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現代プレミア加藤陽子×佐藤優×佐野眞一●広大で豊穣なる世界へ、ようこそより

小説家のノンフィクション
加藤 重松清さんが吉村昭の『冷い夏、熱い夏』を挙げて、ノンフィクションと小説の「幸せな融合がここにある」と評しています。小説・文学との関係からノンフィクションを考えてみたいのですが。
佐野 僕が小説家のノンフィクションとして100冊の中に挙げたのは、冒頭に挙げた開高健以外では、中上健次の『紀州』と、武田泰淳の『司馬遷』などですね。
加藤 『紀州』を読むと、中上健次が本当に苦しそうに書いてるなという感じがします。息切れが聞こえる。
佐野 紀伊半島の新宮から紀伊半島をまわって、最後は大阪まで行きますよね。ほんとに苦しそうなんです。カラ元気で饒舌だったりするんだけど、そこがたまらなく切ない。小説の『枯木灘』(小学館文庫)もいい作品ですが、僕にとって『紀州』は忘れがたい。こういう手法もあるんだなと教えてもらった。自分の出自をめぐって紀行する、いわば地獄巡りのスタイルです。
加藤 土地の匂いが伝わってくる。
佐野 そう、なんか土地が持ち上がってくるというかな、そういう感じなんですよね。
加藤 魚住さんは、『野中広務 差別と権力』を書くとき『紀州』を繰り返し読んだようですね。一見、突拍子もない一地方から物語をスタートさせるというのは、ノンフィクションの王道の一つかもしれません。
佐藤 その場合、のっぺりとしたスペースじゃなくて、空間=トポスなんでしょうね。
佐野 トポスですね。その意味で僕は、柳田國男の『遠野物語』を挙げています。
佐藤 魚住さんの『野中広務──』は画期的な作品だったと思います。出自まで書いたのは、本来、プライバシー侵害で告訴されて然るべき類のものですが、魚住さんは捨て身で書いた。調べ尽くして書くことが自らの「業」なのだという形で括{くく}ったのはうまいやり方だったと思います。
加藤 佐藤さんは、小説とノンフィクションの関係をどう考えますか。
佐藤 結局、リアルなものをどう伝えるかという問題だと思うんです。私の場合、神学を学んだせいか、リアルとは、中世的なリアルなんですね。観念も含めてリアルなんです。目の前にあるもののリアルだけじゃなくて、その背後にある、見えないものもリアルなものだと考える。こういう感覚だから私は、いい小説読みではないかもしれません。でも、小説家の駄作を書く勇気はすごいと思っているんです。
加藤 駄作を書く勇気?
佐藤 私は五味川純平が好きなんですが、彼の『孤独の賭け』(全3巻・幻冬舎文庫)という駄作が面白いんです。
佐野 たしかテレビドラマになりましたよね。
佐藤 ええ。長谷川京子さんが出ていました(TBS『孤独の賭け~愛しき人よ~』)。五味川純平は『人間の條件』(全6巻・三一新書。岩波現代文庫版は全3巻)という大作で軍隊を描いているんですが、主人公の梶に名前がないんですね。美千子は名前があるけども、梶の名前は最後まで分からない。それは、軍隊がやっぱり官僚組織であることと関係があると思うんですね。官僚組織って自分たちの同僚の名前が往々にして分からないんです。公的な世界での接触しかないから、苗字しか必要ないんです。梶に名前が与えられないまま、6冊の本を最後まで、不自然な形にならずに書き通せているのがすごいと思うんです。
 軍隊の中は、公的な世界だから、苗字だけでもいいとしても、戦争は人間を巻き込む。彼は人を描きたかった。そうすると、どうしても女性を書かないとならない。それで『人間の條件』の後でライフワークである『戦争と人間』(全9巻・光文社文庫)に取り組むことを決めた。そして『戦争と人間』の前に『孤独の賭け』という駄作を書いたんだと思うんです。百子という、上昇志向が強い、たたき上げの女性を描いた。その女性の姿が実は、その後の『戦争と人間』の中では、五代由紀子の形になったり、鴻珊子{おおとりさんこ}になったりした。だから、一回、駄作を書く勇気というのを持っている作家はすごいと思うんです。習作を一回、書く。

■話題に上がった書籍リンク
冷い夏、熱い夏
紀州
司馬遷
野中広務 差別と権力
枯木灘
遠野物語
孤独の賭け〈上〉
人間の條件 第1部
戦争と人間 (1)


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