文明開化と平仮名英語

流れるような筆使い、崩し字満載の平仮名で書いた英語は日本国開国・文明開化の一時期を象徴するような出来事でした。

外国商通ことば 13:本文5-9

2010年09月27日 | 文明開化と平仮名英語

13:本文5-9

 挿図は、上から③、②、①の順、右側に原本又は原葉からの画像を示し、左側にその読みを示す。収録はそれぞれ≪上段に日本語(平仮名)、下段にその英語読みを平仮名(つまり平仮名英語)≫を示す。崩字の読みを括弧で示してみた。崩字の読みは、悩みのタネ。識者のご教示を!

 赤数字の5とあるは①の場合、全109語の5番目、以下同様に②の場合は全189語の、③は全186語のそれぞれ5番目を示す。(以後、数は継承)

5行目:①③
「日 そん」(sun )、では「さん」で現行の読みに近づく。

6行目:①②③「つき月 むうん」 (moon) いづれも問題なく読める。
ゑんぎり志ことば』では、「み可(か)づき」(new moon)、「もちづき、まんげつ」(full moon)などがあって楽しい。   

7行目:①③「本(ほ)し すたる」(star) もあまり違和感なく読めそうだ。「本」の崩し字は「ほ 」 、素人には 「不」 と読めるから厄介だ。 「る」を響かせるのは蘭語の影響か?
  「春」の崩し字 は「す」 、 では「春(す)たあ」 、語尾の変化 「る → あ」 をみると耳学問の成果が窺えるようだ。
  

余談になるが耳学問といえば、日本語の生の発音を注意深く観察・採集したと云われるヘボン先生の『和英語林集成』には「MIMI-GAKUMON, ミミガクモン,耳学」とある。さすが! ところで≪ミミガクモン、耳学問≫でないのはどうしてか?

8行目:①「あ可(か)るき らゐと」 (light)、②③では 「らいと」 で 「ゐ」 と「い」 の違いが気になるところ。識者のご教示を!

9行目:①②③「くらき だあく」(dark) とあって同じ調子。『ゑんぎり志ことば』では 「くらき デルク子(ネ)ス」  とあって明らかに名詞形 darkness を意識している。 こちらの方がハイレベルか。

挿図
   ①『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
   『和英語林集成』慶応3年(1867)明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C

次回は「14:本文 10-14


外国商通ことば 12:本文1-4

2010年09月20日 | 文明開化と平仮名英語

12:本文1-4

 いよいよ外国商通ことば3部作(①、②、③)の本文に入る。本文は「7:構成」でみたように万物の部、言葉の部、食物の部から構成されている。従前の例にならって先ず表記なし②万物之部 ③者(ば)んもつのぶ、からはじまる4~6語のグループごとに取り上げる予定。

 挿図は、上から③、②、①の順、右側に原本又は原葉からの画像を示し、左側にその読みを示す。収録はそれぞれ≪上段に日本語(平仮名)、下段にその英語読みを平仮名で示す(つまり平仮名英語)≫。崩字は読みを括弧で示してみた。崩字の読みは、悩みのタネ。お気づきの読みはご教示を!

 赤数字の1は①の場合、全109語の一番目を示し、以下同様に②の場合は全189語の、③は全186語のそれぞれ1番目を示す。(今後、数は継承)

 ①の平仮名読みに、漢字の「天」、「地」が付記されているのは、同じ読みの「点」とか「知」などとの紛れを避けるためであろう。

1行目:①②③のいづれも「せ可い うをるど」、世界(world) と現在の語感で見当がつく。

『ゑんぎり志ことば』には「うきよ せ可い」 と、 「せ可い」は「うきよ」を補足して小さい見出しになっている。その英語読みは  「ウニウエルス」 とあり "universe" が想起される。こちらの方が宇宙など意味範囲が広いはずなのだが、見出しの本命が浮世とは、江戸時代の当世浮世噺など庶民生活が偲ばれる。 

2行目:①「てん 天 飛ゐうん」 の 英語読み「飛ゐうん」から"heaven" を想定できる。では 「てん 飛ーうん」 、「てん へゑうゑん」 とある。 つまり「ひ」(hi)と読むか 「へ」(he) と読むか、母音との結びつきが気になるところ。 

3行目:①③「ち ゑあるす」、何とか"earth"と読める。しかし、「をーるす」の読みは難解。手掛かりを掴めない。

4行目:①③ 「そら ふーるまんめんと」 firmament、随分難しい言葉を持ってきたものだ。 『ゑんぎり志ことば』では、「お本(ほ)そら」、大空で「ヒルメメント」、更に「スカイ」を追記している。では「ゑいあ」、空中の意味か。身近にとらえている。

「そら」について『和英語林集成』では、"sky" と最も 代表的な言葉を当てて、"the space between heaven and earth"(天と地の間)と捉えている。視界が広い、流石ヘボン先生。

挿図
   ①『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本
    『和英語林集成』慶応3年(1867) 明治学院大学デジタルアーカイブ、 横浜開港資料館D.VIII.7C
次回は「13:本文 5-9」


外国商通ことば 番外:金勘定

2010年09月13日 | 文明開化と平仮名英語

番外:金勘定

 「11:金勘定」で1/4を意味する「こわた」(quarter)の効用を見てきた。
この1/4について、清水卯三郎『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)には、単なる読みとその意味にとどまらず、挿図のような素晴らしい解説がのっている。それを読んでみよう。

 1/4について≪ヲンコワルトル(one quarter)、四分の一 、一朱ハ一分銀の四ッ王(わ)りなるをもって志(し)可(か)いふ≫

 2/4は≪ハーフま多(た)ハツウコワル(two quarters)、四分の二 、二朱ハ一分銀の二ッ王(わ)りなるをもって志(し)可(か)いふ≫

 3/4 は≪シリイコワルトル(three quarters) 、四分の三 、三朱ハ一分銀の四ッ王(わ)り三ツなるを以て志(し)可(か)いふ≫ 
 以上、出てきた片仮名英語はサラットはいかないが、なんとなく解る。卯三郎は蘭語を修めたというだけあって語尾の r ル が効いている。その説明は読み応えがあるものの明解、なるほどと合点(ガッテン)する。

 実は、この最後の「志(し)可(か)いふ」の「志(し)可(か)」は、たしか崩し字の読みにあったものの、これでは意味が通じないとお手上げであった。やむなく伺いを立ててみたところ、この読みだというから驚き。『広辞苑』を見ると「文章の末尾に用い、上述のとおりであるの意をあらわす。」とある。納得。

 その道の素養のないものには、見れども見えずで、象を撫でるようなことであるらしい・・・はてさて如何か。

 挿図:清水卯三郎 『ゑんぎり志ことば』万延元年(1860)早稲田大学図書館所蔵 
 
次回は「12:本文 1~4」を予定




外国商通ことば 11:金勘定

2010年09月06日 | 文明開化と平仮名英語

11:金勘定

 テレビで時代劇をみていると小判や小銭のやり取りの場面がいつものように出てくる。庶民生活の描写には欠かせないシーンだ。

 しかし、お金の単位がどうなっているかまでは、考えたこともなかった。 この「金勘定の部」をみると≪こ王(わ)多(た)≫をよく見かける。この≪こ王(わ)多(た)≫に振り回されるがどうやら1/4を表す quarter の平仮名読みがその正体と解った。

一朱 こ王(わ)多(た)つまり、1/4。
      二朱 とうこ王(わ)多(た)つまり、2×1/4 →2/4。又者(は)ふ登(と)いふつまり、2/4→1/2
   三朱 つれいこ王(わ)多(た)→3×1/4→3/4
      一分 王(わ)んいちぶ→1×1分
   一両 本(ほ)うるいちぶ.→4×1分、four ほう→蘭語の影響か語尾の-るが効いている。

③の一両の読みを除けば①、②ともほぼ同じ読み。しかしどういうわけか②には、「三朱」がない。「外国商通」ものなのに金勘定がおろそかとは不可解!

  ここで、 江戸末期の貨幣制度を少しのぞき見してみよう。
  金貨の単位は両(りょう)、分(ぶ)、朱(しゅ)で、一両の1/4が一分、一分の1/4が1朱とある。
 つまり1朱、2朱、3朱と数えて4朱で単位が一つ上がって1分、更に2分、3分、4分で単位が上がって1両となる仕掛けだ。
  現在の私たちの通貨は、1円が10枚で10円、10円が10枚で100円と10で位がひとつ進む 「10進法」が使われているが、江戸時代の金貨は、4で位がひとつ進む「4進法」だった。 1両=4分 1分=4朱 1朱=1/4分  つまり1両=4分=16朱 の関係にある。 [(注)参照] 

 10進法で育った我々にとって4進法とは意外や意外。最近は、パソコンの普及で2進法とか、16進法のカラーコードなどなど、珍しくなくなった。しかし、我々の先祖が4進法でお金の勘定をしていたとは・・・、知って驚き、 しかも、なぜか新鮮な驚きであった。

挿図
   ①『外国商通古と者つけ』(刊年不明)手持ち原葉、一枚もの
   ②『外国商通言葉集』(刊年不明)横浜市中央図書館所蔵、折本
   ③『外国商通古と者附』(刊年不明)神田外語大学付属図書館所蔵、折本

次回は「番外:金勘定」を予定