今秋衆院解散,与党過半数を確保すれば,来年の総裁選は安泰。そのために少なくとも安倍内閣並みの5人以上の女性大臣を任命して世の婦人たちの支持を取り付けて・・・と,考えたかどうかは知らないが,まだ疲れるほどに任所の仕事をしていなかった大臣たちのうちで党内政治力学に無縁の陣笠大臣たちを総取替し,次期総裁選に支持者となる大臣就任待ちの初入閣組にそのポストを割り振ろう。臨時国会を開いて冒頭解散でも・・とひそかに企んでいたらしい岸田首相。一夜明けて見ればにっくき新聞が「岸田内閣支持率横ばいの35%、内閣改造が政権浮揚につながらず…読売緊急世論調査」,「内閣改造<評価しない>57%、政権浮揚効果は限定的 朝日世論調査」,「岸田内閣支持率横ばい25% 発足以来最低タイ 毎日新聞世論調査」「内閣支持率横ばい、改造効果乏しく<派閥均衡>評価せず 優先課題は物価対策 日経世論調査」・・と判で押したように各紙同一見出し。過去に例のない不人気スタート内閣とは相成った。
さもありなん。ひそかに匕首をのむライバルは閣内に「軟禁」し,軽い任所には女性大臣を配して世論に迎合し,「副大臣・政務官は女性ゼロ 前回11人から一転」(朝日新聞)合計54人の多数の中に女性は一人もいないという「正直」さ。かくて,女性大臣5人を生んだ総理の決断は「理念」でもなく,「信条」でもなく,「信念」でも「思想」でもないことを見事に証拠づけてしまったのである。
岸田氏は,これらの用意をして解散に打って出ようとした。その解散の法理と理念を何処に置けば衆議院が解散できるというのであろう? 岸田氏は彼の思慮によって憲法第7条による解散を法的根拠としようとしたであろう。よもや党内不人気とはいえ自公連立政権が憲法69条による不信任を議決すると,岸田氏も想定しないだろうから。かくて,7条で解散するというとき,その根拠は那辺において院を解散するのであろう。そこには「点皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ・・・・(3)衆議院を解散すること」。と,棒で鼻をかんだような条文が書いてある。これに依拠して解散を企むのだろうが,その歴史的事実がいかに「日本国憲法」を軽侮してきたか,そこに意を注ぐ政治的倫理の持ち合わせは,この条文に依拠して衆院解散を断行してきた政治家たちと同様に,岸田氏にも無いのではないか?
この度の内閣改造の下心と,意に反して結果として支持率向上が叶わなかったという現実を前にしてもなお「7条解散」なる不条理を敢行するとなれば,これはもはや無法地帯というしかないのではないか? さての窮地に至って,岸田氏は如何するどうする??・・
(この項,雑誌「世界」2023年11月号橋本基弘:「『自由な解散』が政治を劣化させる」参照)