文明開化と平仮名英語

流れるような筆使い、崩し字満載の平仮名で書いた英語は日本国開国・文明開化の一時期を象徴するような出来事でした。

外国商通ことば≪おんなのもの≫

2011年03月28日 | 文明開化と平仮名英語

38:本文117-119のうち118  ≪おんなのもの≫

挿図の赤数字は②の場合、全189語のうち、③は全186語のうちそれぞれ117番目を示す。①は収録語彙が全109語と少ないものの51番目に収録されている。

ここでは、人前では憚る卑語を扱うことからこれだけを特別扱いとしておとこのもの≫≪おんなのもの≫をペヤーで見ると解り易いやすいがスペースの関係でそれぞれ個別扱いとして、前々回≪おとこのもの≫を取り上げた。今回は≪おんなのもの≫を取り上げる。

118行目:日本語③②①「いんもん」、漢字は陰門。英語読み③①「うをんむ」「うんむ」、英語綴りは(womb)であろう。
 ゑんぎり志ことば』には≪おんなのもの べゝ フォック≫「べゝ」について『日葡辞典』(1603)岩波邦訳版(1980)には≪Fefe,へへ すなわち,女性の陰部≫とある。
 『新撰英語実用便』には≪陰門 いんもん ウンム
改正増補英語箋』に≪子宮 コツボ womb ウオム≫を見つけた。それぞれ片仮名で読みを付記してあって有り難い。
なお、『和英語林集成』には≪INMON インモン,陰門,n.The vulva.Syn. OMANKO. ≫とあり、同義語OMANKOが続く。OMANKOを見ると≪・・・Syn.IMMON,TSZBI≫、TSZBIを見ると≪TSZBI,ツビ,陰戸, (immon).n. The vulva.≫隠戸には初めて出合ったが、こちらの方が奥ゆかしいと思うが。≪KOBUKURO,コブクロ,子宮,n. The womb. Syn.SHIKIU≫コブクロとは成る程とうならせる。
 

119行目のみ日本語「ふとり」を収録。従前の例にならって赤丸表示をしたが英語読み「せーゑき」が全く綴り字が思い浮かばない。前後との関係もままならない。如何なる綴り字か・・・それとも日本語の読みから違うのか・・・お手上げ

 

次回 39:本文119-123

挿図
   ①佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
   清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵
     石橋正方『改正増補英語箋』明治5年(1872)早稲田大学図書館所蔵
   ヘボン『和英語林集成』慶応3年(1867)明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C
      尾嵜冨老『新撰英語実用便』明治11年(1878)神奈川県立図書館所蔵


外国商通ことば 37:不幸日:地震再考

2011年03月21日 | 文明開化と平仮名英語

    37:不幸日:地震再考

3月11日にマグニチュウド9.0という今までに経験したことのない大地震が発生、その影響で想像を絶する大津波に町全体、村全体ものみこまれ流失、加えて原子力発電のトラブルと重なり、まさに歴史的な大惨事となった。既に
 「19:本文34-37」で取り上げた「地震」について画像を再掲しながら手元にある同時代の文献資料でたどってみた。

たまたま『改正増補英語箋』に≪不幸日サイワイナラザルヒ unlucky day ヲンリュッキーディー≫を見つけて、今の日本を言い当てたようでしばし立ちどまった。地震が大部分のものに収録されている所を見ると異人も驚きながらお付き合いさせられた様子が諸々の「単語帳」からも窺える。
ゑんぎり志ことば』にある≪ぢ志(し)ん イエルチクアック≫英語綴りearthquakeの読みだから発音が大変。『外国言付初編』には≪ぢ志(し)んを いゑるちうく≫とあっての読み≪志(じ)しん いゑるちうく≫の英語読みと同じ。こうして見ると日本語読みに「ぢしん」と「じしん」があったことになる。いずれに軍配を上げるべきか?但しこれは日本語の問題。『横浜みやげ』 ( 「異国ことば」 )には≪志(じ)しん ゑれすくい≫この英語読みも大変。.救いの手を差し伸べなければならないが・・・いかがなものか。
新撰英語実用便』には≪地震 志(じ)しん アトルスクエーキ≫これも難しいの読みとかなり近い。

 ちなみに
和英語林集成』では≪JI-SHIN, ヂシン,地震, An earthquake.-gayoru,-there is an earthquake. Syn.NAI.≫「地震が寄る」ということか?調べなければならない。それと、同義語NAIとは如何なることか気懸り、同辞典では≪NAI,ナ井,地震,n.Earthquake.Syn.JI-SHIN≫、「ナ井」とは、疑問が深まるばかり。識者の御教示を仰ぎたい。

手元の資料では見つからなかった津波が掲載されている。≪TSZNAMI,ツナミ,海嘯,n.A large wave which rolls over and inundates the land.≫この津波の漢字は「海嘯」らしい画数をたどるのが精いっぱい。調べようがない。
地震津波は言葉の上でも難問山積でお手上げだ。やはり不幸日だ。

 次回 38:本文117-119のうち118  ≪おんなのもの≫

挿図
   ①佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
  清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵
  
横浜みやげ』 ( 「異国ことば」 )元治元年(1864)神奈川県立図書館所蔵
  
ヘボン『和英語林集成』慶応3年(1867)明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C
  『外国言付初編』(刊年不明)早稲田大学図書館所蔵
  
石橋正方『改正増補英語箋』明治5年(1872)早稲田大学図書館所蔵
   尾嵜冨老『新撰英語実用便』明治11年(1878)神奈川県立図書館所蔵


外国商通ことば 36:本文117

2011年03月14日 | 文明開化と平仮名英語

36:本文117-119のうち117  ≪おとこのもの≫

挿図の赤数字は②の場合、全189語のうち、③は全186語のうちそれぞれ117番目を示す。①は収録語彙が全109語と少ないものの51番目に収録されている。

ここでは、人前では憚る卑語を扱うことからこれだけを単独に扱いたい。
そのさい、おとこのもの≫≪おんなのもの≫をペヤーで見ると解り易いやすい。しかしスペースの関係でそれぞれ別個に扱わざるを得ない。

外国商通に直接関係があると思われない卑語をご覧のように①②③のすべてで収録しているのは驚き。異国人とのお付き合いを始める上で.、親近感を深めるうえで不可欠だったのだろうか。大ぴらにすることは憚るが誰でも承知であろう。この辺の機微について識者の助言を戴ければありがたい。密かな関心事であったらしく文献も豊富のようだ。従ってここでは117行だけを取り上げ。次回に118行を扱うことに。

117行目:日本語「いんきょう」、「いんきやう」漢字は陰茎に違いない。英語読み「ういりゝてい」
「うい里(り)ゝでい」双方かなり近い。しかし英語綴りは見当もつかない。
 
ゑんぎり志ことば』には≪おとこのもの へのこ コック
 『新撰英語実用便』には≪陰茎 いんきゃう メンバア
英和辞典によれば(member)には一物(いちもつ)、ペニスの意味あり。
改正増補英語箋』に≪陰茎 マラ virile member ウイリルメムブル≫を見つけた。virile の名詞形 virility(男らしさ)から「いんきょう」の英語読み「ういりゝてい」にどうやらたどり着く。の英語読み「うい里(り)ゝでい」の≪て⇒で≫は筆の勢いか。
の日本語「へのこ」は前出の『ゑんぎり志ことば』の≪おとこのもの へのこ≫に見られる。また、その英語読み「めん者(ば)あ」の英語綴りは前出の『新撰英語実用便』、『改正増補英語箋』から(member)
なお、『和英語林集成』には≪INKYO, インキヤウ,陰茎, n.Membrum virile. ≫とあり、同義語HENOKO、MARA 等が続く。

 

次回 37:本文117-119のうち118 ≪おんなのもの≫

挿図
   ①佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
   清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵
     石橋正方『改正増補英語箋』明治5年(1872)早稲田大学図書館所蔵
   ヘボン『和英語林集成』慶応3年(1867)明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C
      尾嵜冨老『新撰英語実用便』明治11年(1878)神奈川県立図書館所蔵


外国商通ことば 35:本文113-117

2011年03月07日 | 文明開化と平仮名英語

35:本文113-117

挿図の赤数字②の場合は全189語のうち、③は全186語のうちそれぞれ115番目を示す。①は収録語彙が全109語と少ないこともあって、この範囲の語彙は収録なし。
 注:行数の表示は、従前との関係もありここでは③の113行目から117行目とする。

毛髭113行目:③②の日本語はいづれも「け」、英語読み「へゑる」語尾のる≫が気になる、ゑんぎり志ことば』では≪け ヘイル≫、「へーあ」英語綴りは(hair)、≪る⇒あ≫耳学問の成果であろう。

114行目:日本語③②とも「ひげ」、英語読み「へゑど」そのままだと頭になりそう、難解。『ゑんぎり志ことば』をみても≪ひげ ヘルド≫で手懸かりを得られない。では「ますたー志(し)」どうも髭は難解だ。
ヘボン先生の『和英語林集成』に当たってみた。
HIGE、ヒゲ、髭、The beard. Uwa-hige, a mustache. Ho-hige,whiskers. Shitahige,the beard on the chin. ≫髭の総称と上髭、頬髭、下髭としていることで疑問氷解。これでの 英語綴り(beard)の英語綴り(mustache)もわかった。
毛髭115行目のみ日本語「くび」収録、他は未収録につき赤丸ボタン表示で特記。日本語「くび」英語読み「ねつき」英語綴り(neck)。『ゑんぎり志ことば』にある
くび 子(ネ)ツキ≫に通じるものがある。
背腹116行目:日本語③②とも「者(は)ら」英語読み「べれ」。
改正増補英語箋』では≪腹ハラbelly ベレー「べるりい」はどうやら(belly)を一文字
づつローマ字読みしたようだ。
117行目:日本語のみ日本語「せなか」収録、他は未収録につき赤丸ボタン表示英語読み「者(ば)つき」英語綴り(back)であろう。改正増補英語箋』には≪背セ back べッキ≫とある。

このように見ていると
外国商通古と者附』は『ゑんぎり志ことば』の影響を可成り強jく受けているように思われる。

次回 36:本文117-119

挿図
   ①佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
  清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵
石橋正方『改正増補英語箋』明治5年(1872)早稲田大学図書館所蔵
   『和英語林集成』慶応3年(1867)明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C