文明開化と平仮名英語

流れるような筆使い、崩し字満載の平仮名で書いた英語は日本国開国・文明開化の一時期を象徴するような出来事でした。

外国商通ことば 21 本文:41-44

2010年11月22日 | 文明開化と平仮名英語

  21:本文41-44 
 
 
    前回の「20:本文38-40」では収録語彙のあまりの様変わりに手の出しようがなく、まさにお手上げ状態であった。今回は、台風一過、何事もなかったように従前の状態に戻って一安心。
  挿図の赤数字はの場合、全109語の35番目を示す、以下同様にの場合は全189語の、は全186語のそれぞれ41番目を示す。

ここでは東西南北を扱う。
 東西南北の順を意識していたが、
外国商通古と者つけでは東西北南。②③では東西南北の順であった。『ゑんぎり志ことば』では、どういうわけか北東南西の順となっている。 並び方が不可解。なにか特別の事情があったのか。情報をお持ちの方はご教示頂ければ・・・。ここでは、②③の順に従う。

41行目:日本語いずれも「ひ可(が)し」その英語読み①③とも「ゑいる」。「ゑいる」ではeast にどうにもつながらない。何かと混同した恐れもある。このよみは『ゑんぎり志ことば』の「ヱイル」を受け継いでいるのかもしれない。『外国言付』も同様であるところを見ると、かなり広範囲にわたっていたようだ。
 の英語読み
「いーすー」、『英語実用便』で「イースー」どうやら east の最後のt を飲み込んだ形になっている。難解

 42行目:①②③いづれも日本語読「尓(に)し」英語読み①②とも「うゑ春(す)と」(west)③は「うゑすと」で読みは同じ。

 43行目:「三(み)奈(な)み さ於(お)す」(south) 、では「そうす」、『英語実用便』では「ソウス」で類似の読み。『ゑんぎり志ことば』では「ソウチ」で (south) の (th) を(ch) と取り違えか。後出の(north)も同じようだ。
 では、なぜか「つうち」、『外国言付』も同様である。≪ソ⇒ツ≫の読み違えで「つ」としたのだろうか。わからなくなってきた。
 ところで、『英語実用便』の見出し語は「となみ」と読めるが、「三(み)」の最初のひと筆(一画)が刷りむらの影響で消え、二画と三画のつながりで「と」に見えるいたずらか。注意を要する。

44行目:①②③の日本語読み「きた」英語読みは「のるす」「のる春(す)」(north)、ではなぜか「のるち」、『外国言付』も同様である。『ゑんぎり志ことば』も「ノルチ」。何故「ち チ」の読みなのか、思い当たらない。前出の(south)と同様か。

 
  次回 22:本文45-49

挿図
   佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
  清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵
  『外国言付初編』(刊年不明)早稲田大学図書館所蔵
    尾嵜冨伍老『英語実用便』明治11年(1878)神奈川県立図書館所蔵

 


外国商通ことば 20本文:38-40

2010年11月15日 | 文明開化と平仮名英語

 20:本文38-40 

ここにきて収録語彙にご覧のように著しい変化がみられるようになった。一体何が起きたのか?
これだけを見ても、の3行はに見られない。の3行はには見られない。はといえば、②③のそれぞれ全6行が見当たらない。
尤も、挿図の収録語数は外国商通古と者つけ』全109語、外国商通言葉集』全189語外国商通古と者附』全186語で、はほぼ同数であるがは極端に少ない。このことは十分考慮する必要がある。
したがって、に収録されていないのは理解できるとして、とではそれぞれ選択対象にかなりの変化が起きたのは何故だろうか?編集条件はじめ編者の見る目が変わったのか?これからの大きな課題となった。

注:上記のようなことから挿図の行数(赤数字)の対比の意味が薄れたというか、無くなった。このページでは1行から6行までの順で表示することに。
 
1行目:の「ひる」のみ。その英語読み「めー志(し)」この独特の英語読みの面白さについては既に「16 本文:20-24」のの28でふれた。
以下に、煩を厭わず再録したご覧下さい。

「ひる めー志」(noon)、初読みの際に最も手こずったものの一つがこの「ひる めー志」で、実はお手上げだった。読者から鋭いご指摘もあり、伊川公司編著『横浜・ハマことば辞典』という異色の辞書には、なんと見出しに「メーシ」がちゃんと出ていて <メーシ(noon) ヌーン。昼。正午。昼になると「飯」になるので、これで外国人にも十分に通用したピジン語。>とあった。詳細は気ままな言葉のコレクション、コラム19「ひるめーし」参照。≫

ところで、の「ひる」はまともで面白さはない。このことからも、はかなり近い関係にあると思われる。
2行目:のみ「ひる春(す)ぎ あふ多(た)るめーん」と「めーん」ではいただけない。「ぬーん」(afternoon)と≪≫の見間違えであろうか。ピンクボタン表示しか取り上げていないことを示す。
3行目:のみ「よ奈(な)可(か)」夜中の英語読み「みつと(奈)ないと」(midnight)、≪≫濁音はかなり恣意的。ピンクボタン表示
4行目:のみ「きのふ いゑ春(す)てるでい」(yesterday)。ローマ字読みをすればピッタリ。ピンクボタン表示
5行目:のみ「きょふ つでい」(today)。ピンクボタン表示
6行目:のみ「あし多(た) ともろう」(tomorrow)。ピンクボタン表示
以上足並みの乱れの著しさをご覧いただけたと思う。

次回 21:本文41-44 

挿図
   佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本


外国商通ことば 19:本文34-37

2010年11月08日 | 文明開化と平仮名英語

  19:本文34-37 

挿図の赤数字はの場合、全109語の43番目を示す、以下同様にの場合は全189語の、は全186語のそれぞれ35番目を示す。
読み進めていくうちに収録語彙に変化が現われ、その加除と並びの前後不順は編者の意識の動揺・変化を暗示しているようで興味深い。
注:行数の表示はを基準(も同じ)34行目から37行目までとする。では42⇒43の順なるも②③の並び順に従いここでは入れ替えてみた。

34行目:①②③日本語「つち」その英語読み「まっと」どうやら「泥」(mud)をイメージしたのでは。①③「いゑるち」は難解、どうやら『ゑんぎり志ことば』の≪つち地 イエルチ≫(earth)を踏襲したのかも・・・。

35行目:②③日本語「志(じ)しん」英語読み「あーる春(す)くゑいき」(earthquake)良く見ればそれらしく読めないこともない。「いゑるちうく」これもナゾレバ無理無理読めなくもないような気もするが、如何であろうか、いづれにしても難解。には収録なし。

36行目:①②③日本語「ひ火」英語読み「ふ王(わ)いや」(fire)、これは現在に通ずる。「ふいる」「ふそゐる」≪≫の違い。これは難解。『ゑんぎり志ことば』では≪ひ火 フイル≫語尾の「ル」が気になるが、これなら何とか読めそう。
≪ふいる⇔フイル≫両者をいくら眺めていても糸口は見つからない。≪≫を眺めていると字形は何となく似ているではないか。この辺から誤読が生まれたのかもしれない。

37行目:「けむ里(り)」「けむり」の英語読み②③とも「すもうく」(smoke)、収録なし

  次回 20:本文38-40

挿図
①佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
②佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
③佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵


外国商通ことば 18:本文30-33

2010年11月01日 | 文明開化と平仮名英語

 18:本文30-33

挿図の赤数字はの場合、全109語の20番目を示す、以下同様にの場合は全189語の、は全186語のそれぞれ30番目を示す。
読み進めていくうちに収録語彙に変化が現われ、その加除と並びの前後不順は編者の意識の動揺・変化を暗示しているようで興味深い。

   注:行数の表示はを基準にした場合(も同じ)30行目から33行目までとすべきところ、説明の都合で、32行目(せん月)を追加したため、このページでは34行目までとしている。

30行目:②③日本語「とし」その英語読み「いーあ」(year)「ゑぐや」これは難解、year に程遠い。 の場合は既に17に出ている。そこでは、周りとの馴染みはなく取って付けたようで座りは悪かった。こちらに持ってきた方がはるかに座りはよさそうだが。

31行目:「一ト月 ゑもんす」(a month)、②③「ひとつき」の英語読みはでは「王(わ)んもんす」(one month)、では「ねつき春(す)ともんす」(next month)で、来月と取り違えている。調べてみると『外国言付』も同じ過ちをしている。この様な過ちの踏襲は調査上の重要ポイント。

さてこれから、先月、今月、来月を扱う。この順が座りが良いと思うのだが先月はのみ収録、もともと収録語数が多い②③にはいずれも収録されていないのは不可解。さらに、②③とも来月、今月の順で、配列が良ろしくない。理解に苦しむところ。

32行目:の「せん月 らすともんす」(last month)ピンクボタン表示をしたのは、②③には見当たらないため。では次の33行の「らいげつ」に「らすともんす」があるなど大混乱。

33行目:「こん月」34行目「こんげつ」英語読みはいづれも「て春(す)もんす」(this month)、≪てす⇒です≫濁音はかなり恣意的。では34行目に「こんけつ」≪けつ⇒げつ≫濁音は同様恣意的。英語読みは「志(じ)すもん春(す)」

34行目:「らい月 ねつきすともんす」(next month)、②③は33行目に「らいげつ」、英語読みはねき春(す)ともん春(す)」、但しでは「らすともんす」と混乱。の「ねっき春(す)ともんす」は31行目の「ひとつき」のところに現れるなど大混乱。

こちらまでオカシクナリソウだ!この様な混乱はなぜ起きたのか、今後の検討課題が増えた。

ゑんぎり志ことば』では「きたるつき」云い換えて「らいげつ」「子キストモンチ」とある。「ひとつき」、「あとつき」、「きたるつき」の並びがいい。編者清水卯三郎のセンスか。

  次回 19:本文34-37 

挿図
佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵
外国言付初編』(刊年不明)早稲田大学図書館所蔵