90:下段③本文75-80
88までに②『外国商通言葉集』下段の「言葉の部」を中心に調べてきた。しかし、②の「言葉の部」にはどのような経緯があったのか、①『外国商通ことばつけ』や③『外国商通古と者附』にある臨場感あふれる商売上のやり取りなどの言葉が収録されていない。その部分が本命の筈なのだが・・・③と①は多少の言葉つかいに違いがあるものの同じといって良いだろう。上下に分けて搭載してあるから細部の違いも比較検討できるでしょう。これから数回に分けて取り上げ補足することに・・・
今回は、補足の第2回目で外国商通のやり取りをする最も興味ある部分・・・しかし、かなり難解・・・
75行目 ③『外国商通古と者附』:日本語≪このし奈(な)≫英語よみ≪で春(す)せんく≫①≪で春(す)せんぐ≫英語綴りは・・・this thing・・・それをどうするのか
76行目:と連携して≪ね多(だ)んひけ≫その英語読みは≪飛(ぴ)つぐゑ者(ば)うとぷらい春(す)≫・・・これらを繋ぎ合わせ短文にして初めて意味が通る。つまり
75行目と76行目とを繋げて≪このし奈(な)ね多(だ)んひけ≫・・・Pick a bout price this thing..・・・曲りなりに形になった。
このことは①『外国商通古と者つけ』と対比してみて、多少言葉使いが違うもののひとめで同じと分かる。
③と①は同じ編著者佐野屋冨五郎の作品だから当然といえば当然であろう。
ところで佐野屋冨五郎の師匠格にあたる④清水卯三郎編著『ゑんぎり志ことば』の下巻「あいばなし」(これは会話のこと、なるほどとガッテン)のところにを探したところ類似の言葉を見つけた≪それは高きなり、如何ほど安くなさるか。イット、イス、デアル、ホワット、ヅ、ユウテーキ、ヅエ、ロースト≫ これから・・・It is dear. What do you take the lowest? ・・・としてみたが。これで果たして意味が通ぢたかどうか・・・それらしい雰囲気は十分伝わってくる。何回も見比べて当時の英語を堪能してみたい。
清水卯三郎は学者、実業家、商人など多彩な肩書を有し、パリ博覧会での貢献でフランス政府から勲章を授与されたとも聞く.当代随一の人物とも評されていた。卯三郎ならではの値引き交渉の最たるものとして、熟読玩味してみよう。
77行目 ③『外国商通古と者附』:日本語≪ひけません≫①≪引ません≫英語よみ≪あいけんとめきちいぷねす≫から英語綴り・・・ I can't make cheapness.・・・にたどりつく。
78行目 ③『外国商通古と者附』:日本語≪於(お)可(か)い奈(な)さい≫英語よみ≪ういるゆう者(ば)い≫・・・Will you buy? ・・・
79行目③『外国商通古と者附』:日本語≪い可(か)本(ほ)どひけま春(す)≫英語よみ≪者(は)うろうゑる≫ ・・・How lower?・・・であろう。
80行目 ③『外国商通古と者附』:日本語≪奈(な)さい≫英語よみ≪づういつと≫・・・Do it.・・・
以上からも③『外国商通古と者附』は④清水卯三郎編著『ゑんぎり志ことば』の恩恵をかなりうけているようだ。
尤も十分理解して転記しようとしたか疑わしい部分も散見される。
改めて、③『外国商通古と者附』下段”ことばのぶ”全129語と、下段全107語と比較してかなり収録語数の少ない①『外国商通古と者つけ』において、ご覧のように遜色ないところを見ても、まさに両者の呼び物「ハイライト」に違いない。
次回 :91:③『外国商通古と者附』の下段81行目から86行目まで
挿図
①佐野屋冨五郎『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
②佐野屋冨五郎『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
③佐野屋冨五郎『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
④清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵