しのぶwaves

有馬忍 ライブ情報 日々記

4次元チップス

2007-02-10 18:28:54 | ★☆ライブ情報☆★
変な夢を見た。
私は、アンジー。
45歳、離婚歴、もちろん有り。仕事は歌手。うーん、売れてないけど、あたしの才能を疑う余地なし。その証拠に、書いた歌は数知れずその一曲一曲が女の感情を共鳴させながら、男の感情を奮い起たせる、らしい。これは、あたしが言ったんじゃなくて2年前にあいつがあたしに言った。
あいつってのは、あたしが離婚してすごく寂しい夜に行きつけのバーでビールおごってくれた人。すごく好きになっちゃった挙句、彼の車の中で思い切り自然の姿を彼に見せちゃって・・・それだけ。
とにかく、それ以来あたしの前から消えてしまった。
あたしは、それからバンドマンのロッドと恋に落ちて結婚。
2年後に離婚。
ロッドはめちゃくちゃモテモテの色男だった。あたしも、もちモテモテの歌手だった。で彼はあたしに会ってから、毎晩クラブで歌うあたしにバラの花束100本送り届けたのよ。あたしすっかり彼に夢中になって、美男美女の人も羨む夫婦になった訳。2年後のある日、あたしはツアーから一日早く帰ったの。ドアを開けると、急に胸騒ぎ・・
だって、ほら、あの声が聞こえて・・それで、後は、わかるでしょ?
そのままジェシーの家に行った。ジェシーはあたしの親友、あたしがほんとに信じてる唯一の友達。その後10回ロッドがバラの花束持ってきたけど、ジェシーが全部受け取って追い返してくれて・・・1年後、ジェシーとロッドは結婚。
でも、とにかくあたしとロッドを別れさせてくれた、親友だった。
ペインレッドっていう街のバーで、一ヶ月歌った。
ホテルは2流だけどベッドはダブルで、あたしが歌手だからって隣の部屋をなるべく空けといてくれた。だって夜中にギター弾いて歌ったり踊ったりするから。
ロッドと別れたのは、単に浮気が理由じゃない。あたしはモテモテのあいつが、どんなにチヤホヤされてるか知ってたし、時にはツアー先での遊びに関しては見てみぬ振りもする。それが、出来てるミュージシャンの妻だって思ってたから。
あたしがどうしても許せなかった事は、あいつが家に居てあたしが新しい歌を創ってると必ず言う言葉、「そりゃないぜ、ベイビー、そんな歌と俺とどっちが大事なんだ。」そりゃないわよ、ダーリン、
毎晩あいつがどんなにいかしてても、あたしはあたし。
あいつを心から愛してる歌が、あいつに必要なくなった時からあたしは一人ぼっちになったって訳。
ああ、そうそう、そのペインレッドであたしは又あの男に会ったの。
あたしはその日真っ赤なタンクトップに黒のスリットの入ったロングタイトスカートはいてた。そしたら、突然ライトが消えて電気もストップ
「あっあー、テストテスト」なんてばかげたセリフはいてたら、何だか気分が悪くなって気がついたら雨の中で寝てた。
それも、すごい人だかりの中、あろうことかスカートはスリット部分までめくれあがってた。それで、言ったの「寒くて死にそう、コーヒーを頂戴」って
そしたら、あの人があたしを抱き起こしてこう言ったの「今夜の歌は、最高だったよ」って、そこであたしは意識を失った。
目が覚めたら、白い人たちに囲まれてた。

血圧計を腕に巻きつけて、その白い人が言った。
「70の55、ちょっと低いわね。」
あたしの血圧が低いのは家系なの、「女だてらに血圧高いんじゃ、先が思いやられるよ」ママはベッドからなかなか出られないあたしを優しく撫ぜてくれた。
ママの説ではね、朝5時に起きだして掃除洗濯出来たら一人前の女、なんて時代遅れだって。とにかく、自分より血圧高くて優しい男を選べって、教えてくれた。
そうパパみたいな。パパは、朝5時には目が覚めちゃうの。それから、コーヒー飲みながら新聞読み終わる頃丁度6時。ママを起こして、機嫌が良ければベーコンエッグとオレンジジュースがテーブルに並んでる。
あたしはママの誕生日の朝、パパがそっとママの枕もとに置くバラの隠し場所が冷蔵庫の野菜室だって、5歳の頃から知ってた。
とにかく、めでたくあたしの血圧はママゆずり。
ああ、なんだったっけ?そうそう、ここは何処なの?
あたしの歌は良かったの?良かった?なんであいつの声がするのかな。
「具合はどうですか?」
「ええ、意識も戻りましたし、もう心配はないと思います」
はあ?心配ないですって?何にも覚えて無いのにね。
「はーい、アンジー元気かい?」
元気かい?ですって?
よくもシャーシャーとそんな間近に顔近づけて言えるわね。
貴方が誰かなんて、とうの昔に忘れたってそぶりで言うわ、青白い頬が哀愁を誘うから。

ああ~、それにしても、あたし好み。
ジェシーならはっきり言う「どうしちゃったの?煙で目がかすんだってわけだ」
あたしは言う「あたしの好みって、あたしを酸欠に出来る男」

ああ~いやだ、あたしってあの日の事まだ忘れてない。
好きだって思う瞬間移動的性的動物変容可脳下垂体性願望症候群。

もちろん、彼が言った言葉、「今夜の歌は最高だったよ」って部分が
ちょっと、ゆがんだ彼の輪郭を訂正させる頭脳調整をしたとしても、
酸欠っていうのは、肌で感じるものでしょ?

とにかく、3年たっても彼の前で変に苦しくなることは確か。

変になる、感覚ってやつ・・やけに確信犯的よね。
くやしいけど認めざる得ない、始めからもう負けの図式。
あいつ、変形輪郭でデコボコした両手を突き出して、あたしを抱き上げたあげく
雨の中黒くすすけたあたしの顔を覗き込んでた。
いつ、何処で、誰が、何をした?って、単純すぎるストーリーの影に
計り知れない何か、を感じる事あるでしょ?あいつが、それ。

あの夜、ん?だから、最初に会った夜だけど、あいつが発する何かと、あたしの
何かが反応したあげく昨日まで泣いてたあたしの人生が化学変化した。
ぽっかり空いてたあたしの心の空洞が、まさに満たされたって訳。
あたしは夢中であいつに飛び魚みたいに突っ込んだ。あげくの果て、そう3年もあいつの顔を見る事もなかった。

ねえ、、あたしはいったい何をしたわけ?
好きになった男と2人きりで過ごす時間を、理性と教養で節度ある女としての在り来たりの振る舞いが出来なかっただけで、3年間一人ぼっちで歌い続けるなんて。


ヤセッポッチの夏休み

2007-02-02 15:49:53 | ★☆ライブ情報☆★
7月から9月までの、長い長い夏休みを前にしても、ヤセッポッチちゃんは嬉しくありませんでした。
住み慣れた家の柱にお母さんがつけてくれたキズ跡が、ちょうど10個目になって、もうすぐ11個目のキズ跡をつける前の日に
お母さんは旅に出たまま帰ってはきませんでした。お母さんは、海を越えてお姉さんに会いに行ったのです。
ヤセッポッチちゃんも、一緒に行く予定でしたが、朝起きると身体中赤い湿疹が出来て、まるでニンジンのようでした。それで、お母さんが帰るまで病院に入院する事になったのです。すっかり、元気になった日にお母さんから手紙が届きました。
「明日帰ります。叔母さんも心配いらないほど元気になりました。お土産沢山持って帰るから楽しみに待っていてください。
明日は2人でお誕生日をお祝いしましょう。柱の印をつけたら、ケーキをつくりましょうね! 愛をこめて私のポッチちゃんへ」
でも、ポッチちゃんはお土産を見ることは出来ませんでした。お母さんと一緒に海に飲み込まれてしまったからです。
ヤセッポッチちゃんは、お母さんと2人でずっと暮らしてきました。
お父さんが病気で死んでしまったのは、ヤセッポッチちゃんがまだ赤ん坊の頃でしたから、
2人で居れば寂しさなんてちっとも感じませんでした。
でも、一人ぼっちになって始めての誕生日を迎えた朝、いつも笑ってばかりいた
ヤセポッチちゃんの頬に細長い涙の川が沢山出来ました。
一人で柱に背中をつけて、ヤセッポッチちゃんは言いました。
「こらこら、背伸びをしたらずるいぞ。」
お母さんの真似をしながら、鉛筆で頭のてっぺんに11回目の印をつけました。
そして、消えないように柱にもう一度ナイフで刻むと10個目と11個目の間が
とても離れていて、ヤセッポッチちゃんはますます、やせっぽっちに見えました。


  <ヤセッポッチちゃん、叔母さんの家に行く>


一人ぼっちのポッチちゃんの家に、叔母さんが訪ねて来たのは、朝日が昇って7月の夕陽が、
ちょっと前まではお母さんだったけど、お母さんの柱だけを詰め込んだ白い小さな箱を、
不思議そうに見つめるポッチちゃんの背中を支えて疲れだした時でした。
玄関の扉が音もなく開いて、叔母さんが言いました。「ポッチちゃん!叔母さんよ!久しぶりだねぇ!」
ぽっちちゃんが振り返ると、お母さんとお母さんを足し算した位、太った女の人が
真っ赤な顔で立っていました。ヤセッポッチちゃんは、柱に5本目の線をつけた夏から一度も叔母さんに会っていませんでした。
だから、お母さんのお姉さんがどんな顔だか覚えていないし、こんなにふとっちょさんがヤセッポッチちゃんの叔母さんなんて、
信じられませんでした。お母さんと違うので、少しがっかりしたポッチちゃんでした。

叔母さんの名前は、フトッテッタさんといいます。
ポッチちゃんは夏休み中ずっと、いえいえもっとずっとフトッテッタ叔母さんが住む、海の向こうにある島国へ行く事になりました。
お母さんの思い出が詰まった家を離れるなんて、信じられませんが、「いつか又帰って来れるから心配しないで」と
テッタ叔母さんは言いました。次の朝早く、ポッチちゃんとテッタ叔母さんは港に向かいました。
ポッチちゃんの荷物はやせっぽっちの背中から、はみ出るくらい大きくなりました。それでも、まだまだ持っていきたい物が沢山ありましたが、テッタ叔母さんは「大切にしまって置けば又取りに来れるから」と、ポッチちゃんに言いました。


船の名前は、「白波号」です。ポッチちゃんは、この船に乗って海を渡りながら、何度も波の合い間にお母さんを探しました。すると、ポッチちゃんの涙で潤んだ瞳の向こうには優しく手を振るお母さんの姿が見えるのです。涙を指でこすると消えてしまうので、ポッチちゃんは何度も何度も海を見ながら涙を流していました。 
船の旅は、2つの太陽と2つのお月様が顔をだした夜に終わりました。
ポッチちゃんは聞きました「叔母さんの家までは遠いの?」
テッタ叔母さんは、ニコニコして言いました。「ほら、あそこに白い灯台が見えるだろう?そのすぐ下に青い屋根の家が私のうちさ。さあ、もう少しだからね家に着いたら暖かいココアを入れようね。」
ポッチちゃんは月明かりに浮かぶ青い屋根を見上げて、ゆっくりとうなづきました。

朝日がポッチちゃんの横顔を照らすと、壁掛の温度計が20度を指しました。
毛布を2枚、羽根布団を1枚掛けたポッチちゃんの額が少し汗ばんできた頃、窓を叩く音でポッチちゃんは目が覚めたのです。

窓の方を見ると緑色の小鳥が一羽、ガラス窓をくちばしでつついています。
ポッチちゃんが起き上がって傍まで近づいても逃げようともしません。
そこで、ポッチちゃんは窓をそぉーっと開けてあげました。
すると小鳥は待ってましたと、部屋に飛び込んできました。

小鳥はしばらくの間ポッチちゃんの周りをパタパタと飛んでから、急に羽根をたたむとストンと足から着地してポッチちゃんに言いました。
「ああーええーううーおおーポッチ様でんな。」
ポッチちゃんが、うなづく間もなく小鳥が言いました。
「ポッチ殿、わたくし色鳥どり組合代表キツツキさんは、貴方様をこの島の新しい女王様としてお迎えできたことを、大変うれしくはばたいております。ゆえに、この島の事情を貴方様にじきじきにお伝えしつつ・・キッキッー」びゅっと吹き込んだ風が小鳥を巻き込んだかとおもうと、窓から外へ吸い込んで消し去りました。

さっきまで明るかった窓の外が急に暗くなり、突然の雷と、大粒の雨が窓から吹き込んできました。
急いで窓を閉めたポッチちゃんの目の前に、もう少しでぶつかりそうな勢いの黒い手が伸びてきて窓にぶつかりました。
ばちゃっと大きな音を立てたその手は、黒いカラスになって飛んでいきました。
ポッチちゃんは目をこすってから、夢を見たんだと思いました。
だって、外は明るい日差しが、昨夜登った道筋をきらきらと照らしだしていたからです。