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東京グリンツィング シェフブログ

フレンチレストランのシェフが紹介する季節の料理と食材

キスとジャガイモのテリーヌ サフラン風味 ルイユソース

2007年10月24日 | 前菜

本日は、前菜の一皿をご紹介します。

キスとジャガイモのテリーヌ サフラン風味 ルイユソースです。

先日、スタッフのご両親から、とても新鮮で上質なキスを送っていただきました。

キスと言いますと天ぷらやフライを思い浮かべますが、お刺身や塩焼きにしても上品でとても美味しい魚です。

賄いで頂いた時にも、その繊細な美味しさにとても感動しました。

日頃あまり食べる機会の少ない魚ですし、ましてやフランス料理のレストランでは、食べた事も見た事も有りません。

自分自身、キスを調理するのは今回が初めてでしたが、何とかフランス料理としてお客様に喜んでいただけないかと考えてみました。

せっかくの上質な食材ですので、身の部分だけでなく頭や骨も使いたいと思いましたので、南仏のブイヤベースをイメージしたダシを作り、冷たいゼリー寄せにしてみました。

作り方は、キスを三枚に下ろし、頭と骨、香味野菜、白ワイン、水で煮込んでダシを取り、更に手長海老と香味野菜、トマト、卵白と共に煮て、コンソメスープの様に澄ませます。

別の鍋に静かに漉してから更に煮詰めて、サフランとゼラチンを加えて冷まします。

塩と胡椒をしたキスの身は、蒸したジャガイモとサフラン風味のダシと一緒にテリーヌ型に詰め、湯煎にして低温のオーブンで火を通します。

オーブンから出したら、軽く重石をして冷蔵庫で冷やし固めて完成です。

下に敷いたソースは、ブイヤベースの定番のルイユソース(ニンニク風味のマヨネーズ)を少しアレンジして、赤ピーマンや魚のスープを多めに加えています。

通常は、メインディッシュとして食べる温かいブイヤベースですが、サフラン風味のゼリーと、その味をたっぷりと吸い込んだキスとジャガイモと共に冷たいテリーヌに変形させた所が、この一皿の面白さです。

しかし、今回キスを送っていただけなかったら、この先も縁の無い食材だったと思いますし、この様なアイデアも出てこなかったのではないでしょうか。

同じ様なテリーヌを作る事があるかもしれませんが、きっとスズキや帆立貝等の無難な食材を使っていると思います。

今回はキスという食材を通して、最初から無理と決め付けずに、とにかく試してみる事の大切さを学んだ気がします。

偶然の出会いでしたが、自分の料理にオリジナリティを感じた経験でした。


コンソメスープのパイ包み焼き 「秋の香り」

2007年10月01日 | 前菜

本日は、前菜の一皿をご紹介します。

コンソメスープのパイ包み焼き「秋の香り」です。

最近は、レストランのメニューにコンソメスープをあまり見かけませんが、丁寧に仕込んだその美味しさは、時代を超えて本当に素晴らしいと思います。

そんなコンソメスープを、クラシカルなパイ包みの一皿に仕立ています。

パイ包みのスープと言いますと、フランスの三ツ星シェフ ポールボキューズの黒トリュフのスープ V.G.E.が有名ですが、1975年にヴァレリー・ジスカール=デスタン大統領の為に作った事がその始まりです。

レストラン ポールボキューズでは、コンソメスープに黒トリュフやフォワグラ、牛頬肉、野菜を入れてパイで包み香ばしく焼き上げていますが、グリンツィングでは少し日本風にアレンジしまして、たっぷりと旬の松茸を入れてみました。

黒トリュフの陶酔する様な妖艶さとは違い、優しく包み込む松茸の香りは、日本の秋をシンプルに感じさせてくれます。

その他の具には、フォワグラやオックステールも入っていますので、スープと聞いて想像される以上に、ボリュームもコクも十分です。

そして、主役のコンソメスープは、最初にオックステールと香味野菜を煮込んでブイヨンを作り、更にたっぷりの牛スネ肉を加えて仕上げる、ダブルコンソメにしていますので、濃厚でリッチな味わいになっています。

注文を受けてからパイ包みをオーブンに入れますので、焼き上がりまで15分程時間がかかりますが、待っていただくだけの価値がある、自信の味になりました。

バターの香り漂う焼きたてのパイに、ざっくりとスプーンを入れると、松茸やフォワグラ、牛肉のコンソメの香りが、湯気と共に飛び出してくるその瞬間に、秋の豊かさを感じていただけると思います。

是非ともこの秋には、贅沢な香りと共に、美味しいワインを楽しんでいただきたいです。

 

さて、話が少し変わりますが、最近考えている事を書かせていただきます。

 

「料理の世界は厳しい」とよく言われます。

その仕事の厳しさとは、何なのでしょうか?

プライドを持った仕事を保つには、適度な緊張感や、その職場での責任やルールの理解等、自他共に厳しさが必要な部分も確かに有ります。

しかし、他のスタッフに対しての仕事の厳しさとは、それと同じ位の優しさや愛情が有ってこそ、成り立つ物ではないのでしょうか?

以前に料理の専門誌を読んでいて、とても感銘を受けた文章があります。

「スタッフを育てるのに大切な理念とは、母心である」

その言葉に、本当に感動しました。

世間には、父親の様な厳しくて怖い料理長は沢山おられます。

しかし、本当に必要なのは、いつもあれこれと気にかけてくれて、困った事が有れば相談でき、いつも同じ目線で接してくれる、間違ったりしてもその時は厳しく諭しても、最後には許してくれる、母親の様な料理長ではないのでしょうか?

自分自身今までの人生で、母親の一言にどれほど救われたか数えきれません。

 

フランス料理に限らず調理業界は、いつも人材に不足しています。

優しさや愛情の無い厳しさで、スタッフを辞めさせる事が、料理長や上司の仕事では有りません。

どうしたら、この仕事を長く続ける事が出来るのかを考える事が、本当に大切だと思います。

 

そうは言いましても、4年前にグリンツィングに来てから料理長になった当初は、そこまで深く考えていませんでした・・・ 

スタッフの気持ちの大切さを、一緒に働いた仲間から一つ一つ教えて貰いました。

 

料理人は、物や道具ではなく、花や草木の様に、大切に人を育てる職業であって欲しいと思います。

 

今日は、偉そうな事を言いまして申し訳ありません。

 

 


高座豚スネ肉のゼリー寄せ パセリ風味 ブルゴーニュ風

2007年08月25日 | 前菜

本日は、前菜の一皿をご紹介します。

高座豚スネ肉のゼリー寄せ パセリ風味 ブルゴーニュ風です。

グリンツィングでは、前菜に豚肉の自家製シャルキュトリー(加工品)をメニューに載せています。

豚肉の田舎風パテや、豚頭のカリカリ焼き等がありましたが、夏の暑い時期にサッパリと食べていただける前菜として、今回は冷たいゼリー寄せにしてみました。

フランス ブルゴーニュ地方の郷土料理として有名なジャンボンペルシエを、少し自分流にアレンジしています。

作り方ですが、神奈川県産の美味しい豚、高座豚の骨付きスネ肉を一晩塩漬けした後に、湯がいて臭みを抜いた豚足と白ワイン、水、たっぷりの香味野菜、スパイス、香草と共に、じっくりと柔らかく煮込みます。

その後、煮汁に豚肉を一晩漬けて、味を馴染ませる所がポイントです。

翌日、煮込んだスネ肉と豚足をサイコロ状にカットした所に、同じ様にカットした豚腿肉のハムを加え、そこに温めた煮汁と微塵切りにしたパセリ、きゅうりのピクルスを合わせてから、テリーヌ型にバランスよく詰めていきます。

テリーヌ型に軽く重石をして、冷蔵庫で一晩冷やし固めますが、特別にゼラチン等を入れなくても、豚の煮汁だけで自然にしっかりと固まります。

付け合せは、沢山の種類を合わせた香り高いサラダと、白ワイン酢とオリーブオイル、エシャロット、ケッパーで和えた、甘酸っぱいフルーツトマトのマリネを添えています。

本来はソースも無く、有ってもピクルスを添える位の素朴な料理ですが、トマトやサラダを組み合わせる事で、レストランらしい一皿になった気がします。

 

この前菜の生まれ故郷のブルゴーニュ地方には、忘れられない記憶があります。

フランス修行時代、ブルゴーニュ地方は、自分にとってとても大切な場所でした。

有名なワインの産地と言うことばかりではなく、ジャンボンペルシエ等の素晴らしい郷土料理との出会い、その時にお世話になったレストランのシェフと、その家族やお店の同僚との思い出、そして・・・

このブログのタイトルの後ろにある風景は、実はブルゴーニュ地方にあります、ボーヌという町から見た葡萄畑なのです。

最初にフランスに行った時なのでもう9年前になりますが、希望にあふれてフランス修行に来たつもりが、働けない焦りや、言葉も満足に話せない悔しさ、自分の弱さから来る苛立ちや諦め、まさに現実の壁に当たっていた頃でした。

今思えば、フランスだからというわけでもなく、日本にいても現実や仕事、人生はそんなに甘くない事は、同じだったと思います。

お恥ずかしい話ですが、このフランス料理の仕事を初めてから、辛くて辞めたいと思った事は一度や二度ではありません。

その頃の自分も、もう諦めて日本に帰ろうと考えていました。

そんな時に出会った風景が、このブルゴーニュの葡萄畑なのです。

初めて見た時の感動は、今でも忘れません。自分の生まれ育った新潟の風景と全く同じだったのです。

田舎のゆっくりとした時間の中で、見渡す限り何処までも畑で、そして本当に広くて青い空でした。

葡萄畑の作業をしている農家の人達が、見ず知らずの日本人の自分に対して、すれ違うたびに「ボンジュール」と声をかけてくれました。

その穏やかな景色を見ていると、悔しくて涙が出てきたのです。「なんて自分の考えている事は、ちっぽけで情けないんだろう」

そして、「せっかくここまで頑張って来たんだ、先の事はわからないけれど、もう少し頑張ってみよう」と、新たに気持ちを奮い立たせる事が出来たのです。

余計な話が長くなりましたが、今ある自分にとっては、とても大切な思い出なのです。

 

 

 

今回、夏休みに実家に帰った時に撮りました、新潟の風景です。


キンメ鯛のポワレと挽き割り小麦のサラダ仕立て タプナードソース 

2007年06月19日 | 前菜

本日は、前菜の一皿をご紹介します。

キンメ鯛のポワレと挽き割り小麦のサラダ仕立て タプナードソースです。

脂がのって味わいの濃いキンメ鯛を、パリッとフライパンで焼き、そこに冷たい挽き割り小麦のサラダとたっぷりの香草を添えています。

挽き割り小麦のサラダは、フランスでは良く食べるお惣菜の一つで、スーパー等で見かけますし、レストランの賄い料理でもよく食べました。

基本的にはクスクス(仔羊等のお肉と野菜をスパイスと共に煮込んだアラブ諸国の料理)に添える食べ方が多いのですが、冷えた物をドレッシングと野菜や香草、スパイスで味付けしたサラダもとても美味しいです。

今回はより爽快に食べていただきたいと思い、香草のサラダも上に乗せてみました。

この様な料理には、バターや生クリームを使った濃いソースよりも、味に切れの有るタプナードソース(黒オリーブやアンチョビ、ケッパー、等を混ぜ合わせた物)が似合う気がします。

補助的に、バジルの香りのオリーブオイルもかけています。

熱々のキンメ鯛に、サッパリとした冷たいサラダとソースの組み合わせは、暑い季節にピッタリの一皿です。

こんな一皿を太陽の下で食べる事が出来たら、とても幸せだと思います。

この記事を書いている今も、ハーブの香りのする南フランスへまた行きたくなってきました。

 

 

 


豚の頭肉のカリカリ焼き サラダ仕立て

2007年04月21日 | 前菜

本日は、少し変わった食材の一皿をご紹介します。

豚の頭肉のカリカリ焼き サラダ仕立てです。

フランスでは豚の頭肉を、お惣菜屋さんやビストロ等でよく見かけましたが、日本ではほとんど見かけませんし、食べる事の出来るお店も少ないです。

同じ豚肉でも、ロース肉やバラ肉等は人気が有りますし、豚足や内臓等もよく食べられています。

せっかくの美味しい部位ですので、日本でももっと食べる機会が増えて欲しいと思っています。

今回は、ゼラチン質が多く味わいの濃厚な豚の頭肉を、サッパリと食べていただきたくて、サラダ仕立ての前菜にしてみました。

作り方は、豚の頭肉の骨を外して塩漬けした後に、香味野菜と共に軟らかくなるまで煮込みます。

その後、鍋から頭肉を取り出して、温かいうちに丸めて形を整えます。

一晩冷蔵庫で冷し固めてから薄くスライスして、小麦粉を付けてフライパンでカリカリに焼き上げます。

ソースは、定番のラビゴットソース(ドレッシングにエシャロット、ケーパー、ゆで卵、香草、コルニッションを加えた物)です。

最初に皿に冷たいソースを敷き、熱々の豚の頭肉を盛り付けて、その上にたっぷりの冷たいサラダをのせて完成です。

一皿の中に温かい物と冷たい物とが盛り込まれていますので、食べていても楽しいと思います。

この様に、異質の食感を組み合わせた美味しさは、個人的にも大好きです。

熱々の鍋料理に冷たいポン酢を付けて食べたり、柔らかい食感の牡蠣にパン粉を付けてカリカリに揚げたカキフライ等は、理屈なしに美味しいと思います。

 

「理屈なしの美味しさ」で思い出しましたが、毎日営業中には沢山のソースを仕上げなければいけません。

仕込みの段階である程度のベースは作っておきますが、仕上げの作業は料理を盛り付ける直前にします。

生クリームやバターを加えたり、スパイスや香草の微塵切りを加えたり、塩で味を調えたりと、そのつど料理によって変わりますが、何かとする事が多いのです。

そんな時、いちいち理屈を考えながら作っていては、とても間に合いません。

今までの味の記憶と経験、求めるイメージに自然と体が動きます。

どの位の濃度で、味の強さで、酸味で、香りで、色合いで、等を探りながら。

そして「理屈なしに美味しい」となった時に、ソースは完成します。

もちろん料理には、キチンとした意味が必要だと思います。

すべての作業に意味がありますし、ある意味で料理は科学だと思います。

しかし、それを味わうのは生身の人間です。

人は何故美味しいかと聞かれれば、美味しいからと答え。

何故好きなのかと聞かれれば、好きだからと答える。

そこに料理の本当の面白さがある様な気がします。