感染症内科への道標

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成人におけるウイルス性脳炎疑い患者の診療

2012-06-28 | 臓器別感染症:中枢神経系・頭頚部
Management of suspected viral encephalitis in adults e Association of British Neurologists and British Infection Association National Guidelines
T. Solomon et al

Journal of Infection (2012) 64, 347e373

・定義:脳炎とは中枢神経系への直接感染、関連、感染後の原因、非感染性の原因によるものと定義される。
・感染症では数多くのウイルス、細菌(特にマイコプラズマ)、寄生虫、真菌、麻疹後のADEMは感染後脳炎の典型である。非感染性の原因としては抗体関連脳炎
・多くのウイルス脳炎は急性であるが亜急性や慢性の経過が特定で病原体ではあり、特に免疫不全で認められる。 
・脳炎の頻度:全年齢で0.7-13.8 per 100,000
・ヘルペス脳炎が最も一般的であり、発生頻度は1 in 250000 to 500000である。 
・発生頻度は2峰性があり若年、高齢でピークがある。 
・殆どのヘルペス脳炎はHSV-1であるが、10%はHSV-2で発生する。 
・HSV-2では免疫不全、新生児で発生する。 
・VZV, CMVは比較的commonであり、CMVと同様免疫不全で発生する。 
・Enterovirusesはしばしば無菌性髄膜炎を引き起こすが、脳炎の重要な原因である。 
・他の原因としてvoltage-gated potassium channel complex, NMDA receptorの関与の認知が広まってきている。 


どの臨床的特徴が脳炎の疑いとなるか?他の脳症との違いは?原因疾患の鑑別に用いられるか? 
・現在または最近の発熱疾患で行動、認知、性格、意識の変化、新規の痙攣、新規の局所症状を伴う場合は疑って、検索すべきである。(A,II)
・代謝性、中毒性、自己免疫性、非CNSの敗血症は早期に考慮される。(B,III)。特に以前の歴や対称性神経症状、myoclonus、羽ばたき振戦, 発熱がない場合、アシドーシス、説明できないbase excessの減少(B,III)
・亜急性の所見やorofacial dyskinesia、choreoathetosis, faciobrachial dystonia, intractable seizures、hyponatremiaは抗体関連脳炎が疑われるが、これらの特徴は決定的ではない。(B,II)
・検査の優先度は患者の臨床所見により決定される(C,III)

脳炎疑いのどの患者が腰椎穿刺を行うべきか?CTを先立って行うべきか?
・禁忌がない限り速やかに行う。(A,II)
・脳圧更新を示唆する場合にはCTを行う(A,II)。その後はcase by caseで判断する。 
・CTが必要ない場合は速やかに行う(A,II)。
・抗凝固薬治療を受けている患者では、腰椎穿刺前に十分なreversalが必須である。(A,II)。出血性疾患の患者では補充療法が行われる(B,II)。進め方がはっきりしない場合は血液内科と相談する。(B,III)
・腰椎穿刺が行えない場合は24時間毎に、行えるかどうか再評価する。(B,II)

腰椎穿刺からいかなる情報が得られるか?
・初圧、細胞数、培養(感受性)、蛋白、血糖(血清も行う)、髄液は2ml程度別に保存する。Mycobacterium tuberculosis(6ml)は臨床的に疑う場合に行う。 
・初回の腰椎穿刺が診断的でない場合には、2回目の腰椎穿刺を24-48時間後に施行する。(B-II) 

いかなるウイルス検索を行うべきか?
・全てのウイルス性脳炎疑いではHSV(1 and2) PCR, VZV, enterovirusesの検索を行うべきである。(これにより90%をカバーできる)(B,II) 
・追加検索は職業、旅行歴、動物、昆虫接触歴等の臨床所見によりガイドされる(B,III)

抗体検査についてはどの検査を血清、CSFで施行すべきか?
・専門家に相談する。(B,III)
・CSFのPCRが得られない場合は14日後のHSV IgG抗体価を検査する。(B,III) 
・flavivirus encephalitisが疑われる場合はIgM抗体を測定する。(B,II)
・Acute and convalescent blood samplesは特にEBV, arboviruses, Lyme diseases, brucellosis, rikettsioses, ehrlichiosis, mycoplasmaが疑われる場合にとるべきである。(B,II)

どのPCR/培養を他の検体で施行すべきか?
・laboratory specialistと密接に連携して行う。 
・脳炎疑いではthroat, rectal swabsをenterovirus検索で行うべきである(B,II)。Swabsはvesiclesからもあれば提出する(B,II)
・最近のconcomitant respiratory tract infectionがあえれば痰、bronchial lavage, nose, thorat swab/nasopharyngeal wash, aspirateを提出すべきである(B,III)
・mumps疑いであればCSF PCR, parotoid gland duct or buccal swabsを培養、PCRで提出すべきである(B,III)

HIV検査は施行すべきか?
リスクがある場合は全例行う(A,II)

MRIの役割は? 
・診断はっきりしない場合、24時間以内(certainly within 48 hr)で行う.(B,II) 
・MRIができない場合、緊急CT
・MR spectroscopyの役割ははっきりしない。SPECT, PETは急性ウイルス性脳炎疑いでは施行されない。(B,II)

EEGの役割は?
・全例で施行すべきではない(A,II)が、行動変容、精神疾患か器質的疾患がわからない場合は行うべきである(B,II)。
・subtle motor or non-convulsive seizuresが疑われる場合でも行うべきである。(B,II)

ウイルス性脳炎疑いの成人での脳生検の役割は? 
・初期アセスメントでは価値はない。Stereostactic biopsyは1週間で診断がつかない場合でfocal abnormalitiesが画像で得られる場合に行う(B,II) 
・focalでないならば開頭生検は通常non-dominant frontal lobeから行うことがpreferableである。(B,II) 
・熟練したneurosurgeonで行いneuropathologistにより検査されるべきである(B,III)


アシクロビルはHSV脳炎確定患者でどのぐらい長く使用すべきか?経口剤の役割は?
・静注は14-21日間行う(A,II), この時点でHSV PCRが陰性であること。(B,II)。CSFのPCRが以前陽性であれば静注を陰性になるまで行う(B,II)

HSV PCRが陰性であればAciclovirは中止できるか?
・免疫機能が良好であれば中止できる。
・又は、他診断がなされた又はCSF PCRが24-48時間以上あけて連続して陰性でありHSV脳炎のMRIに特徴的でない。 
・HSV PCRが症状出現後72時間以上経った段階で陰性で、意識レベルが変化ないMRIが正常、CSF白血球数が5以下

HSV脳炎でのCorticosteroidsの役割は? 
・randomized placebo controlled trialまではHSV脳炎にステロイドはルーチンに使うべきではない。(B,III) 
・Corticosteroidsは専門家の監督下でHSV脳炎に役割をもつかもしれないが、データが必要である。(C,III)


VZV脳炎の治療は
・特別な治療は必要ない。(B,II) 
・Aciclovir 10-15mg/kg 1日3回±corticosteroids (B, II)
・vasculitic componentがある場合はcorticosteroidsが強く推奨される。(B,II)


どの急性期施設が利用できどの患者をSpecialist unitに搬送すべきか?
・意識レベル低下患者は集中治療室での管理が必要とされ呼吸、脳圧亢進、電解質補正に対する管理を行う。(A,III)
・急性脳炎疑い患者では速やかな神経専門医のコンサルテーションをすべきで紹介24時間以内に速やかに評価を行う。(B,III)
・必要なら鎮静化にMRI,CTを行い必要であればEEGを行う。 
・CSF診断アッセイは必須であり、CSF PCR結果は腰椎穿刺24-48時間以内に利用できるべきである。(B,III) 
・診断がすぐに確立しない場合や治療に奏功しない症例では神経ユニットに移送する。要求の24時間以内に行う.(B,III)


脳炎に罹患した成人やその介護者のリハビリテーション、サポートサービスはどう利用できるか?
・Encephalitis Societyなどによる提供されるサポートがある
・確定、疑い診断なしに退院すべきではない。今後の治療、リハビリテーションに対する外来フォローの調整やプランを退院時に話し合い1回は外来予約を行う.(A,II)
・全ての冠者はリハビリテーションに対するアセスメントのアクセスをもつべきである。A,III

旅行帰りの脳炎疑いでの診療は如何に違うか? 
・マラリア流行地域ではマラリアを疑う。Cerebral malariaが疑われmalaria film resultが遅れる場合には、抗マラリア薬は考慮され専門家の助言を得るべきである。A,III
・地域、国のtropical and infectious disease unitsのアドバイスを求めるべきである。


免疫不全での脳炎疑いの診療での違いは?
・意識レベル変化では経過が長期であれ、臨床所見が微妙で、熱がなく、CSF、白血球が正常の場合でも考慮されるべきである。(A,III)
・腰椎穿刺までのCTは重症の免疫不全では考慮されるべきである。(B,III)。免疫状態で不明であれば腰椎穿刺前にHIV検査の結果を待つ必要はない。
・MRIは脳炎疑いでは速やかに施行すべきである。(A,II) 
・診断的微生物検査は
CSF PCR (HSV1, 2, VZV, enteroviruses
CSF PCR (EB, CMV)
CSF (acid fast bacillus staining, and culture for M. tuberculosis)
CSF, blood culture (Listeria monocytogenes)
Indian ink staining and/or cyptococcal antigen testing for Cryptococcus neoformans
Toxoplasma gondiiに対するCSF PCRが陽性であれば抗体検査 
Syphilisに対してCSFが陽性であれば血清抗体 
他は状況によりHHV 6,HHV 7(CSF PCR), JC/BK virus (CSF PCR), Coccidioides sp, Histoplasma sp
HIV患者はHIVセンターで治療されるべきである(A,II)


抗体関連脳炎での所見と診療はどう違う?
・無治療であった場合に予後不良であるため全ての脳炎疑い患者では疑うべきである。(B,II)
・亜急性発症、orofacial dyskinesia, choreoathetosis, faciobracial dystonia, itractable seizures, hyponatremiaで疑われるが限定しない。(B,II)
・VGKC, NMDA受容体関連脳炎では悪性腫瘍のスクリーニングを行う。(B,II) 
・早期の免疫抑制と腫瘍除去が予後を改善させる。(B,II) 
・免疫不全でのHSV 1,2による脳炎は10mg/kg acyclovir 1日3回で最低21日間治療されるべきであり、CSF PCR assayにより再評価される。CD4 cell countが200×106以上になるまで経口剤が考慮される。
・急性のconcomitant VZV感染はaciclovirで治療される(A,II)
・CNS CMV感染はganciclovir, valganciclovir, forcarnet or cidofovirで治療されるべきである。(A,II)
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