君は誰？ 91

あるキャンプのブログに、松田が写っていた。

直樹は、そのブログの主にメールをして問い合わせをしてみる事に。

「突然ですが、後ろの列の一番右にいる男性について、うかがいたいのですが…。」

「こんにちは。この画像は去年のものです。実は、この後ろの一番右の男性は知りません。私も、連絡をいただいて、はじめて気づきました。キャンプの参加者にも聞いてみたのですが、誰も知らないようです」

「キャンプ仲間と関係の無い人が、どうして、ここにいるのでしょう？」

「わかりません。通りかかっただけ…と、思いたいですが、この場所はかなり山奥です。通りすがりはあり得ないと思います。」

「このキャンプ場を教えて貰えますか？」

直樹は、キャンプ場の場所を聞き出すと、実は例の廃学校の裏側、直接行くには少し遠く、違う駅から回り込まないとたどり着けない場所だった。

君は誰？ 90

「おい、これ、松田じゃないか？」

数ヶ月経って、正人が画像を見せてきた、あるキャンプ場のもの。

生い茂る森の中の、5人の若者の中のひとりが、松田によく似ている。

「松田だ。このぎこちない顔、松田特有の表情だよ。」

「…だけど、変じゃないか？」

「え？」

「このブログ、日付は去年だ。…だけど、松田はオレたちが遊んでいた頃の学生時代の顔に見える…。」

「そっか…、それじゃ、最近のじゃなくて、昔のものか…。……ん？だけど、この人が持ってるカバン、去年話題になった最新のモノだ…」

「…どういうことだろう…。よし、このブログの作者にアクセスしてみるよ。」

君は誰？ 89

それからは、『M』からのメールが来ることもなく、時折、ダメ元で「大丈夫か？」「返事くれ！」などとメールをしたが、返事は無い。

とりあえず送信できることから、一方的にでもコミュニケーションは取れている…と、信じて、時々、返事がいらないメールをしてみた。

「おい、これ、松田じゃないか？」

数ヶ月経ったある日、正人が画像を見せてきた。

「え？！」

その画像は、あるキャンプ場でのものだ。

木々が生い茂る森の中に、5人の若者がキャンプをしているもので、カメラ目線で写っている。その中のひとりが、松田によく似ている。

君は誰？ 88

「帰れない…」

…という松田からのメールを思い出した。

このノートの殴り書きの「来ないで」「来るな」「帰れ」などの言葉とつながりがある気がする。

松田は"あの日"を境に大変なことになっている…そう思った。

「ダメだ…息苦しい…」

正人が急に自分の胸元を撫でた。

「うん…確かに…、ここに来てから、ちょっと変だ。自分も苦しい…」

さっきから部屋中に舞っている埃が、さらに酸素が薄くしている様な気がする…。

「松田…、どこにいるんだろう…」

正人は、ポツリもつぶやいた。

君は誰？ 87

誰かに荒らされたような松田の部屋を見て呆然としてしいた。

特に机の回りには足の踏み場も無いほど紙くずが散乱している。

紙くずを広げてみても何も書いていない。なんで、わざわざノートやスケッチブックを破いたんだろう…。

机の引き出しを開けたが空っぽだ。

横の本棚に立て掛けてあった、よれよれの大学ノートを開いた。

ページはなぜか一枚一枚を破くことはせずに、しわくちゃにしている。

「来ないで」「来るな」「帰れ」

１ページに一言ずつ謎の言葉が書かれている。

「来ないで」「来るな」「帰れ」

繰り返し繰り返し書かれている。

引っ越す間際の松田は、何かに追われていたのだろうか…。