文明開化と平仮名英語

流れるような筆使い、崩し字満載の平仮名で書いた英語は日本国開国・文明開化の一時期を象徴するような出来事でした。

外国商通ことば 17:本文:25-29

2010年10月25日 | 文明開化と平仮名英語

17:本文25-29

 挿図の赤数字はの場合、全109語の25番目を示す、以下同様にの場合は全189語の、は全186語のそれぞれ25番目を示す。
 徐々に収録語彙に変化が見られ、その加除並びに配列順(順不同)は編者の意識の変化を暗示して興味深い。

:このページにおける行数の表示は説明の都合上を基準にして、25行目から29行目までと追加の30と31。このページの30と31はこのページ限りで、持ち越さない。

25行目:①②③いづれも「者(は)る」、春のイメージにほど遠く悩みのたね。英語読み「春(す)う里(り)んぐ 」(spring)、②③「春(す)ぷりんぐ」、どうみても「ふ、ぷ、フ、プ」と読んでいる。この時代、濁点はかなり恣意的のようだ。

26行目:①②③「奈(な)つ」、英語読み「さんまあ」(summer)で乱れがない。

27行目:①②③「あき」、英語読み「おもちやむん」(autumn)、語呂から「おもちゃ」を連想してまことに愉快!「おもやむん」、「あうとむん」になると現代の読みにかなり近いようで、遠い。

28行目:①②③「ふゆ」、英語読み①②「ういんとる」(winter)、語尾の「・・とる(トル)」が気にかかる。「ろいんとる」とある。ジット見ていると「う」の点が横に伸び、さらに繋がって「ろ」になる。筆の勢いのせいか、別の読みになったようだ。

29行目:のみ「とき たいむ」(time)、他の①③に見当たらない。
ピンクボタンの表示は≪15 本文15-19≫において始めて、採用した。それは「外国商通ことば」もの3部作のうち、1部で取り上げ、他の2部でとりあげてない特異な場合を示したいからで、そのような引用例示は編者の意識の変化を窺う手掛かりになりそうだ。

30行目:①③のみ「者(は)じめ」英語読み「べきん尓(に)ん」(beginning)

31行目:①③のみ「お王(わ)り」英語読み「ゑんど」(end)

この例示を見ているとは大変近い関係にあるように窺える。収録語数が最も多い筈のに見当たらないのは気懸りだ。

   次回 18:本文30-33

 
挿図
   ①『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
 


外国商通ことば 16 本文:20-24

2010年10月18日 | 文明開化と平仮名英語

16 本文:20-24

20行目:「さむしき」は(2)(3)のみ(1)には見当たらない。その英語読みは(2)では「ぞーう」(3)は「そう」ただし「そ」と「う」の間に小さい中点あり(虫食いの跡ではないようだ)この中点は『ゑんぎり志ことば』では「ひろいよみ」と称して2音節として読む方法(杉本つとむ)と紹介されている。さてその英語綴りは・・・.どうも思い浮かばない残念。お気づきの方はご教示を!

 これから朝、昼、晩、夜に入るのだが、驚いたことにその並び順はまさに三者三様。
 従ってこれからの順は(1)の順こあわせて行数を数えることにしたい。

21行目:(1)(2)(3)「あさ」、英語読み(3)は「もふねん」語尾の「ぐ」を呑み込んでいる。≪耳学問≫の成果か。声を出して読んでみよう。少し近づくかもしれない(2)「もう尓(に)んぐ」(morning)現代の読みと違わない。≪耳学問≫から≪目学問≫に移行したのだろうか(1)「もうれん」の「れ」は「もふねん」の「ね」の読み違い・・・ではなく書き誤りのようにも見えるが・・・

22行目:(1)「ひる めー志」(noon)、初読みの際に最も手こずったものの一つがこの「ひる めー志」で、実はお手上げだった。読者から鋭いご指摘もあり、伊川公司編著『横浜・ハマことば辞典』という異色の辞書には、なんと見出しに「メーシ」がちゃんと出ていて ≪メーシ(noon) ヌーン。昼。正午。昼になると「飯」になるので、これで外国人にも十分に通用したピジン語。≫とあった。詳細は気ままな言葉のコレクション、コラム19「ひるめーし」参照。
  そういえば、「お昼にしよう」と云う「昼」は、昼飯を意味する。日本語は微妙だ(3)はここでは出番がない。他の場所(38)に現れるが同様に「めー志」、 (2)の『外国商通言葉集』では「飛(ひ)る でい」で「昼間」の意味。
  調べた中では「ひる」を「ヌーン」(noon)は、『ゑんぎり志ことば』だけであった。

23行目:(1)(3)「者(ば)ん」の英語読み(1)「いひうんふん」(evening)、(3)では「ゐひうんふん」で「い」と「ゐ」の違いがきになる(2)では「ゆう」とあって「いぶ尓(に)んぐ」で我々の読みに近くなる。いままで呑み込んでいた「ぐ」が姿を現している。ing の読みには途惑ったようだ。実は、(1)「者(ば)ん」を「いひうんふん」(evening)(3)も類似の「ゐひうんふん」でその言葉使いの面白さに誘われていい気になっていた。しかし「・・・ふん」(・・・ing)ではあまりにも接点がない。よくよく調べてみたら「ふ」と見えたのは≪ふ→尓(に)≫と読むべきところ。かくて(1)≪いひうんふん⇒いひうん尓(に)ん≫、(3)≪ゐひうんふん⇒ゐひうん尓(に)ん≫これでやっと落ち着いた。(しかし面白さがなくなった残念)

朝・晩、朝・夕は対になっている。英語の場合もmorning はevening との類推によるようだ。夜明けと夕暮れ。『ゑんぎり志ことば』には「ゆうひ シュンセット」(sunset)、「たそがれ テワイライト」(twilight)まであってサスガ洒落ている。

24行目:(1)(2)(3)「よる 奈(な)いと」(night)、参考例示をみても、殆ど変化は見られない。
以上全体を通してみても朝、昼、晩、夜の順は(1)だけなのがやはり気になる。

  次回 17:本文25-29

 
挿図
   (1)外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   (2)外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   (3)外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
 『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵


外国商通ことば 15:本文15-19

2010年10月11日 | 文明開化と平仮名英語

15:本文15-19

 挿図は、上から(3)(2)(1)の順、右側に原本又は原葉からの画像を示し、左側にその読みを示す。収録はそれぞれ≪上段に日本語(平仮名)、下段にその英語読みを平仮名(つまり平仮名英語)≫で示す。崩字は読みを括弧で示した。崩字の読みは、悩みのタネ。疑問の読みあればご指摘を!

 赤数字の15は(1)の場合、全109語の15番目を示す、以下同様に(2)の場合は全189語の、(3)は全186語のそれぞれ15番目を示す。

15行目:(1)(2)(3)はいづれも「可(か)み奈(な)り」なれど英語読みは(1)はそん多(だ)あ」(thunder)、(2)(3)はいづれも「そんだあ」。何か損したように聞こえるが、th の発音には手こずったに違いない。

16行目:(1)(2)(3)いづれも「ゆき」、その英語読みは(1)(2)は「すのう」(snow),(3)は「春(す)のう」

17行目:(1)だけに「とし ゑゝや」(year)が割り込んでいる。(2)(3)には見当たらない。ここで取り扱う「外国商通ことば」もの3部作のうち、この辺から1部でのみ取り上げる例を散見する、その場合にはご覧のようにピンクボタンで表示した。それは、言葉の用例を他の2例では採用していないか、または、他の場所に現れるか、その辺の事情を探る手掛かりとしたいから、「とし ゑゝや」(year)は難解だがどうにか読める。

18行目: 「てんき」(1)は 「うゑそる」、(3)は「うゑーぞる」と引っ張っている、いずれも weather の平仮名読み。語尾の「る」が気になるところ。(2)では「くりーんうへざあ」clean weather と天気が良いことを示している。

19行目:「こうり」:(2)(3)のみ18行目、いづれも「あいす」(ice)(1)には取り込まれていない

20行目:(2)「き里(り) ふをぐ」(fog)、(3)「きり ふをつぐ」、「ふをつぐ」を単独で示されるとタジログが何とかたどり付けそうだ。

次回は「16:本文20-24

挿図
   (1)『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   (2)『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   (3)『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本

 

 

 


外国商通ことば 14:本文10-14

2010年10月04日 | 文明開化と平仮名英語

14:本文10-14

 挿図は、上から③、②、①の順、右側に原本又は原葉からの画像を示し、左側にその読みを示す。収録はそれぞれ≪上段に日本語(平仮名)、下段にその英語読みを平仮名(つまり平仮名英語)≫で示す。崩字は読みを括弧で示した。崩字の読みは、悩みのタネ。疑問の読みあればご指摘を!

 赤数字の10は①の場合、全109語の10番目を示す、以下同様に②の場合は全189語の、③は全186語のそれぞれ10番目を示す。(今後、数は継承)

10行目:「あつき 者(は)っと」(hot)、②③はいづれも「あつさ」なれど英語読みはは「本(ほ)っと」、とおなじ「者(は)っと」。が現代の感覚に近いのでは・・・。

和英語林集成』には「アツサ、熱 ・・・heat」で、どうやら暑さから少し距離を置いているように見える。.例文には「konnichi no アツサwa iku do, how hot is it to-day?」、とあり更に「アツサni makeru, to be overcome by the heat.」熱さはことによると日本語独特の語感かもしれない。

11行目:「さむき」英語読み「こうると」(cold)、②③はいづれも「さむさ」なれど英語読みは「こをるど」③「こをると」当時は濁音の表示はかなり自由度があったようだ。

12行目:①②③「可(か)ぜ」、英語読み①「うゐんど(wind)」、②③は「ういんど」、「ゐ」と「い」の違いが気になるところ。
 『ゑんぎり志ことば』には、そのほかに「すゞ可ぜ」、「む可ひ可ぜ」、「つむぢ可ぜ」、「おほ可ぜ」などの例示があって楽しい。

13行目:①②③「あめ」、英語読み「れゐん」(rain)、②③「れいん」で、前記と同様「ゐ」と「い」の違いが気にかかる。

14行目:「くも」、英語読み①③「くろうど」(cloud)、の英語読みは「くらうど」、より現代に近いか。「ろ」と「ら」の違いが気になる。

挿図
   ①『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
   『和英語林集成』慶応3年(1867)明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C

  次回は「15:本文 15-19