月刊パントマイムファン編集部電子支局

パントマイムのファンのためのメルマガ「月刊パントマイムファン」編集部の電子支局です。メルマガと連動した記事を掲載します。

『パントマイムの歴史を巡る旅』第28回(佐々木博康さん(4))

2015-04-08 01:12:40 | スペシャルインタビュー
(インタビューの第4回は、日本マイム研究所の活動の話の続きです)
編集部 海外公演に行かれることもあるのでしょうか。
佐々木博康(以下、佐々木) 海外では、フランス、ドイツ、イタリア、ギリシャ、ルーマニア、韓国など8ヵ国以上で公演を開催しました。最後に行ったのは、5、6年前で、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、フランスの4ヵ国をまわりました。
編集部 海外公演は、向こうから招待されて行くことが多いのでしょうか。
佐々木 大体は日本で交渉と言いますか、公演の企画を先方に打診すると、返事が来る場合もあるし、フェスティバルに申し込みをして行くケースもあります。公演の費用は、団体などからの補助もありますが、全額は出ません。最初は自腹で行っていました。僕は、あまり人からお金を頂いて行くのは好きではないですが、貧乏だから仕方ない(笑)。
編集部 お金の面も大変ですし、海外公演には様々な苦労がありますよね。
佐々木 でも、やっぱり色々な国に行くと良いです。特に、ポーランドやハンガリー、東ドイツ、ギリシャが良いですね。観る人が真剣で、ずっと集中して観ています。ポーランドのある劇場で公演した際は、チケットが前日に完売で、公演の最後に観客全員が立ちあがって、終わっても1時間も2時間も帰らないのです。残った観客と一緒に記念写真を撮りました。
編集部 (その時の写真を見て)お客さんとですか。すごいですね。
佐々木 ポーランドの大使館のご夫妻も来てくれて。芝居と違って、音としてセリフを聞くわけではないから、親近感が湧くのですね。

編集部 海外の著名なアーティストとの交流もあるのでしょうか。
佐々木 僕らが海外公演やった時は、向こうで活躍している方が大体来てくれます。海外に行くと、色々な交流がありますね。
編集部 マルセル・マルソーさんとは、何度もお会いしたのですか。
佐々木 そうです。新橋に稽古場があった頃には、稽古場に見学に来てくれました。マルソーが何度目かに来日した時に、公演を開催する際に、ビートたけしの「誰でもピカソ」というテレビ番組のディレクターが来て、マルソーにこんな事をやって欲しいと相談があったのですが、「そんなことは失礼だよ」と僕が言うと、僕も一緒にテレビに出演することになりました。その番組では、エスカレーターなどのマイムをやったら、僕の方がウケました。後日、マルソーの記者会見があって、僕が呼ばれて、「こちらが日本を代表するマイムアーティストのムッシュ佐々木」と記者の方々に紹介してくれました。彼は非常に親切でした。

編集部 現在、国内では、どういった公演活動をされていますか。
佐々木 今は、3ヵ月に1回程度アトリエ公演があります。また、毎年7月には、江戸東京博物館のホールで、大きな公演を上演しています。昨年は、ビクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」を上演しました。僕は3日前に肋骨を折って出演できなくなりましたが、26年所属している女性の研修生が代役を果たしてくれました。その作品には10人くらいが出演しました。その他には、時々、朗読の方や横笛・ピアノ・琵琶・フルート・ギター等の演奏家の方とジャンルを越えて共演することもあります。アトリエの舞台の方が、ファミリーな感じで公演よりも結構面白いという人もいますね。

編集部 佐々木先生は、ソロ公演はいつ上演しているのですか。
佐々木 マイム歴の節目の40周年、50周年と55周年にソロで上演しました。僕の場合は、40年で初めてのソロリサイタルです。確かに1人で演じている方が生活は楽かもしれませんが、もう47、48年間教えていて、若者に夢を持たせて育てるのがすごく好きです。自分より育てることの方が好きですね。

編集部 長年のご活動の中で非常に大変な時期もありましたか。
佐々木 公演は、いつも幕が上がるまで大変です。古い生徒が多いと良い作品を作りやすいですが、生徒は、いつか去って行きますので、そうなると、また一から教えていかないといけません。いつも新しい人が多いと苦労が多いですね。
編集部 サイクルがあるという感じですか。
佐々木 そうですね。大勢来る時もあれば、少ない時もあるし。昼の部が多くなったり、夜の部が多くなったりしますね。

編集部 クラスについてお聞きしますが、研究所の生徒は何名くらいいらっしゃるでしょうか。
佐々木 今はあんまり多くないです。通常は20名くらいいても、9割以上の人が芝居もやっていますので、芝居が入ると、同じ時期にいなくなってしまいます。レッスンによっては、ごく少数の時もあります。生徒の中には、小学校1年から来ている子がいて、今、中学生1年で6年間やっています。彼女はマイム一筋です。
編集部 小学校からマイム一筋ってスゴイですね。
佐々木 平均すると、3年程度で辞める人が多いです。一番古い生徒は26年目になります。
編集部 レッスンは週何回くらいあるのでしょうか。
佐々木 日曜を除いて毎日あります。週3回・週2回・週1回参加と色々な人がいます。

編集部 代表的な生徒さんを改めて何人かご紹介頂けないでしょうか。
佐々木 三橋郁夫、清水きよし、吉田洋、並木孝雄、ヘルシー松田、パープル、仙波佳子、勅使河原三郎、松元ヒロ、雪竹太郎、中村ゆうじ、はせがわ天晴、石黒サンペイ、「水と油」の高橋淳(じゅんじゅん)、小野寺修二、藤田桃子、すがぽん、ふくろこうじ、「CAVA」、中川善悦、まあさ。他にもいっぱいいますが、知らないでしょ。
編集部 本当にそうそうたる方たちばかりですね。そういう中で、一番佐々木先生の教えを受け継いでいる方はどなたですか。
佐々木 いません。
編集部 いないのですか。
佐々木 別の意味で、面白いのは、「水と油」の小野寺です。彼の作品は、コミカルでシュール。シュールでないとダメだよと思っていたら、そういうのをやっているよね。今僕がやっているのは、小野寺君がいた昔と違って、もっと自分の世界に入ってきています。20年、30年舞台に立つと作風が変わってきて、最初の頃は、自然との関わりは考えていませんでした。今は、人間同士の交流や、宇宙的な規模の世界、空間の意識とかそういうテーマで作品を作っています。僕が育てたいと思っても、僕が理想とするタイプはなかなか来ません。来ても3年程度で辞めてしまうので、もう少し育てたい。
編集部 3年ですとね。
佐々木 そう。10年やってもそんなに上手くなりませんから。役者でも10年で上手い人は聞いたことがありません。やっぱり、20年から30年で少し格好が付くという程度です。第一、テレビドラマを観ても上手いと思うのは、50歳以上の俳優です。上手い俳優は、1行のセリフを言っても、今までずっと経験していたことが表現できます。僕は、身体を少し動かすことや、立っているだけで、そういうものを表現できるようになりたい。そこが究極の表現だと思っています。究極と言っても、究極に近いものをめざしているというだけです。完成なんて人間100年やってもできない。
編集部 それに近づいていくためには、何をすれば良いのでしょうか。
佐々木 マイムが好きで好きで、稽古しかないでしょ。
編集部 稽古しかないですか。
(つづく)
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アーティストリレー日記(51)かけくみこさん

2015-04-08 01:00:14 | アーティストリレー日記
今号では、パントマイムを細川紘未、コーポラルマイムを藍木二朗、バレエを泉田ひろこに師事し、バリ、台湾などの海外公演にも出演する、若手注目のパントマイミスト、かけくみこさんの日記をお届けします♪

「ヨーグルトマジック」という本を図書館から借りた。

「遊牧民の知恵の結晶。それがヨーグルト」と書かれていて、美味しそうなメニューが並ぶ。残念ながらメニューのすべてを網羅はできずに本は返してしまったけれど、以来ヨーグルト作りがちょっとした生活習慣になっている。

晩に牛乳1リットルを鍋で沸騰させる。

それが人肌に冷めるまで待つ。寝る準備をしていたら大体いい頃合いとなり、そこで大さじ3か4のプレーンヨーグルトを加えて撹拌させる。そのまま鍋をタオルでぐるぐる巻いて保温するか、適当な密閉容器に中身を移してからぐるぐる巻いて保温するかのどちらかである。朝まで待てばヨーグルトができ上がっている。
あまりの簡単さに感動だ。

牛乳の冷まし具合やタオルの巻き加減でヨーグルトの固さが変わり、大体が良い感じに仕上がる。うっかり焦げ臭くなるなんて日もあるが、多少の失敗もご愛嬌。食べれないほど酷くなったことはないので、幸い続けられている。

この作業をしていると、牛なり山羊なりのただの乳を、いかに長く保存し美味しく食すかに心を砕いた人々になんだか尊敬の念が湧く。本にはチーズやバターを作る方法も載っており、シンプルで実用的かつ美味しいレシピの数々を読むと、人々の心もきっと豊かだったに違いないと勝手に感じてしまう。

放牧しながら荒野を旅し、荒野の中でヨーグルトを作って、きっとみんなで食べていたんだろうな。どんな景色だったんだろうか。

現在私の住む場所は新宿のビル群のど真ん中。静寂とは無縁そうだが、夜の新宿はなかなか静かで、部屋の中で灯りを暗めにし、ヨーグルトを作る。これが自分にとって結構いい時間になっている。

ヨーグルトを作りながら、荒野の夜の星を想い浮かべたりしている。

かけくみこ







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