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つんくさん、ハロー!プロジェクト関連

水神少女あいりん(2)

2011-01-20 | 水神少女あいりん
あ!

っという間にお昼過ぎになりました。


Q区役所前公園も、休憩中の会社員や公務員、散歩をするお年寄りなど、たくさんの人が集まってきました。
そんな人達が驚きの表情をし見つめる先には……一人の女の子がいました。


それは、あの子です。
溺れているところを舞美に助けてもらった、風呂敷担いだ、あの女の子です。



女の子は噴水の中へ、釣り糸を垂らしてました。

そこへ、舞美が走りながらやってきました。



「こんにちは」
舞美が笑顔で話しかけます。
「また会ったね。なにしてるの?」


「あなたは、今朝私を助けてくれた人……」
女の子は、舞美を見て嬉しそうな顔になりました。
「お魚を釣ってるのです。捕れたらあなたにも差し上げますね」


「ありがとう」
舞美も笑顔でこたえます。
「でも私、次のバイト行かなきゃ。釣りがんばってね」
そして手を振り、歩き出しました。


女の子も手を振り、釣りを再開させます。


舞美はしばらくして立ち止まり、首をかしげながら、女の子の元へと戻っていきました。

「ねえ、大変」
舞美が笑顔で女の子に声を掛けます。
「そこ噴水だから、きっと魚いないよ」


「え……」
女の子の表情が固まります。
「本当に? 本当にお魚、いない?」


笑顔のまま、舞美はうなずきます。


「そう、ですか」
女の子は泣きそうな顔で、釣り竿を持ち上げました。
と同時に、お腹の虫が鳴り響きます。


「お腹、すいてるの?」
舞美が心配そうに尋ねます。


黙ってうなずく女の子。


舞美は、笑顔で鞄から弁当箱を取り出し、女の子に差し出しました。
「これ、もしよかったら」


「いいんですか?」
弁当を受け取り、すでにその蓋を開けながら女の子は聞きました。
「わあ、おいしそう」


「お口にあうかどうかわからないけど……」
舞美が言い終わるまえに……


「ごちそうさま!」
女の子はお弁当をすべて食べ終わっていました。
「とてもおいしかったです。ありがとう」


女の子の笑顔を見て、舞美も嬉しくなりました。
「それじゃ私、もう行くね」

女の子が手を振ります。
やがて、お腹一杯になった女の子は、ベンチで寝てしまいました。



舞美は
(あんなに素敵な笑顔で食べてくれたら私までハッピーだわ)
と思いました。

そして。

公園を出ると同時に、女の子に負けないくらいの大きさで、お腹が
ぐうううううううううううううっ
と、音を立てました。




公園のベンチで女の子が再び目を覚ますと、夕方になっていました。

女の子は一瞬
(ここはどこかしら。私はなにしてるのかしら)
と思いましたが、すぐに自分のやるべきことを思い出しました。


風呂敷を身体から外し、ベンチへ置くと中からメモ帳を取り出しました。

メモ帳を開くと、1ページ目にこう書いてありました。

『まず、住むところをさがすべし』

それはそれは汚い字でした。


名誉の為に言っておきます。
女の子が書いたわけではありません。

『すなわち、住み込みで働けるところをさがすのだ!』


「住むところ、か」
女の子は不安そうに立ち上がると、公園を後にしました。



(つづく)

水神少女あいりん(1)

2011-01-19 | 水神少女あいりん
東京都Q区T町9-10-5。

そこに古い一軒家がありました。

表札には消えかかった『木宇戸』の文字。
蜘蛛の巣があるので、『木』の字が『米』に見えてしまいます。


キッチンには髪を後ろで結び、鼻歌を歌いながらお弁当を作っている綺麗な女の子がいます。

長女の舞美、15歳です。


「できたっ」
テーブルの上に置かれた4つのお弁当箱を見ながら、嬉しそうに舞美がつぶやきました。

「やばっ。そろそろ行かないと」
掛け時計は5時半を示しています。


舞美はエプロンをはずし、一番地味な包みのお弁当を取り、自分の鞄に入れました。

「お母さん、行ってきます」
玄関に置かれた遺影に挨拶をし、舞美は家を出て行きました。




Q区役所前公園。

中央に噴水のある美しい公園です。

午後にもなると人で賑わいますが、さすがにこの朝早い時間だと誰もいません。


そこへ舞美がやってきます。
とても速く公園内を走っていきます。

ところが、噴水の前で立ち止まりました。
不思議そうに噴水の中を見ています。

でも、特に変わったところがあるようには見えません。

急がないと、遅刻してしまいますよ舞美さん。


すると。
水面が揺らぎ、泡が立ちはじめました。

舞美は鞄を置き、『天然発汗拳』という武道の構えを取りました。

天然発汗拳は木宇戸家の第一子のみが習得を許されるという、一子相伝の拳法なのです。


ふいに泡が大量し、水の中から人影が現れました。

よく見ると、女の子です。
そして。
よくよく見ると、溺れています。


「大丈夫?」
舞美が心配そうに尋ねます。


「……」
女の子は苦しそうにしています。

舞美は意を決し、噴水に飛び込みました。

そして女の子を助けると、近くのベンチに寝かせてあげました。
女の子は風呂敷を担いでいたのですが、それは枕がわりに使いました。

舞美は自分の鞄からタオルを取り出し、身体も拭いてあげました。


ほどなくして女の子は目を覚まします。

「よかった。気が付いて」
舞美が笑顔で言いました。

「あなたが助けてくれたのですか。ありがとうございます、このご恩は……」
女の子は立ち上がり、慌てて頭を下げました。


舞美は頭を振ります。
「気にしないでいいのよ。それじゃ、私バイトがあるから」

「そんなにびしょ濡れで、平気なんですか?」
女の子が心配して尋ねます。

「私、汗かくといつもこんな感じだし。じゃあね」
舞美はさわやかに去っていきました。


舞美の後ろ姿を、女の子は憧れの眼差しで見つめていました。



再び木宇戸家。

朝の7時半。

サキマイがパンとコーヒーを食べています。

サキは舞美の妹、次女です。中学3年生。
マイは4姉妹の末っ子です。中学1年生。

ということは、もうひとり三女がいるのですが……

「起こしてこようか」
マイが言いました。

「いいからほっとき」
コーヒーをすすりながら、サキが冷静に返します。


するとそこへ、三女のチサトがやってきました。
中学2年生です。


「遅い」
サキが言います。

チサトはなにも言わず、パンにかじりつきました。
「今日も舞美おねえちゃんいないんだ」

「仕方ないでしょ。うちらがこうしてご飯食べられて学校行けるのも、みーたんのおかげなんだよ」
サキは怒っています。
みーたんというのは長女の舞美のことです。


「そんなことはわかってんだよ、ヘタレのくせして偉そうに」
チサトは、サキを小突きます。

そして案の定、いつものように喧嘩が始まります。


「いってきまーす」
関わり合いにならないように、こっそりとマイが立ち上がりました。
もちろん、舞美お手製お弁当箱も鞄に入れて。
「いってきます」と、今度は遺影のお母さんに挨拶し、出ていきました。


サキとチサトも、それから15分程喧嘩し、家を出て行きました。

3人は別々に歩いていますが、同じQ都第四中学校に通っています。


(つづく)