチちゃんとテッタ叔母さんは港に向かいました。
ポッチちゃんの荷物はやせっぽっちの背中から、はみ出るくらい大きくなりました。それでも、まだまだ持っていきたい物が沢山ありましたが、テッタ叔母さんは「大切にしまって置けば又取りに来れるから」と、ポッチちゃんに言いました。
船の名前は、「白波号」です。ポッチちゃんは、この船に乗って海を渡りながら、何度も波の合い間にお母さんを探しました。すると、ポッチちゃんの涙で潤んだ瞳の向こうには優しく手を振るお母さんの姿が見えるのです。涙を指でこすると消えてしまうので、ポッチちゃんは何度も何度も海を見ながら涙を流していました。
船の旅は、2つの太陽と2つのお月様が顔をだした夜に終わりました。
ポッチちゃんは聞きました「叔母さんの家までは遠いの?」
テッタ叔母さんは、ニコニコして言いました。「ほら、あそこに白い灯台が見えるだろう?そのすぐ下に青い屋根の家が私のうちさ。さあ、もう少しだからね家に着いたら暖かいココアを入れようね。」
ポッチちゃんは月明かりに浮かぶ青い屋根を見上げて、ゆっくりとうなづきました。
朝日がポッチちゃんの横顔を照らすと、壁掛の温度計が20度を指しました。
毛布を2枚、羽根布団を1枚掛けたポッチちゃんの額が少し汗ばんできた頃、窓を叩く音でポッチちゃんは目が覚めたのです。
窓の方を見ると緑色の小鳥が一羽、ガラス窓をくちばしでつついています。
ポッチちゃんが起き上がって傍まで近づいても逃げようともしません。
そこで、ポッチちゃんは窓をそぉーっと開けてあげました。
すると小鳥は待ってましたと、部屋に飛び込んできました。
小鳥はしばらくの間ポッチちゃんの周りをパタパタと飛んでから、急に羽根をたたむとストンと足から着地してポッチちゃんに言いました。
「ああーええーううーおおーポッチ様でんな。」
ポッチちゃんが、うなづく間もなく小鳥が言いました。
「ポッチ殿、わたくし色鳥どり組合代表キツツキさんは、貴方様をこの島の新しい女王様としてお迎えできたことを、大変うれしくはばたいております。ゆえに、この島の事情を貴方様にじきじきにお伝えしつつ・・キッキッー」びゅっと吹き込んだ風が小鳥を巻き込んだかとおもうと、窓から外へ吸い込んで消し去りました。
さっきまで明るかった窓の外が急に暗くなり、突然の雷と、大粒の雨が窓から吹き込んできました。
急いで窓を閉めたポッチちゃんの目の前に、もう少しでぶつかりそうな勢いの黒い手が伸びてきて窓にぶつかりました。
ばちゃっと大きな音を立てたその手は、黒いカラスになって飛んでいきました。
ポッチちゃんは目をこすってから、夢を見たんだと思いました。
だって、外は明るい日差しが、昨夜登った道筋をきらきらと照らしだしていたからです。
住み慣れた家の柱にお母さんがつけてくれたキズ跡が、ちょうど10個目になって、もうすぐ11個目のキズ跡をつける前の日に
お母さんは旅に出たまま帰ってはきませんでした。お母さんは、海を越えてお姉さんに会いに行ったのです。
ヤセッポッチちゃんも、一緒に行く予定でしたが、朝起きると身体中赤い湿疹が出来て、まるでニンジンのようでした。それで、お母さんが帰るまで病院に入院する事になったのです。すっかり、元気になった日にお母さんから手紙が届きました。
「明日帰ります。叔母さんも心配いらないほど元気になりました。お土産沢山持って帰るから楽しみに待っていてください。
明日は2人でお誕生日をお祝いしましょう。柱の印をつけたら、ケーキをつくりましょうね! 愛をこめて私のポッチちゃんへ」
でも、ポッチちゃんはお土産を見ることは出来ませんでした。お母さんと一緒に海に飲み込まれてしまったからです。
ヤセッポッチちゃんは、お母さんと2人でずっと暮らしてきました。
お父さんが病気で死んでしまったのは、ヤセッポッチちゃんがまだ赤ん坊の頃でしたから、
2人で居れば寂しさなんてちっとも感じませんでした。
でも、一人ぼっちになって始めての誕生日を迎えた朝、いつも笑ってばかりいた
ヤセポッチちゃんの頬に細長い涙の川が沢山出来ました。
一人で柱に背中をつけて、ヤセッポッチちゃんは言いました。
「こらこら、背伸びをしたらずるいぞ。」
お母さんの真似をしながら、鉛筆で頭のてっぺんに11回目の印をつけました。
そして、消えないように柱にもう一度ナイフで刻むと10個目と11個目の間が
とても離れていて、ヤセッポッチちゃんはますます、やせっぽっちに見えました。
<ヤセッポッチちゃん、叔母さんの家に行く>
一人ぼっちのポッチちゃんの家に、叔母さんが訪ねて来たのは、朝日が昇って7月の夕陽が、
ちょっと前まではお母さんだったけど、お母さんの柱だけを詰め込んだ白い小さな箱を、
不思議そうに見つめるポッチちゃんの背中を支えて疲れだした時でした。
玄関の扉が音もなく開いて、叔母さんが言いました。「ポッチちゃん!叔母さんよ!久しぶりだねぇ!」
ぽっちちゃんが振り返ると、お母さんとお母さんを足し算した位、太った女の人が
真っ赤な顔で立っていました。ヤセッポッチちゃんは、柱に5本目の線をつけた夏から一度も叔母さんに会っていませんでした。
だから、お母さんのお姉さんがどんな顔だか覚えていないし、こんなにふとっちょさんがヤセッポッチちゃんの叔母さんなんて、
信じられませんでした。お母さんと違うので、少しがっかりしたポッチちゃんでした。
叔母さんの名前は、フトッテッタさんといいます。
ポッチちゃんは夏休み中ずっと、いえいえもっとずっとフトッテッタ叔母さんが住む、海の向こうにある島国へ行く事になりました。
お母さんの思い出が詰まった家を離れるなんて、信じられませんが、「いつか又帰って来れるから心配しないで」と
テッタ叔母さんは言いました。次の朝早く、ポッチちゃんとテッタ叔母さんは港に向かいました。
ポッチちゃんの荷物はやせっぽっちの背中から、はみ出るくらい大きくなりました。それでも、まだまだ持っていきたい物が沢山ありましたが、テッタ叔母さんは「大切にしまって置けば又取りに来れるから」と、ポッチちゃんに言いました。
船の名前は、「白波号」です。ポッチちゃんは、この船に乗って海を渡りながら、何度も波の合い間にお母さんを探しました。すると、ポッチちゃんの涙で潤んだ瞳の向こうには優しく手を振るお母さんの姿が見えるのです。涙を指でこすると消えてしまうので、ポッチちゃんは何度も何度も海を見ながら涙を流していました。
船の旅は、2つの太陽と2つのお月様が顔をだした夜に終わりました。
ポッチちゃんは聞きました「叔母さんの家までは遠いの?」
テッタ叔母さんは、ニコニコして言いました。「ほら、あそこに白い灯台が見えるだろう?そのすぐ下に青い屋根の家が私のうちさ。さあ、もう少しだからね家に着いたら暖かいココアを入れようね。」
ポッチちゃんは月明かりに浮かぶ青い屋根を見上げて、ゆっくりとうなづきました。
朝日がポッチちゃんの横顔を照らすと、壁掛の温度計が20度を指しました。
毛布を2枚、羽根布団を1枚掛けたポッチちゃんの額が少し汗ばんできた頃、窓を叩く音でポッチちゃんは目が覚めたのです。
窓の方を見ると緑色の小鳥が一羽、ガラス窓をくちばしでつついています。
ポッチちゃんが起き上がって傍まで近づいても逃げようともしません。
そこで、ポッチちゃんは窓をそぉーっと開けてあげました。
すると小鳥は待ってましたと、部屋に飛び込んできました。
小鳥はしばらくの間ポッチちゃんの周りをパタパタと飛んでから、急に羽根をたたむとストンと足から着地してポッチちゃんに言いました。
「ああーええーううーおおーポッチ様でんな。」
ポッチちゃんが、うなづく間もなく小鳥が言いました。
「ポッチ殿、わたくし色鳥どり組合代表キツツキさんは、貴方様をこの島の新しい女王様としてお迎えできたことを、大変うれしくはばたいております。ゆえに、この島の事情を貴方様にじきじきにお伝えしつつ・・キッキッー」びゅっと吹き込んだ風が小鳥を巻き込んだかとおもうと、窓から外へ吸い込んで消し去りました。
さっきまで明るかった窓の外が急に暗くなり、突然の雷と、大粒の雨が窓から吹き込んできました。
急いで窓を閉めたポッチちゃんの目の前に、もう少しでぶつかりそうな勢いの黒い手が伸びてきて窓にぶつかりました。
ばちゃっと大きな音を立てたその手は、黒いカラスになって飛んでいきました。
ポッチちゃんは目をこすってから、夢を見たんだと思いました。
だって、外は明るい日差しが、昨夜登った道筋をきらきらと照らしだしていたからです。