文明開化と平仮名英語

流れるような筆使い、崩し字満載の平仮名で書いた英語は日本国開国・文明開化の一時期を象徴するような出来事でした。

「英語寄」落穂ひろい -5

2010年05月31日 | 文明開化と平仮名英語

 難解な見出し語-2

 『萬国通商往来』(明治6年出板)の頭注に英語寄[いぎりすのことばよせ](全209語)が掲載されている。当時の往来物に掲載の片仮名英語とはどのようなものか知りたくてやみ雲に解読の真似事をしてみたところ英文字をイメージ出来なくて困惑するかたわら、見出し語の漢字が今までに見たこともなかった難字やら、思いがけない振り仮名付きの当て字でしばしば立往生するはめに・・・ やむなく中央図書館に駆け込んだ。江戸時代を読む当て字の辞典といはれる『魁本大字類苑』(明治22年刊、谷口松軒著)の復刻版(平成6年、杉本つとむ解説、雄山閣出版)を探し出してくださった。まさに当て字の宝庫。当て字満載に驚いた。

 ここでは、戸惑った当て字4例のうち残り2例を挿図として掲げてみた。取り敢えず書き写すと以下の通り
 3:47o④對話[こむ可(か)い者(ば)なし]をコンウヱルズヱーシュン≪conversation ≫といふ  注:47o④とは第47丁表第4行のこと(以下同様)
 對話[こむ可(か)い者(ば)なし]とは、この読みに初めて出会う・・・『魁本大字類苑』 でみると[武類]の[ムカ]に「○面話ムカツテハナス」「○対面ムカヒアフ」などとある。これでface to face が窺えて有り難い。

 4:49u⑨糶賣[せりうり]をオークシュン≪auction≫といふ
 糶賣
[せりうり]初めてお目にかかる文字、これが「競り売りとは」、この読みを『魁本大字類苑』 でみると「世類」の[セリ]に「○糶賣セリウリ、競買」とある。このような辞書がなければとても確かめられない。

<注>
『萬国通商往来』明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2
『魁本大字類苑』(明治22年刊、谷口松軒著)、復刻版(平成6年、杉本つとむ解説、雄山閣出版)


「英語寄」落穂ひろい -4

2010年05月24日 | 文明開化と平仮名英語

  難解な見出し語-1

  『萬国通商往来』(明治6年出板)の頭注に英語寄[いぎりすのことばよせ](全209語)が掲載されている。当時の往来物に掲載の片仮名英語とはどのようなものか知りたくてやみ雲に解読の真似事をしてみたところ英文字をイメージ出来なくて困惑するかたわら、見出し語の漢字が今までに見たこともなかった漢字やら、思いがけない振り仮名付きの当て字で立往生するはめに・・・ やむなく中央図書館に駆け込んだ。『魁本大字類苑』(明治22年刊、谷口松軒著)という江戸時代を読む珍しい当て字辞典の復刻版(平成6年、杉本つとむ解説、雄山閣出版)を探し出してくださった。まさに当て字の宝庫。当て字満載に驚いた。

  ここでは、戸惑った当て字4例のうち2例を挿図として掲げてみた。取り敢えず書き写すと以下の通り

1:40o⑧管店人[志(し)者(は)い尓(に)ん]をソブリンテンデント≪sovereign+superintendent?≫といふ
 管店人と書いて「しはいにん(支配人)」の読みは驚き
注:
40o⑧とは第40丁表第8行のこと(以下同様)
 「しはいにん(支配人)」の読みを『魁本大字類苑』 でみると[之類]の[シハ]に「○家監シハイニン、管家、掌管人」とある。この中には管店人は見当たらないが、例示のものを見ているとなんとなく当て字としてありそうな気配を感ずるが如何であろうか。

2:41o⑧鋪[里(り)やう可(が)えや]をバンク≪bank≫といふ
 鋪とは今までに見たことのないなんとも難しい漢字、意味不明、「りようがえや(両替屋)」の読みを『魁本大字類苑』でみると[利類]の[リヤ]に○金行リヤウガヘヤ、銀行、兌銀舗、兌換店、金銀舗、兌舗、兌換時銭舗とある。
 いづれも「りようがえや」と読ませている。それぞれたどって見ていただきたい。なんとなくそれらしく見えるが、
パソコンで書くのが精一杯、当て字にあてられた感じだ。

<挿図>
『萬国通商往来』明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2
『魁本大字類苑』(明治22年刊、谷口松軒著)、復刻版(平成6年、杉本つとむ解説、雄山閣出版)


「英語寄」落穂ひろい -3

2010年05月17日 | 文明開化と平仮名英語
文字数の多い片仮名英語

 『萬国通商往来』(明治6年出板)の頭注に英語寄[いぎりすのことばよせ](全209語)が掲載されている。当時の往来物に掲載の片仮名英語とはどのようなものか知りたくてやみ雲に解読の真似事をしてみたところ英文字をイメージ出来なくて立往生することもしばしば。
 そのたびに頼りにしたのはヘボン先生の『和英語林集成』でした。

 挿図として掲げた4例は、片仮名英語の文字数が多い代表例、取り敢えず書き写すと以下の通り
1:40u⑤旅用金[ろようきん]をトラウヱルリングヱクスペンス≪?≫といふ
 注:
40u⑤とは第40丁裏第5行のこと(以下同様)
2:43u⑦送手形[おくりて可(が)多(た)]をトルヲフイントコロドユクシュン≪?  ≫といふ
3:46o⑩量減[可(か)けべ]りをデフイシヱンスイーインウヱイトといふ≪deficiency in weight≫といふ
4:46u⑧
買占[可(か)いし]メをバイヲツブゲーツアンデキーブ≪?≫といふ

文字数の多い片仮名英語は・・・
 1. 40u⑤旅用金→トラウヱルリングヱクスペンス
『和英語林集成』をみたところ、≪ロヨウ、路用、Travelling expenses≫と≪リョヨウ、旅用、Travelling expenses≫が見つかった。路用、旅用に役立てる意味からであろう≪travelling expenses≫複数形が常用のようだ
 2. 43u⑦送手形トルヲフイントコロドユクシュン
これではどうにもならない、お手上げだ。トルヲフイントコロドユクシュンと読みたい。の関係は良く見ると、輪郭がかなり似ている、と書家が誤記したか又は、彫師の誤刻であろう。例示は単語でなくフレーズで of などを含み文字数が多くなると複雑で厄介だ。どうやら letter of introduction と見当をつけるまでにはかなりの時間がかかる。『和英語林集成』では≪オクリテガタ、送手形、 A letter of introduction≫、これをそのまま採用して≪a letter of introduction≫としたい。
 3. 46o⑩量減→デフイシヱンスイーインウヱイト
これは、解りやすい、≪deficiency in weight≫、
『和英語林集成』 を見るまでもないが、確認のつもりでご覧下さい。
 4. 46u⑧
買占バイヲツブゲーツアンデキーブ
上記3のようにはいかない。お手上げだ。困ったときの
『和英語林集成』で≪カヒシメル、買占、To buy up goods and keep them≫、片仮名英語に相当はこのうち太字で示してみた。これを見ていると、片仮名英語を理解するのは容易でないことがお分り頂けるであろう。

<挿図>
『萬国通商往来』明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2
『和英語林集成』慶応3年(1867)、明治学院大学デジタルアーカイブ、横浜開港資料館D.VIII.7C


「英語寄」落穂ひろい -2

2010年05月10日 | 文明開化と平仮名英語

 片仮名の読み違い

 『萬国通商往来』(明治6年出板)の頭注に英語寄[いぎりすのことばよせ](全209語)が掲載されている。当時の往来物に掲載の片仮名英語とはどのようなものか知りたくてやみ雲に解読の真似事をしてみたところ英文字をイメージ出来なくて立往生するなど悩まされた。

 挿図として掲げた三例はその代表例、書き写すと以下の通り
42o②安値[や春(す)ね]をーブ≪?≫といふ
 注:
42o②とは第42丁表第2行のこと(以下同様)
43u⑦送手形[おくりて可(が)多(た)]をトルヲフイントコロドユクシュン≪?≫といふ
44o③積[つも]り書[可(が)き]をリットユンエステイート≪?≫といふ

 これらの片仮名英語を何回か声を出して読んでみても、それらしい英文字が浮かんでこない。もし想起出来る方がおられれば、まさに眼光紙背に徹する方であろう。
 これら三例の片仮名英語を読み解くヒントは実は意外なところにあった。これらの片仮名英語は真ともではなく、いづれも片仮名を読み違えていたようだ。

 1. 42o②安値ープープ とあれば cheap を想起できる。をジット見つめていると、いづれも三画の筆使いで、その上下左右の位置を調整すれば・・・ともにもなるではないか。書家の筆の誤りか、彫師の彫違いのいずれかであろう。片仮名英語は書家とか彫師のレベルでもまだまだ一般的ではなかったようだ。
 2. 43u⑦送手形トルヲフイントコロドユクシュン・・・これで解れという方が無理筋だ。トルヲフイントコロドユクシュンと読みたい。の関係は上記とは異なる。これは、輪郭が似ている、と誤記又は誤刻したらしい。例示は単語でなくフレーズで of などを含み文字数が多いことからより複雑で厄介だ。どうやら letter of introduction と見当をつけるまでにはかなりの時間がかかる。
 3. 44o③積り書リットユンエステイートリットユンエステイート。ジット見ているとの点を伸ばして斜めのストロークと交差させればとなる。とすれば・・・エステイメート estimate で後半はイメージできる。後は何回か声を出して読んでいると written にたどり着く。かくて、written estimate がイメージできるが、如何であろうか。

<挿図>
『萬国通商往来』
明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2


「英語寄」落穂ひろい- 1

2010年05月03日 | 文明開化と平仮名英語

 プロログ

 『萬国通商往来』(明治6年出板)には第39丁裏(39u)から第49丁裏(49u)まで21頁にわたって英語寄[いぎりすのことばよせ](全209語)が頭注に掲載されている。当時の往来物に掲載の商用の英語(片仮名英語)とはどのようなものか、知りたくて昨年12月7日から毎週月曜日に1ページ10語ずつgoo blog で取り上げ、時に難しいところは飛ばして今年の4月26日に取り敢えず読み終えた。

 その間、先人の努力に感心したり、驚いたり、時に悩まされたりの連続であった。
特に気になったのは
<1>見出し語の漢字や振り仮名が難解でしばしば読解不能
<2>漢字の読み、振り仮名はかなり柔軟
<3>片仮名英語で特に気になったのは
  3-1.フレーズとなると冠詞とか of などの読みで更に難解
  3-2.長い片仮名英語は特に厄介
  3-3..片仮名の読み違いがもとで立往生

 始めと終り   

 商売の出発点は荷主にあるということか
39u②荷主「尓(に)ぬし」をオウ子(ネ)ルヲフグーツ≪owner of goods≫といふ、お手上げ寸前で、それらしい英文字を探しあてた。
 注:39u②⇒第39丁裏第2行(以下同様)

 締めくくり209語めは生活で終わる。
49u⑩生活[くちすぎ]をライフ≪life≫といふ
生活の読みが「くちすぎ」とは、これが究極の商売道ということであろうか。柔軟な読みに驚かされる。

<挿図>『萬国通商往来』明治6年(1873)、神奈川県立図書館k670.3/2