文明開化と平仮名英語

流れるような筆使い、崩し字満載の平仮名で書いた英語は日本国開国・文明開化の一時期を象徴するような出来事でした。

8 『萬国通商往来』第1丁表-本文

2009年06月29日 | 文明開化と平仮名英語

 

  引用文献12『萬国通商往来』を取り上げた。漢字と平仮名(崩し字)の筆使いと、ページ構成の妙、見ていてまさに文明開化の音が聞こえてくるようだ。その魅力にすっかり取り付かれてしまった。これから全60丁を1回に1ページ(半丁に相当)のペースで読んでみたい。どこまで続くか・・・本文はご覧のように5行で構成、漢字はすべて振り仮名付き、平仮名は崩し字、句読点は「。」

 第1丁表
内題

・萬国通商往来[者(ば)ん古(こ)くつうせうおうらい]
、外題には頭書挿画が組み文字のように見えるとのことであるが未確認。
本文
[わが]大八州[於(お)ほやしま]盤(は)。東海[とう可(か)い]之(の)
・ ①表時[者(は)なれぐ尓(に)]。②膏腴[よき志(じ)めん]之(の)③**[ところ]尓(に)し
・て。尓(に)は金石[於(お)ほ]く。海尓(に)
・者(は)⑤魚塩[さんぶ津(つ)][と免(め)]利(り)。五穀[古(ご)こく]⑥[うるは]

 振り仮名による現行の読みを頼りにどうにか意味を辿ることが出来るが、当時の漢字は、現行のものとあまりにもかけ離れている。謎々とか判じ物のようだ。
 ①表時[者(は)なれぐ尓(に)]この漢字にしてこの振り仮名、開いた口が塞がれないといったところだが・・・[はなれぐに]は、わが大八州は地球上の東海に離れ国として現れると言う意味だろうか。
 ②膏腴[よき志(じ)めん]この漢字は「こうゆ」と読み、「肥沃の地」を意味し、史記に出てくるという。
 ③**[ところ]漢字の見当がつかない。識者のご教示を乞う。
 ④[於(お)ほく]これも漢字の見当が付かない。識者のご教示を乞う。
 ⑤魚塩に[さんぶ津(つ)]の振り仮名をつけているところをみると、代表的なものを掲げて、振り仮名で読ませるテクニックとも・・・これは思い過ごしか・・・
 ⑥[うるは]は、普通は麗であろうが、秀麗と関係があるかもしれない。

本文を読み始めたところであるが、大言壮語と筆の勢いに圧倒されるばかり。

<注> 崩し字に悩まされるが、書家の好みの崩し字がそれとなくわかるまで、しばし、崩し字には丁寧にお付き合いしたい。

 頭書にある文明開化については第1丁表-頭書を参照。なお、上部右隅に見える朱印は旧蔵者印。

<挿図:神奈川県立図書館k670.3/2>


8 『萬国通商往来』第1丁表-頭書

2009年06月22日 | 文明開化と平仮名英語

 

 引用文献12『萬国通商往来』(明治6年出板)を紹介した。漢字と平仮名(崩し字)の筆使いと、ページ構成の妙、見ていると文明開化の音が聞こえてくるようだ。その魅力に取り付かれてしまった。素人の物好きで、これから全60丁を1回に1ページ(半丁に相当)のペースでなんとか読み進めてみたい。本文はご覧のように5行で構成、漢字には振り仮名、平仮名は崩し字、句読点は「。」

 なんと言っても文明開化は強烈だ。初回は、第1丁表の頭書(頭注)にある「文明」と「開化」の説明のところを見てみよう。(なお、本文では文明と開化は第1丁裏に現われる。)

文明: 諸道の学問大いに開け又は新工夫便利の器械おいおい製造なるをいう

開化: 一偏頑なの風儀を改め物事軽便にして偽り飾らず互いに信実を尽くすをいう

 手元にある現代の辞書のどれをとっても説明はかなり異なっている。この明治6年の定義は当時の人々の意識として尊重したい。

 この『萬国通商往来』(明治6年出板)では「文明」と「開化」はそれぞれ分かれていて、「文明開化」としては表れていない。「文明開化」という言葉は福沢諭吉が『文明論之概略』明治8年(1875)の中で、civilizationの訳語として使ったのが始まりと云われている(が未確認)。

 当時の生きた国語辞典とも言われるヘボン先生の『和英成語林集』引用文献4)初版1867では「開港」、「開国」、再販1872で「開化」、三版1886(明治19年)で「文明」がそれぞれ見られる。しかし「文明開化」は探し方が悪いのか見出されなかった。

この頭書にある文明と開化の説明は、文明、開化の当時の意味を知る上で大変貴重。頭書の説明は本文に比べてかなり読みやすいのは、ありがたい。

(挿図:神奈川県立図書館 K670.3/2)


引用文献 12 『萬国通商往来』

2009年06月15日 | 古文献(古文書)

『萬国通商往来』

 文明開化に沸き立つ明治初期に寺子屋の教科書として『萬国通商往来』が編纂され明治6年に出板された。白巌書、蔵真逸客識(著)とある。冊子23cm、本文全60葉、別葉として五港の絵入などあり。

 往来物の一つとして出色の出来栄えとか、「文明」、「開化」、「発明」などの言葉をはじめ、外国名、外国商品の図解、英語寄いぎりすのことばよせ)と称する単語集などが囲みで説明されているなど当時の新知識を知ることができる。

 結びの言葉は「学童宜しく奮発して、身を学問に委ね、一生を誤る事なかればしかいう。」と学問の勧めで締め括っている。よく見ると学童に「がくしゃ」の振り仮名があるなど興味深い。漢字はすべて振り仮名つき振り仮名の無いのが平仮名で、こちらは崩し字に振り回される。自由闊達を思わせる伸びやかな、しかも力強い筆使いに、書の道に疎い素人も思わず引き込まれる。

(挿図:神奈川県立図書館 K670.3/2)


7 こゑのつかひかた 奥儀

2009年06月08日 | 文明開化と平仮名英語

 7 こゑのつかひかた 奥儀

 清水卯三郎の発音談義「こゑのつかひかた」(声の使い方)について昨年12月8日に「その一」を取り上げてから本年6月1日の「その十九」まで、全十九項目を通覧した。その間に卯三郎が説明してきた発音の仕方についてその根底にあるものを再確認したいと強く思うようになった。そこに、卯三郎流の発音の奥儀のようなものを感じたからである。

 その奥儀は『ゑんぎり志ことば』の序文第一丁裏に七行にわたって、つまり序文の終わりに丁寧に書かれている。

 ≪そもそも国隔たれば、声も自ずから訛りぬ≫国内でも秋田弁や鹿児島弁となるとまともには聞き取れないようなもので、英語と米語の違いを取り上げたものと思われる。この序文をうけて≪「こゑのつかひかた」その一≫で≪ゑんぎりしと、あめりかは、その言葉、同じきと言えども、あめりかは、なまるこゑあり≫と英語と米語の違いを指摘した。

 さらに≪文字も又異なれるによりて、わが文字をもて、かの声を写すはいと難ければ、今この巻きはかの言葉の影を写すのみなれば言葉に泥むこと無かれ≫文字も当然異なることから、日本語で英語を写すのは大変困難で、言うなれば英語の影を写すのみで、言葉になれることは出来ない。と日本語で写すことの限界を見極めている。<日本語では英語の影を写す事しかできない>サスガだ。このことを肝に銘じて卯三郎の片仮名英語を見直すというか、見極めねばとの思いを新たにした。

 ≪この影をもて、しばしば聞きつ語りつ、ふと訛りを覚えなば、かの真声を知りえて、遂には四方山の話も、いと容易く語ろうべけれ≫つまり耳学問で訛りを覚えて初めて話が通じるようになることを示唆している。卯三郎の実学が言わしめた言葉であろう。


7 こゑのつかひかた(19)

2009年06月01日 | 文明開化と平仮名英語

7 こゑのつかひかた(19)

 清水卯三郎の発音談義「こゑのつかひかた」(声の使い方)、全十九項目のうち最後の十九番目をここでは「その19」として扱う。

 その19:「みぎのほか」とある「みぎ」は「その1」から「その18」まで、今まで取り上げてきたことをさして、それ以外に言葉の訛り(なまり)、節の上げ下げ、省き言葉(省略語)などなどは、その国の人・・・つまり英米人と「いひあふて(言い合て)」つまり現場における「会話」を通じて会得するものと教え、諭している。

以上、清水卯三郎の発音談義「こゑのつかひかた」を、その1からその19まで、一つづつとりあげて延々と学んできた。その「こゑのつかひかた」の全編を通して卯三郎の発音に対する基本的な考え方「発音の極意(真髄)」なるものが見えかくれする。

次回にその極意を取り上げて締めくくりとしたい。