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現代プレミア加藤陽子×佐藤優×佐野眞一●広大で豊穣なる世界へ、ようこそより

開高健の最高傑作
加藤 出版不況の中、総合月刊誌の休刊が相次ぎ、ノンフィクションは「冬の時代」を迎えたと言われております。しかし本当にそうでしょうか。読み解かれるべき事件も、埋もれたままのテーマもまだまだたくさんあるように思います。「冬の時代」だからこそ、ノンフィクションの面白さ、魅力をあらためて考え直したい。今日は私、読者の代弁者として、佐野さん、佐藤さんから、ノンフィクションにとって何が大切かについて、お話を存分に引き出したいと思います。まずは、100冊を選ぶにあたっての苦労をお聞かせください(※1)。佐野さん、いかがですか?
佐野 いや、書庫に入ったり、古い本棚を探したり、選ぶ作業が楽しかったんですよ。ノンフィクションは非常に豊かな文芸だということをあらためて感じました。
佐藤 文芸ですか?
佐野 僕にとってノンフィクションの定義は、「名詞と動詞だけで書く文芸」なんです。形容詞や副詞は腐りますからね。たとえば、開高健の『ベトナム戦記』や、多くの選者がリストに挙げている『ずばり東京』。これらはどうしても、時代によって作品の価値が移ろうと思うんです。
加藤 野村進さんもたしか選評の中で、「ノンフィクションの移ろいやすさ」について書かれていたような。
佐野 でも、僕はノンフィクションは必ずしも移ろいやすいとは思わない。移ろわない作品という意味で、開高の最高傑作ノンフィクションは対談集の『人とこの世界』だと思います。大岡昇平、石川淳などうるさ型に対して、さすがの開高も緊張している。そのおかげで、贅六的な鼻持ちならない彼の大阪人気質が削ぎ落とされている。
加藤 佐藤さんはどうですか?
佐藤 まず、ノンフィクションというのは、定義と実態がズレていると思うんです。本来、「~ではない」という形での否定神学的定義です。
佐野 「フィクションではない」ですからね。変な言葉ではあります。
佐藤 フィクション以外は全部ノンフィクションなんです。ところが最近、雑誌『ダ・ヴィンチ』(メディアファクトリー)の書評子を引き受けたんですが、『ダ・ヴィンチ』には、本のカテゴリーとして「フィクション」「ノンフィクション」ともう一つ「エトセトラ」がある。「エトセトラ」に、すごく悩みました。その苦悩が、今回の選考にも影響を与えています。
加藤 ハハハ。ノンフィクション以外にエトセトラもある、と。じゃあ、ノンフィクションとは何なのか?
佐藤 私の考えでは、まずノンフィクションは現代、少なくとも20世紀につながっていなければならない。たとえばマルクスの著作は少し前まで古いとされていましたが、最近また読まれるようになってきました。『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』や『イギリスにおける労働者階級の状態 マルクス・エンゲルス選集2』をリストに入れたのは、そういう観点からです。代表を選出する者と、代表する者のズレを見事に描いた『──ブリュメール18日』には、今の日本の政局を読み解く鍵があります。エンゲルスが『イギリスにおける労働者階級の状態』で書いている「木賃宿」は、今のネットカフェですよ。歴史の反復現象なんです。
佐野 マルコ・ポーロの『完訳 東方見聞録』が入っているのはどういう理由?
佐藤 今世紀に入って読まれるようになった本として、どうしても入れたかったんですよ。マルコ・ポーロがこれを書いた13世紀は、近代散文法がまだ成立していません。だから「この場所について書こうと思ったけど、途中で気が変わった」とかで6行くらいの記述で終わっている箇所もありますが、これは、当時のノンフィクションなんです。この中に、日本について「ジパングは黄金の屋根の国」とあるのはよく知られていますが、疑問が出てきませんか? それだけ黄金があるんだったら、なぜ彼は日本に行かないのか?
加藤 たしかに。気づかなかった。
佐藤 ちゃんと理由が書いてあるんです。すなわち、ジパングは黄金の国であると同時に、恐るべき人食い人種の国である。誘拐が流行して、身代金を払わないと人質を殺して食っちまう国だとあるんです。ところが、こうしたことは一般に紹介されていません。私は、ここに、都合の悪い情報を排除して流通させるという日本人の特徴が端的に表れていると思うんです。だから、あえて入れてみました。

■話題に上がった書籍リンク
ベトナム戦記
人とこの世界
ずばり東京―開高健ルポルタージュ選集
ルイ・ボナパルトのブリュメール18日
完訳 東方見聞録〈1〉
完訳 東方見聞録〈2〉


■現代プレミアブログ編集部注
※1:『現代プレミア』において、加藤氏、佐藤氏、佐野氏をはじめ10人の作家ひとりにつきノンフィクション100冊を挙げていただいた。


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