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プラジカンテルまとめ

2017-12-26 | 抗菌薬・関連薬剤
題名:Praziquantel treatment in trematode and cestode infections: an update.
雑誌:Infect Chemother. 2013;45(1):32-43.
著者:JY Chai


【導入】
1972年E.MerckとBayerAGによってドイツで開発され、現在では様々な吸虫や条虫の治療で効果が確認されている。例外的にプラジカンテルで治療できない感染症として、肝吸虫のうちFasciola hepaticaやFasicola gigantica、条虫のEchinococcus granulosusやEchinococcus multilocularis、孤虫症(Spirometra erinaceiの幼虫)がある。

【薬物動態】
 プラジカンテルは腸管で80%吸収され、1-2時間で最高血中濃度に達する。20-50 mg/kgを内服すると、最高血漿濃度は0.2-1.0 μg/dLになる。中枢神経では血漿の1/7-1/5の濃度になる。
 ほとんどが肝臓のシトクロムP450で代謝され、蛋白結合力の低いhydroxylated polar metaboliteになる(寄生虫駆除の効果は減少する)。
 プラジカンテルは尿(60-80%)、胆汁(15-35%)を通し24時間以内に排出される。半減期は1-2時間である。
 血液、肝臓、肺吸虫に対しては効果がやや劣るhydroxylated polar metaboliteが主に作用する。血漿中のプラジカンテルはhydroxylated polar metaboliteが主体である。脳嚢虫症(条虫の幼虫による中枢神経感染)は、おそらくhydroxylated polar metaboliteが作用している。

【作用機序】
 正確な作用機序はわかっていないが、Caイオンの急速な流入に伴い寄生虫に形態学的な変化をもたらすことで抗寄生虫作用をもたらすと考えられている。電位依存カルシウムイオンチャネルのβサブユニットが作用点と提唱されている。その他、住血吸虫についてはアデノシン受容体に作用し、カルシウム流入をもたらす機序も考えられている。
組織進入を起こす寄生虫では、宿主の免疫が治療に重要である。マンソン住血吸虫ではプラジカンテルが表面の抗原(27kDAと200kDA蛋白)を曝し、宿主の抗体によって駆除されやすくなる。

【推奨治療投与量と効果】
詳細は本文Table1-3参照

・吸虫
   住血吸虫の治療効果は高い(90%前後)。肝吸虫は住血吸虫の治療効果は同様だが、F.hepaticaとF.giganticaは例外的にプラジカンテル無効(40 mg/kg単回投与、3×25 mg/kg/日×7日間のいずれも無効)である。トリクラベンダゾールが用いられる。肺吸虫は総じて単回投与ではなく、数日間の治療が望ましい。
 ・条虫
   ほとんどが10-25 mg/kgの単回投与で治療できる。小型条虫(H.nana)は自家感染を起こすため様々な成長段階の個体が寄生しており、プラジカンテルが効きづらいことがあるため、一般的に高用量(25 mg/kg)の投与が望ましい(プラジカンテルは成虫には強い抗寄生虫作用を発揮するが、幼虫には効果が低くなるため)。
  条虫の幼虫が起こす嚢虫症では、T.soliumがプラジカンテルで唯一治療可能である。プラジカンテルの治療効果は高いが、脳に寄生した場合はアルベンダゾール単独もしくはプラジカンテル・アルベンダゾールの併用の効果が高いとされる。副作用を減らすため、ステロイドを併用する。
 孤虫症の治療に効果的であるかは見解が定まっていない。E.granulosusやE. multilocularisはプラジカンテル単独では治療失敗することがあり、アルベンダゾールと併用される(特に手術前療法として投与する)。

【組織の回復】
S.manosoniを感染させたネズミを用いた研究では、プラジカンテル治療後5-12週で肝臓内の寄生虫による肉芽腫が半分の大きさになったと報告されている。一方、別の研究ではS.japonicumとS.mansoniの治療後、1年以上にわたり虫卵や肝内肉芽腫が残存したと報告されている。組織学的な異常所見は長期にわたって残存し、速やかには回復しない可能性がある。
肝吸虫(C.sinensis)を感染させたギニアピッグとラットを用いた研究では、4週間のプラジカンテルによる治療を行い、9-12週間後に胆管を調べた際にも組織学的な異常があったと報告されている。
肺吸虫(Paragonimus iloktsuenensis)を感染させたネズミの研究では、4週間のプラジカンテルによる治療を行ったところ、肺障害は速やかに改善していた。しかし、いくつかの虫卵や膠原繊維は肺に残存していた。
腸吸虫(N.seoulensis)は治療3週間で組織障害は完全に回復していた。
嚢虫症(T.sanginata)を感染させた牛では、治療してから20週以上経過した後でも、残存する嚢虫が観察できた。

【プラジカンテルの新しい投与形態】
長時間薬効のある錠剤が開発されている。複数回投与が必要なC.sinensisやP.westermaniに対する代替薬として用いたり、予防薬としての使用が期待されている。

【副作用】
 重篤な副作用は一般的に起きないとされている。腹痛、下痢、めまい、眠気、頭痛などの軽微な副作用が一般的である。副作用を避けるため、睡眠前にプラジカンテルを飲むことが推奨されている。まれに重篤なアレルギー反応が起きることがある。脱感作療法(90分おきに30,60,100,150,300,600,1200mgを内服)で治療が成功した例もある。妊婦に対してS.mansoniの治療目的に40mg/kg単回投与したところ、安全に治療できたと報告されている。

【薬剤耐性】
S.japnicumとS.mansoniに対し、一部でプラジカンテル耐性の可能性が報告されている。その他の吸虫についての耐性例は報告されていない。条虫ではプラジカンテル耐性の報告はない。
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