文明開化と平仮名英語

流れるような筆使い、崩し字満載の平仮名で書いた英語は日本国開国・文明開化の一時期を象徴するような出来事でした。

「英語寄(4/21)」(41o)第41丁表

2009年12月28日 | 文明開化と平仮名英語
英語寄[いぎりすのことばよせ]は、商売に関係する言葉を寄せ集めた商用英語集のようなもの。『萬国通商往来』(明治6年出板)の第39丁裏から第49丁裏まで全21頁にわたって頭注に掲載されている。
 今回は、その第4回目(4/21)、当時の往来物に掲載の英語を知る上で大へん興味深い。皆さんと共に当時の英語を垣間見て、興味を分かち合えれば幸いです。

 頭注は、それぞれ十行にわたり、「通商」つまり商売にかかわる用語を取り上げ、その英語読みを片仮名で表す。つまり片仮名英語を収録している。

表わし方:「(平仮名による振り仮名付きの漢字)・・・を(片仮名英語)・・・≪≫といふ」、≪≫に英文字を補足
ここでは、振り仮名は[ ]で示し、平仮名の崩し字の読みは()で示す。 崩し字には悩みが尽きない。お気づきの点はご教示を願います。以下、数字は行を示す。
従者[ともびと]をアッテンダンス≪attendance≫といふ
早飛脚[者(は)やびきゃく]をエクスプレスポスト≪express post≫といふ
仲間[な可(か)ま]をコムペニー≪company≫といふ
請負人[うけをゐ尓(に)ん]をコントユラクト≪contract≫といふ
請合[うけあ]ふをインシュール≪insure≫といふ
埠[はと者(ば)]をランディンクプレース≪landing place≫といふ
旅館店[やどや]をホテル≪hotel≫といふ
鋪[里(り)やう可(が)えや]をバンク≪bank≫といふ鋪とはなんとも難しい漢字、意味不明、パソコンで書くのが精一杯
運上所[うん志(じ)やう志(よ)]をコストムハウス≪customhouse≫といふ
為替問屋[可(か)はせといや]をユニオンバンク≪union bank≫といふ

早飛脚 注:②早飛脚という特有の云いまわしを『和英語林集成』で見ると、そのまま掲載されていた。サスガ。

『萬国通商往来』明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2
『和英語林集成』慶応3年(1867)、明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C


「英語寄(3/21)」(40u)第40丁裏

2009年12月21日 | 文明開化と平仮名英語

 英語寄[いぎりすのことばよせ]は、商売に関係する言葉を寄せ集めた商用英語集のようなもの。『萬国通商往来』(明治6年出板)の第39丁裏から第49丁裏まで全21頁にわたって頭注に掲載されている。
 今回は、その第3回目(3/21)、当時の往来物に掲載の英語を知る上で大へん興味深い。皆さんと共に当時の英語を垣間見て、興味を分かち合えれば幸いです。

 頭注は、それぞれ10行にわたり、「通商」つまり商売にかかわる用語を取り上げ、その英語読みを片仮名で表す。つまり片仮名英語を収録している。

表わし方:「(平仮名による振り仮名付きの漢字)・・・を(片仮名英語)・・・≪≫といふ」≪≫に英文字を補足

 ここでは、振り仮名は[ ]で示し、平仮名の崩し字の読みは()で示す。 崩し字には悩みが尽きない。お気づきの点はご教示を願います。以下、数字は行を示す。
商人[あきうど]をメルチヱント≪merchant≫といふ
手附金[てつけきん]をアドワンスモニー≪advance money≫と云、モニーにはしばし戸惑い、これがわからないと先に進めない
半金[者(は)んきん]をハーフセモニー≪*≫と云、「セ」が不可解
贋金[尓(に)せ可(が)年(ね)]をコーントルフヱイトモニー≪counterfeit money≫といふ
旅用金[ろようきん]をトラウヱルリングエクスペンス≪traveling expence≫といふ
飛脚賃[ひきゃくちん]をポステーシ≪postage≫といふ
為替[可(か)王(わ)せ]をヱクスチヱンジ≪exchange≫といふ
無利息[む里(り)そく]をウイサウトイントレスト≪without interest≫といふ、イントレストは悩ましい
税金[ぜいきん]をデユテイー≪duty≫といふ
基本金[もとできん]をカピタル≪capital≫といふ

半金 注:③ハーフセモニーの「セ」に悩まされる。『和英語林集成』でHANKIN、ハンキン、半金 の見出で「half the money」とある。これで疑問氷解、「ハーフセモニー」はよく見ると「ハーフゼモニー」でどうやら「セ⇒ゼ⇒the」、≪*≫に≪half the money≫と補足。これで一件落着

<挿図>
『萬国通商往来』明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2
『和英語林集成』慶応3年(1867)、明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C


「英語寄(2/21)」(40o)第40丁表

2009年12月14日 | 文明開化と平仮名英語
 英語寄[いぎりすのことばよせ]は、商売に関係する言葉を寄せ集めた商用英語集のようなもの。『萬国通商往来』(明治6年出板)の第39丁裏から第49丁裏まで全21頁にわたって頭注に掲載されている。
 今回は、その第2回目(2/21)、当時の往来物に掲載の英語を知る上で大へん興味深い。皆さんと共に当時の英語を垣間見て、興味を分かち合えれば幸いです。

 頭注は、それぞれ十行にわたり、「通商」つまり商売にかかわる用語を取り上げ、その英語読みを片仮名で表す。つまり片仮名英語を収録している。

表わし方:「(平仮名による振り仮名付きの漢字)・・・を(片仮名英語)・・・≪≫といふ」≪≫に英文字を補足
 ここでは、振り仮名は[ ]で示し、平仮名の崩し字の読みは()で示す。 崩し字には悩みが尽きない。お気づきの点はご教示を願います。以下、数字は行を示す。

金持[可(か)年(ね)もち]をリッチメン≪richman≫といふ
旅客[たびゝと]をトラウヱレル≪traveler≫といふ
通詞[つうじ]をイントルフレトル≪interpreter≫といふ、かなり難解
来客[らいきやく]をゲスト≪guest≫といふ
上乗[うはのり]をソップルカールゴ≪*≫といふカールゴはどうやら解るもののソップルは不明、注参照
主人[あるじ]をマストル≪master≫といふ
手代[て多(だ)い]をエゼント≪agent≫といふ
管店人[志(し)者(は)い尓(に)ん]をソブリンテンデント≪*≫といふ管店人と書いて「支配人」の読みは驚き、英語読みは見当も付かない、注参照
丁稚[でっち]をワレット≪*≫といふ、英語読み不明、『外国商通言葉集』(刊年不明)には「でつち 本(ぽ)るとる」とある。注参照
小使[こつ可(か)ひ]をスヱルウエント≪servant≫といふ、ジット眺めているうちに綴り字が浮かんでくるが、かなり難解

 注:⑤上乗をヘボン先生の『和英語林集成』で見ると、ウハノリ、上乗、supercargo  とあり、サスガ明解。≪*≫に≪supercargo ≫を補充。

注:⑧管店人の読み「支配人」を『和英語林集成』で見るとsuperintendentとある。司とか頭はsovereignにあるところを見ると、sovereintendent でも意識したのだろうか?識者のご教示を仰ぎたい。

注⑨丁稚[でっち]は『和英語林集成』では shop boy で、ワレットの綴りは依然不明。これも識者のご教示を乞う。

<挿図>
『萬国通商往来』明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2
『和英語林集成』慶応3年(1867)、明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C


「英語寄(1)」(39u)第39丁裏

2009年12月07日 | 文明開化と平仮名英語

 『萬国通商往来』(明治6年出板)の第39丁裏から第49丁裏まで全21頁にわたって「英語寄」が頭注に掲載されている。当時の往来物に掲載の英語とはどのようなものか、その一端を知る上で大へん興味深い。煩を厭わずこれから各ページ単位に、週一のペースで掲載予定。皆さんと共に当時の英語を垣間見て、興味を分かち合えれば幸いです。

 頭注は、それぞれ十行にわたり、「通商」つまり商売にかかわる用語を取り上げ、その英語読みを片仮名で表す。つまり片仮名英語を収録している。

 表題として英語寄[いぎりすのことばよせ]、ここで云う寄「よせ」は寄せ集めの意味であろう。或る範囲、つまり商売上の言葉を寄せ集めている。
 表わし方:「(平仮名による振り仮名付きの漢字)・・・を(片仮名英語で)・・・といふ」

 ここでは、振り仮名は[ ]で示し、平仮名の崩し字の読みは()で示す。 崩し字には悩みが尽きない。お気づきの点はご教示を願います。数字は行数を示す。
 ②荷主「尓(に)ぬし」をオウ子(ネ)ルヲフグーツといふ≪owner of goods≫、お手上げ寸前で、それらしい英文字を辿る。
 ③町人「ちやう尓(に)ん」をシテイツシといふ≪英文字不明*≫、注参照
 ④問屋「とゐや」をホールスェールメルチエントといふ≪wholesale merchant≫、これも難解。問屋「とんや」が問屋「とゐや」とはと思ったが、よく見れば問屋「とゐや」のほうが真っ当かも知れない。漢字の読みが面白い。
 ⑤得意「とくゐ」をコストムルといふ≪customer≫
 ⑥買主「可(か)いて」をバイエルといふ≪buyer≫、『改正増補英語箋』(明治5年)には買人「カイテ」とあった。
 ⑦仲人「ちう尓(に)ん」をメテイヱートルといふ≪mediator≫
 ⑧奉公人「本(ほ)うこうにん」をスヱルウヱントといふ≪servant≫
 ⑨人足「尓(に)んそく」をクーリーといふ≪英文字不明≫、『外国商通言葉集』(刊年不明)には「ひやとひ くーりー」とある。注参照
 ⑩「きやく」をゲストといふ≪guest≫

注:③町人「ちやう尓(に)ん」をシテイツシといふ。英文字の見当も付かないが、『和英語林集成』に見えるcitizenの訛りかも知れない。 

注:⑨『和英語林集成』を見ると、ニンソク、人足 coolie とある。さすが時代の鏡といわれるだけあって素晴らしい。

<挿図>
『萬国通商往来』明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2
『和英語林集成』慶応3年(1867)、明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C