琉球大学名誉教授の木村政昭氏らが著した、『富士山の噴火は始まっている!』(2012年6月発行)という本があります。いろいろな観測情報や報告情報をもとに、富士山の噴火が差し迫っており、「Xデー」は2011年±4年だと主張しています。
新燃岳のように、はっきりとした予兆を捉えられずに噴火が始まってしまうケースもあり、富士山の噴火もいつ起こるか分からないという点は、私も否定するつもりはありません。
ですが、この『富士山の噴火は始まっている!』という本の内容は、あまり信用できません。明らかに間違った記載や、論理推考に自己矛盾があるからです。また、実際の山体膨張などの観測結果に基づいているわけでもなく、異常湧水や動物の異常行動といった週刊誌的な情報ばかりを根拠にしている点も、あまり信頼できません。
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まず、この本では、地震の統計分析が明らかに間違っています。たとえば16ページに、
「富士山北東麓はこれまでほとんど地震が起きない場所だったが、東日本大震災が起きてから急に地震が活発化している」
とあり、
「山梨県忍野村では、東日本大地震までの10年間、震度1以上の有感地震は一度も起きていなかった」
としていますが、これは大ウソです。
気象庁のデータベースを検索すれば分かりますが、忍野村忍草(しぼくさ)では、東日本大震災までの10年間で、震度1どころか、震度4や震度3の地震を数回観測しています(たとえば2004年10月23日の震度4)。震源が富士山近辺のものに限ってみても、神奈川県西部を震源として震度3(2001年12月8日)、駿河湾を震源として震度4(2009年8月11日)を忍野村で観測しています。山梨県東部や神奈川県西部を震源とする震度1や震度2の地震は、検索結果一覧で表示しきれないほど、多数回発生しています。
ですので、「東日本大地震までの10年間地震がなかった忍野村で、有感地震が起きるようになったから、富士山の噴火が起きそうだ」という考察は、明らかに間違っており、的外れも甚だしいと言わざるを得ません。
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それ以前に、山中湖周辺や道志村といった山梨県東部の地下は、プレート活動の影響で極めて地震が多い「地震の巣」であることは、富士山や伊豆を含む付近一帯を研究対象としている地質学者や地震学者には常識です。つまり、「富士山北東麓はこれまでほとんど地震が起きない場所だった」などと言う時点で、木村氏が富士山周辺の地震研究に関してド素人であることがハッキリ分かるのです。
そもそも、震度1以上の有感地震が10年間も起きない場所なんて、日本にあるのでしょうか? そういった疑問も持つことなく、こんな文章を平気で書けてしまうなんて、地震学者としての力量に大きな疑問を感じます。
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また、富士山の噴火が差し迫っているとする根拠として、2012年に報告された富士山斜面における噴煙や蒸気の目撃情報を挙げていますが、これは自己矛盾しています。
同書のなかで木村氏本人が、1992年に都司嘉宣氏(元東大地震研究所)が著した『富士山の噴火』の内容を紹介しており、そのなかで、1880年に出版された本に「絶えず蒸発気の噴出る所あり」「火を用いずして酒を暖め」との記述があることを紹介しています。また、別の刊行物にも、1928年の本では「噴気が最高80度」とあり、「1970年まで熱気があった」ことも分かっているとしています。
つまり、最後の宝永大噴火(1707年)から、少なくとも1970年まで、富士山斜面ではほぼ常にどこかで熱気や噴気が出ていながら、その間ずっと富士山は噴火せず沈黙していたわけです。なのに、2012年に噴煙や蒸気が目撃されたことをもってして、「最近になって噴気が目撃されているから、富士山の噴火は近い」とするのは、明白に自己矛盾しており、全く根拠となっていません。
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ほかにも、2011年の富士宮市の異常湧水について、同年は富士宮市で降水量が非常に多かったこと(たとえば台風15号が9月に浜松市付近に上陸している)を全く無視して、「降水のせいじゃなく火山活動のせい」だと無根拠に断定しています。
また、精進湖付近の赤池はこれまでも数年に一度出現しているのに(だからこそ赤池という名前がついている)、赤池の出現を富士山噴火の兆候だとしてしまっています。このように、全体的に論理展開が強引にすぎます。
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こういった、災害に対する不安を極端に煽る学者の著書や言動は、大衆に注目されがちであり、いちど注目されてしまうと、そういった言動をエスカレートしてしまう学者も多いように思えます。
もちろん、富士山はいつ噴火してもおかしくない火山であることは間違いありませんが、それは別に富士山に限ったことでもないわけです。
警鐘を鳴らすことは重要だと思いますが、明らかに非科学的で非論理的な考察で不安を煽って注目を集めようとするのも、あまり褒められたことではないと考えます。
新燃岳のように、はっきりとした予兆を捉えられずに噴火が始まってしまうケースもあり、富士山の噴火もいつ起こるか分からないという点は、私も否定するつもりはありません。
ですが、この『富士山の噴火は始まっている!』という本の内容は、あまり信用できません。明らかに間違った記載や、論理推考に自己矛盾があるからです。また、実際の山体膨張などの観測結果に基づいているわけでもなく、異常湧水や動物の異常行動といった週刊誌的な情報ばかりを根拠にしている点も、あまり信頼できません。
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まず、この本では、地震の統計分析が明らかに間違っています。たとえば16ページに、
「富士山北東麓はこれまでほとんど地震が起きない場所だったが、東日本大震災が起きてから急に地震が活発化している」
とあり、
「山梨県忍野村では、東日本大地震までの10年間、震度1以上の有感地震は一度も起きていなかった」
としていますが、これは大ウソです。
気象庁のデータベースを検索すれば分かりますが、忍野村忍草(しぼくさ)では、東日本大震災までの10年間で、震度1どころか、震度4や震度3の地震を数回観測しています(たとえば2004年10月23日の震度4)。震源が富士山近辺のものに限ってみても、神奈川県西部を震源として震度3(2001年12月8日)、駿河湾を震源として震度4(2009年8月11日)を忍野村で観測しています。山梨県東部や神奈川県西部を震源とする震度1や震度2の地震は、検索結果一覧で表示しきれないほど、多数回発生しています。
ですので、「東日本大地震までの10年間地震がなかった忍野村で、有感地震が起きるようになったから、富士山の噴火が起きそうだ」という考察は、明らかに間違っており、的外れも甚だしいと言わざるを得ません。
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それ以前に、山中湖周辺や道志村といった山梨県東部の地下は、プレート活動の影響で極めて地震が多い「地震の巣」であることは、富士山や伊豆を含む付近一帯を研究対象としている地質学者や地震学者には常識です。つまり、「富士山北東麓はこれまでほとんど地震が起きない場所だった」などと言う時点で、木村氏が富士山周辺の地震研究に関してド素人であることがハッキリ分かるのです。
そもそも、震度1以上の有感地震が10年間も起きない場所なんて、日本にあるのでしょうか? そういった疑問も持つことなく、こんな文章を平気で書けてしまうなんて、地震学者としての力量に大きな疑問を感じます。
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また、富士山の噴火が差し迫っているとする根拠として、2012年に報告された富士山斜面における噴煙や蒸気の目撃情報を挙げていますが、これは自己矛盾しています。
同書のなかで木村氏本人が、1992年に都司嘉宣氏(元東大地震研究所)が著した『富士山の噴火』の内容を紹介しており、そのなかで、1880年に出版された本に「絶えず蒸発気の噴出る所あり」「火を用いずして酒を暖め」との記述があることを紹介しています。また、別の刊行物にも、1928年の本では「噴気が最高80度」とあり、「1970年まで熱気があった」ことも分かっているとしています。
つまり、最後の宝永大噴火(1707年)から、少なくとも1970年まで、富士山斜面ではほぼ常にどこかで熱気や噴気が出ていながら、その間ずっと富士山は噴火せず沈黙していたわけです。なのに、2012年に噴煙や蒸気が目撃されたことをもってして、「最近になって噴気が目撃されているから、富士山の噴火は近い」とするのは、明白に自己矛盾しており、全く根拠となっていません。
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ほかにも、2011年の富士宮市の異常湧水について、同年は富士宮市で降水量が非常に多かったこと(たとえば台風15号が9月に浜松市付近に上陸している)を全く無視して、「降水のせいじゃなく火山活動のせい」だと無根拠に断定しています。
また、精進湖付近の赤池はこれまでも数年に一度出現しているのに(だからこそ赤池という名前がついている)、赤池の出現を富士山噴火の兆候だとしてしまっています。このように、全体的に論理展開が強引にすぎます。
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こういった、災害に対する不安を極端に煽る学者の著書や言動は、大衆に注目されがちであり、いちど注目されてしまうと、そういった言動をエスカレートしてしまう学者も多いように思えます。
もちろん、富士山はいつ噴火してもおかしくない火山であることは間違いありませんが、それは別に富士山に限ったことでもないわけです。
警鐘を鳴らすことは重要だと思いますが、明らかに非科学的で非論理的な考察で不安を煽って注目を集めようとするのも、あまり褒められたことではないと考えます。
私も木村先生の独自の論理と歯切れの良い見解には興味を持ち、富士山への影響など憂慮していました。
が データの扱いに難があるとすれば 論理が正しくとも答えは正しくなくなりますね。
このサイトでは えてして目立つ世間の論理や結果に対し、厳しくそのデータや統計処理の真贋・検証をされるので 目が覚める様に感じます。参考になります。ありがとうございます。
EM菌でもそうだが、琉球大学ってトンデモ人間しかいないのか
とありますが。長崎県五島市(旧福江市)はあまり揺れません。理科年表のデータを元に授業のネタでよく使いました。
情報ありがとうございます。ご指摘のとおり、確かにあまり地震を感じなさそうな場所ですね。福江島の五島市木場町と五島市富江町繁敷を震度データベースで調べたところ、2011年11月11日を最後に、有感地震がないようで、この地震列島では驚くべきと言えますね。
それでも、最近の10年間では、震度1以上の地震が7回観測されているようです(うち震度2が3回)。五島列島近海を震央とする地震も、このうち4回あります。2005年の福岡県西方沖地震(M7.0)のときも、震度2を観測しています。
10年間も有感地震を感じない場所というのは、どうも国内にはなさそうですね。