月水食堂のお弁当

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映画「苦役列車」

2012-07-15 06:33:52 | 日記
「苦役列車」を観た後に、ああ、原作はあの芥川賞作家の自伝的小説だったんだと気がついた。

なんともいえない不思議な後味のする作品だった。
主人公には人に心を許せぬ傷がある。時代は昭和の終盤61年から64年頃。

19歳。青春を謳歌するその時期に彼は、日雇いの生活費を家賃もなくなるほど酒、タバコ、そして風俗へと費やすだけの日々を送っていた。

学歴、家族、友人、金、定職を持たず漂い生きる。黙々と現場で重労働をし、ただ腹を満たすだけの食事と暇さえあればタバコをくわえ、鬱憤を晴らすために安酒をあおり風俗に通う。

誰から見ても生産的ではなく、イケてない生き方。でも彼はあきらめている。見栄を張る気もなく観念的で刹那的な生き方を選んでいる。

しかし、そんな彼にもおぼろげながら読書という趣味があり、いつか自分の作品を書きたいと思っていた。

それははかなげな夢だった。夢を抱くことすら否定してきたから。

父親の犯した犯罪をあたかも自分自身の汚点だと戒めてきたから。

現場で知り合った初めての親友。行きつけの古本屋で一目惚れした女の子。

自堕落な曇り空のような彼の生活に、時折晴れ間が現れたような二人の存在。

しかし、破壊的な彼の言動は次第に二人を遠ざける。

どこまでも天涯孤独な彼。その不器用さがあまりに痛い。

三年がたち、現場で負傷した同僚が夢叶えテレビのオーディションで歌う姿を見る。

同僚も中卒がコンプレックスで、自分たちには夢も希望もないと嘆いていた。しかし、泥沼のような生活からはい上がる力を振り絞っていた。

彼は変わった。相変わらず安アパートのその日暮らし。金もなく恋人も友人も家族もない。もちろん肩書もない。

あふれるような感情を、書きなぐる後ろ姿で映画は終わる。

確実な希望ではなく、しかし絶望でもない。

無心で書く彼の背中。飲み屋での乱闘により、傷まみれの裸姿。全て無くしたのは彼の意思。しかし、最後に残ったのはペンだった。

主人公の貫太役は、森山未来が演じていたせいかどこか明るくお茶目で、それに救われたかな。

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